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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
321/446

二人目

一人目は、リルウだった。



蜂蜜色の髪に、紅い林檎のような瞳。すぐに、あの男の親族だとわかった。


ガウナは、リルウに魔力を与える代わりに、自分を後見人としてそばに置くように言った。こうして、ガウナは地位を手に入れた。


おかざり王家に敵が多いとわかったのは、しばらくしてから。最初は、自分とリルウを狙ってくる刺客を魔法で撃退していたが、王城が出来、王都が復興し、人々が“生活”というものを取り戻してから、それもやりにくくなった。


そう。復興は、ガウナの敵だった。


灰と瓦礫の街からは、死体が一つ、また一つと消えてゆく。代わりに家が建っていき、店が立っていき、人々が生活圏内を広げてゆく。

以前なら、殺した刺客を、そこらへんに転がっている死体のそばに置いておけばよかった。だけど、木を隠すにも、森がない。


王都が復興するにつれて、ガウナは、人の目を気にしなければならなくなった。宰相という激務の中、ガウナは数々の先達に出会った。

いつも厳しい顔をしながらも、ガウナのした質問に必ず答えてくれる外務大臣に、中立派として、各派閥間の橋渡しをしてくれる財務大臣。彼らの報告を聞き、教えを受け、ガウナはなんとか政治を回していった。


人の目に触れる機会が多くなるにつれて、狙われる機会も多くなった。けれど、魔法は使えない、死体は遺棄できない。人間社会は煩わしい。




……その時だった。


『私は君を見限った』


形はどうあれ、ガウナに好意的な二人の大臣に比べて、何を考えているかわからないスピレード内務大臣。その内務大臣が、ある日執務室に訪れてきた際に連れてきた飼い犬。いや、鴉こそが、クライス・エドガーだったのである。


『君では、この国を導くことはできない。君のやり方は、正統派すぎる』


ガウナは視線を動かして、銀色に輝く刃を見た。表情一つ変えずに、微動だにせずに、任務を遂行するその姿。陽の下で生きることが難しそうな生き物。


笑みが零れた。


『……死体は』

『……』

『都合の悪い死体は、どうやって処理するんですか?』


人間社会に溶け込もうとしていた。それゆえに、ガウナは、トウェル王から“教えられたこと”を忘れていた。不自然に、真っ直ぐ生きようとしていたのだ。なにも、そんなことはしなくて良かったのに。


わざわざ刃を突きつけて、お話しする時間を設けてくれているのである。ガウナは、柔らかく微笑んだ。


『もちろん、この場合の死体は、私のことです。私は曲がりなりにも宰相という地位にいます。そんな私の死体を、貴方はどうやって処理するのですか?』

『おかしなことを聞くね。命乞いというより、純粋な興味のようだ』


内務大臣は、困っているようだった。やがて、頭を掻いた。


『どうやら私は、君のことを見誤っていたようだ……クライス君、()()()()


クライスが引こうとした刃を、ガウナは右手で握り、膝蹴りをお見舞いしてやろうとした。が、ガウナの膝は空を蹴るだけで、一歩足りなかった。右手のひらに、痛みが走る。


見ると、ざっくりと真一文字に切れていた。まるでクライスの口元のように、と言いたいが、なんと、今はそうでもない。ガウナはそれを、服の袖で拭った。


『クライス、だっけ? 君、私の部下にならない?』

()()を与えるだけじゃ足りないかな?』

『私は貴方ではなく、彼に訊いています。それで、どうだろう。私の部下にならない?』

『……』


クライスは何も喋らなかった。喉でも潰れているんだろうか? ガウナは、肩をすくめた。


『じゃあしょうがないな。内務大臣、クライスを私にください』

『君は、彼に殺されかかってたんだぞ』

『合格を与えたのは、貴方だけではないということです』


滅多にない人材との邂逅に、ガウナの心は浮き立っていた。


『どうでしょうか、内務大臣。彼をくれれば、私が正統派ではないことを証明できますが』

『君の言動は、十分正統派でないから安心したまえ。クライス君、行くぞ……クライス君?』


踵を返して部屋を出て行こうとするスピレード内務大臣。だが、クライスは動かなかった。ガウナは、彼に近づいた。一歩、また一歩。


『ずっと、ボディーガードを探していたんだ。とびきりに強い人間を』

『……』

『リルウと私を守ってくれて』

『……』

『正統派ではないやり方も知っている、それから』


ここまで来て、ガウナは確信していた。


『考えもつかない強敵と戦ってくれる人間を』

『クライス君』


たまらず振り向くスピレード内務大臣。その反応が、如実に語っていた。クライスは、内務大臣の方を見て、はじめて、言葉を発した。


『すみません、シリウス先生』

『〜〜!!』


内務大臣は、額に手を当てた。


『……彼は優秀なんだが、若干戦闘狂の気があってね』

『それはなんとなくわかりました』


ガウナが膝蹴りをした時のクライスの口元は、うっすら笑っていたのである。だから、ガウナは確信した。自分なら、彼の望むものをあげられる、と。


王族の自分達に送り込まれてくる手練れの暗殺者から身を守りたいガウナと、強い人間と戦いたいクライス。利害は一致している。この上なく。


『まあ、いい。また()()()いいだけの話だからな』


若干悔しそうに言って、スピレード内務大臣は、退室していった。クライスを残して。



こうして、ガウナの二人目は、クライスになった。






半ば強奪したようなものだが、強奪して本当に良かったと思っている。クライスは、ガウナのどんな無茶振りにも応えてくれた。ガウナの異端の部分を見ても、離れて行こうとしなかった。


話す言葉は決めてある。被告人席に立ち、あの時の思い出を噛み締めながら、ガウナはクライスのことを糾弾した。


「そもそも、彼が私に近づいたのは、亡きシリウス・スピレード内務大臣の策謀なのですーー」


証言台に立つ彼は、彼らしくない薄ら笑いを浮かべていた。


ガウナは、それに安堵を覚えた。自身も経験したことだ。儀式中は、外界の情報など入ってこない。


ーーそうだ、眠っていてくれ。


深く、深く。


祈りながら、クライスの過去に踏み込んだ。


ーー僕の言葉で、君が傷つくところを見たくないんだ。

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