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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第二審)
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コンビ結成

メリークリスマス!(なにも関係がない)

脚を組んでふんぞり返ったアントニーは、「なるほどぉ」と言って、にやりと笑った。


「要は、この件にちょおっと異端が関わってると、あの判事が理解すればいいわけだな?」

「そういうことになります」


頷いたのは、ローテーブルを挟んで向かいに座るリラである。アントニーとリラは、無事に家宅捜索を終えたリブラ邸にて、これからの作戦を練っていた。


「あの男は、ゴート様を火刑に処することに、並々ならぬ情熱を注いでいました。なぜならば、異端が大っ嫌いだから」

「アンタ、あの伯爵のことファーストネームと様付けで呼んでんの? あ、すんません睨まないで。こほん、だから、今のところ公爵は正規の手順を踏んで裁かれているわけか。死刑にもされず、懲役ぐらいで済んでるわけだ」

「懲役でも、十分重い罪ですけどね。そうです、この裁判は、言ってはなんですが、あの男にとって比較的どうでも良いことです。貴族にとっての十三年は重い。死刑にせずとも、力を削ぐことはできますから、十三年後に復讐されるとしても、叩きのめせる。そう思っているんでしょう」


アントニーは「へー」と言いながら、アヴェイル判事の能天気ぶりが心配になった。


ーーあの公爵、とことん舐められてるな。


アヴェイル判事と繋がっている以上、清い人物とまでは思われていないだろうが、そこまで脅威にも思われていないわけだ。判事には、本性をうまく隠しているのだろうか。


「十三年後も自分は無事に生きているという自信の表れでもありますね。忌々しい」


舌打ちでもしそうだが、そこはさすがにお嬢様。リラは顔を歪めるだけだった。


「ですから、私たちが狙うとしたら第二審の再審請求です。あの男が、判決を覆したことはありません。名誉に直結しますから。けれど」

「異端に関することなら、自分の名誉なんて二の次で、もう一度裁判してくれる、どころか、無罪にしてくれるってわけか。オーケー、俺に任せな」


アントニーは不敵に微笑んだが、リラはどこか不安そうだった。気の強そうな眉は垂れ下がり、飴色の瞳は伏し目がちに、睫毛の影ができている。


「……あの場では、貴方が適任だと思いましたが、ほんとうに良いのですか。このやり方では、貴方が泥を被りかねない」

「心配してくれてるんだ? なぁに、俺の醜聞に別の醜聞が加わるだけだよ。判事には異端で攻めるとして、陪審員には何で攻める?」

「貴方が使った人心掌握術は?」

「それは使えないかな。他者が違和感を指摘すれば、あれはすぐに解けるんだ」


アントニーは肩をすくめた。現に、リブラ邸は、正気を取り戻した警邏局に、昨日家宅捜索に入られている。ちなみにその結果は、空振りである。


「そうですか、それでは、陪審員の方には、“利益”で攻めましょう」

「“利益”ぃ?」


金でも渡すんだろうか、金は足がつきやすいから、やめた方が良いと思うのだが。


そんなことを言うと、リラがジト目で睨んできた。


「そんな汚いこと、するわけがないでしょう。利益というのは、マウントをとらせることです。貴族はマウントをとることが大好きですからね。おまけに、裁判さえ自分の名誉を増幅させる機会と考えている節があります」 


深い深い溜め息を以って、リラは現状を憂えていた。


「ですが、それは利用することができる。第一審、第二審では、アヴェイル判事が有罪と決めつけていたから、陪審員たちの興味は量刑を重くすることにあった。けれど、再審では違う」

「異端をちらつかせれば、判事は確実にクソ公爵を無罪にする。第二審で量刑作業をした貴族たちに、“間違った判決の”陪審員にマウントを取るチャンスだって、触れ回れば良いわけだ」


アントニーは頷いた。現に、第一審と第二審の陪審員で、互いに(悪い意味で)意識し合っている貴族は知っている。そこらを掻き回してやれば、再審なんてあっという間だ。


アントニーがするのは、分断工作。第一審よりも、第二審の陪審員たちを優位に立たせる作業だ。


「楽勝だな」

「そう言っていただけて、安心しました。ですが、懸念することがひとつ」

「鴉、だっけ?」


ガウナ・アウグストの右腕である(もしくは、だった)、クライス・エドガー。中身が王様の彼は、有力すぎるほどに有力な証言者である。が。


「ま、それは大丈夫だろ」


アントニーが気楽に言うと、リラは怪訝な顔をした。


「どうして?」

「そこは、アイツがなんとかするだろうから」


灰色の髪の少年を思い浮かべる。最終審の前に、クライスと顔を合わせることになったと聞いたから、中身の王様を説得してくれることだろう。根拠はない。強いて言うなら、アイツならやってくれるという信頼。


「俺が裏から、ジルトたちが表から、再審になるように働きかける。見事な連携プレーってわけだ」


アントニーは満足していた。


ハブられがちな自分が、魔術のことを知って、それから、力になれることに。


アントニーには、チェルシーのような魔術はない。ラテラのような、驚異的な身体能力もない。

だが、悪知恵だけはある。カルキ・ダグラスの葬儀の時のように、空気を読まない発言で、“良心”に囚われているジルトの背中を押すだけの。


「そうだ」


リラが驚いた顔をしていた。なぜなのかはわからない。


「どうせ被るなら、綺麗な泥が良い」


リラが出してくれていたハーブティーのカップを持ち上げて、アントニーは苦笑した。


液面に映る自分の顔が、思いの外、腑抜けていたからである。











まあ、そういうわけで。


「汚ねえ泥は被ってくれよな、教祖様?」


ぽん、と肩を叩かれて、シンスは歯軋りした。どうして自分の信者をぶん捕った男に協力しなければならないのか。


それは。


『ジルト君は、リラを仲間に引き入れる。そして必ず、僕を救ってくれる』

『無駄に目をキラキラさせるの気持ち悪いんすけど』


そんなやりとりがあり、このきったない裁判案件で鍵になるのはアントニーだからと、接触するよう指示を受けたのだが……。


「教祖様のきったねえ人脈、存分に使わせてくださいよぉ?」


首に腕を回し、チンピラみたいな絡み方をするアントニーに、早くも堪忍袋の緒が切れそうになるシンス。


「ええ、よろしくお願いします。アントニー様」


それを、爽やかイケメンスマイルで、なんとか乗り越えようとする。こいつは重要人物、こいつは重要人物、こいつは、


「ほぉん? 力関係、よく理解してるじゃねぇか。そうそう、俺の方が偉いから、常に下手に出てた方が良いっすよ?」

「る」

「はぁあ? 聞こえないなぁ?」

「これが終わったら、ぜってえ殺してやるからな!? 覚えてろよクズがぁ!?」


こうして、クソ公爵を救うべく、それ以上のクソと手を組むことになったシンスなのであった。

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