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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第二審)
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他者を殺す毒

がたごと、がたごと、無駄に豪華な内装の馬車の中では、アントニーの得意げな声が響いていた。


「そんでさ、俺はこう言ってやったわけよ。カエルやヘビは自分のど」

「はあ、すごいっすね」

「聞けや」


馬車の中の空気は、気のせいか、息苦しかった。並び合うのは苦痛、かと言って、向かい合うのも苦痛だった。車内は快適なのに、同乗者が不快である。


裏の情報力は、怪しい宗教の教祖たるシンスが勝っているが、実際の行動力で言えばアントニーが勝っている。

こちらはカルトの教祖(宿無し)、あちらは腐っても侯爵家、現役財務大臣の息子。アントニーを隠れ蓑に裁判関係者に亀裂を入れ、あの腐れ公爵の命を繋ぐことを目的とするシンスの立場は劣勢。


情報力以外で勝てる点といえば魔術だが、シンスのしょぼいにも程がある魔術では、四百メートルをショートカットする“抜け穴”しか使えない。どのみち、馬車で移動するしかないのである。


ゆえに、シンスは自己防衛の手段として、何か別のことを考えながら、アントニーの自慢話に適当に相槌を打つという、上の空作戦を決行していた。


たしか、アントニーはとある子爵令嬢をオトした話をしていたはずである。そんなことはどうでもいい。シンスが考えなければならないのは、あの王様が言っていた、なぞかけの答え。



あの時、気を失ったガウナを迎えにきたシンスは、王様に、もうひとつ問うた。


『なんでこの人は、あの時に死ななかった?』


自分は見ていないが、今は裏切った内務省行政局の長官によると、トウェル王が憑依している最中のガウナは、ジルトに刺されてなお、生きていたらしい。


このトリックがわかれば、“魔女の生贄”という、不自然極まりない防衛手段を使わなくて済むというのが、ガウナの考えだ。

たとえ、ニェルハ・ラマナ(共和国の暗殺者らしい)のような手練れに、公衆の面前で襲われようとも、生きていた理由として、ごく自然に、“当たりどころがよかった”と、嘯くこともできる。


それを聞いておいてくれと、憑依前のガウナに言われたから聞いたのだが、残念。トウェル王は、謎かけしか残してくれなかった。


『答えは自ずから導き出すものだよ。そうすれば、どこにも後悔なんて存在しなくなるからね。だけど、強いて言うなら……』

『強いて言うなら?』

『ガウナ君は、なんと呼ばれているんだっけ?』

『ロリコンクソ公爵?』

『違う』


ーー呼び名、呼び名ねぇ……。


それが、ヒントだが、未だにシンスはその答えに辿り着けていなかった。


ーーロリコンクソ公爵が違うとなると、人でなしとか? それとも、ブラック上司?


考えれば考えるほどに、罵倒しか思いつかなくなり、シンスは頭を振った。


目の前の赤茶けた髪の男を見る。


シンスが聞いていないことがわかっているだろうに、アントニーの話は止まることがない。思考も難航してるし、早く目的地に着いてくれないだろうか。

と、考えていれば、アントニーが片眉を上げる。


「おいこら、露骨に溜め息吐いてんじゃねえぞ教祖様。今俺がありがたーいオハナシをしてやってる最中じゃねえか」

「どうして、子爵令嬢との馴れ初めから、蛇や蛙の話になったんすか?」

「ちゃんと聞いてるのかよ。要はあれだよ。綺麗な薔薇には棘があるってのを、別の言葉に言い換えたかったんだよ」

「それで、蛇や蛙には毒を持っているものがいる、ですか。根本から間違っているのでは?」

「俺もそう思ったけど、教祖様、聞いてなさそうだし別にいいかなって思って」


なんと、あちらも適当に会話をしていただけだった。ある意味、シンスとアントニーは以心伝心だったのである。いらないけど。


「だけど、今考えたら、良い口説き文句だったんじゃねえかな。薔薇が棘をつくるのは、人に摘まれないため」

「何言ってんだこいつ」

「調子乗るなよ真正イケメン。俺ら普通のイケメンは、言葉一つ工夫しないと振り向いてもらえないんだよ」


なぜか敵意を向けられて、シンスは面食らった。


ーーえ、今俺褒められなかった?


そんなシンスの動揺をよそに、なぜか口説き文句を推敲し始めるアントニー。


「そして、蛇や蛙が毒を持つのは、敵から身を守るため。どちらにも美醜の差はなく、どちらにも優劣はない。どうよ?」

「それを今俺に聞かせて何の得があるんだよ」


シンスの目は、たぶん濁り切っていた。相槌を打つのも疲れてきた。なにも考えないというのも、疲れるものである。


アントニーは、画伯が絵の構想を練る時のように、腕を組んで、しばらく目を閉じていた。

やがて、すっと目を開く。


まるで、警句を吐くかのような面構え。


「薔薇が自分の棘で怪我をしないように」

「当然だろ」

「蛇や蛙は自分の毒で死ぬことはない」

「当然だ、ん?」


何かひっかかるものを感じた。


「おい、今のもう一回」

「そんなに気に入ったのかぁ? 蛇や蛙は、自分の毒で死ぬことはない」


ふっ、と決め台詞のようにカッコつけたアントニーだが、そんな態度が気にならないほど、シンスは感動に打ち震えていた。


「こ、これだぁ!」

「はぁ?」

「ありがとよ、アントニー様。正直言って、あんたのことどうやって殺すかばかり考えてたわ! 謝る!」

「ひえっ……」


アントニーが顔を青ざめさせる。一方、シンスはご機嫌だった。


ーーそうか、そういうことだったのか!


アントニーのくだらない口説き文句にヒントを貰ったことは癪だが、これであの、人間社会に執着する公爵様も満足してくれることだろう。


ーー他者を殺す毒。それが答えだ! 

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