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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第二審)
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高圧的な態度

コーヒーブラウンの髪は、きちんと整えられており、奔放に跳ねている髪などひとつもなかった。  


ジルトは、彼が下を向いて、何かをぶつぶつ言っているときに、さりげなく自分の髪を直した。


彼が顔を上げる。


髪と同じように、本人の神経質さを伝えるかのような鋭い目と、目が合った。しばらく二人で、無言の時間を過ごし。


先に口を開いたのは、彼の方だった。


「……はじめまして、ジルト・バルフィン君。私は、ソマリエ裁判所の判事、トラス・アヴェイル。どうして私がここに来たのかは、わかっているね。君には、裁判所で証言をして欲しいんだ」


アヴェイル判事が来ることは、ハルバの予知でわかっていたが、その理由までは予知できていなかった。だが、アヴェイル判事は、さっさと済ませたいとばかりに話を進ませていく。


「君は未成年だから、証言能力に乏しいだろうね。加えて、アウグスト公爵に口止めされているかもしれない。だが、ありのままの事実を、裁判で証言してくれ」


ファニタによると、アヴェイル判事はガウナの味方だったが、このところの裁判関係の記事を見る限り、敵に回っているのが濃厚とのこと。


ーーまずは、それの確認だったか。


法廷で敵に回っていても、裏ではまだ見捨てていないかもしれない。裁判所の裁判官は、お上から任命されるから、ガウナを見捨てれば、自分がクビになりかねない。


だが、この言い方、完全にガウナを犯人として断定している。どうやらアヴェイル判事は、ガウナを切ることにしたようだ。


……ソマリエ裁判所でできることは、もう終わった。


ソマリエ裁判所は、地方裁判所と、高等裁判所の二つの役割を果たしている。同じ裁判官が、一つの事件について、第一審、第二審を担当するというのは、にわかに信じ難い話だが、どこかの誰かが、四年前に人材ごと王都を燃やしてしまったので、それもやむなし。

一応、陪審制であるから、量刑を決める貴族たちは入れ替わるのだが、そんなのは焼け石に水。ソマリエ裁判所にて、一度下った判決は覆らないことは有名だ。


アゼラ伯爵のスピード裁判が実現できたのは、本人が控訴しなかったこともあるが、この特性による恩恵が大きい。


ーーまあ、今回はそれが不利に働いたんだけど。


大方、ガウナは嵌められたのだと、ファニタは言っていた。

第二審も同じアヴェイル判事が担当すると知っていたガウナは、第一審の時に口を挟まなかった。そこで口を挟んでいれば勝機があったであろうものを、ここは退いただけだと、アヴェイル判事を信じてしまったのである。


結果、ソフィア殺害事件の最終審は、王立裁判所へと委ねられ、アヴェイル判事に残っているのは、それ以外の、ガウナの不正の記録や、ソフィア以外の殺害事件だ。



では、なぜ、今、ジルトに会いにきたのか。簡単だ、自分の経歴に、傷をつけたくないからだ。


公正な裁判をしたいのなら、最初からジルトを呼べば良かった。だが、すべてが決まった後に、証言者として出廷させようとするというのは、“確認作業”に他ならない。


応接室に入ってきて、ジルトの返事を聞かずに話を進めるところ。それから、証言能力に乏しいという決めつけ。明らかに、既に決まったことへの補強だった。


たとえ、ジルトが素直に話したとしても、“凄惨な殺人現場を見た子供の戯言”として処理されるだろう。


ーーだけど。


そんなに軽んじているのなら、いっそ、こうして直々に会いに来る必要もないのではないか。


ジルト達は、ソマリエ裁判所には行ったが、ソフィア殺害事件に関しては、特に喋らなかった。

沈黙を守っている、非力であろう子供を、わざわざ引き摺り出すリスクを冒す意味とは?


ーーとりあえず、情報が必要だな。


学園まで会いに来るという一応の友好的態度に対して、実際の態度は高圧的。早く済ませたいと言わんばかりに、必要最低限のことしか喋らない彼から情報を引き出すには、


「証言はできません」

「は?」


ジルトは、声を震わせた。なるべく小さな声で、下を向いた後、おずおずとアヴェイル判事を見上げる。


「あの時のことを思い出すと、体が震えて仕方ないんです。思い出したくもない……どうして、放っておいてくれないんですか。せっかく、忘れようとしていたのに」

「君には辛い話かもしれないね」


御し易いと思ったのだろう。アヴェイル判事は多少笑みを浮かべて言った。


「だが、君の証言が必要とされている。誇りに思うと良い。君は正義への貢献ができるんだ」

「で、でも、俺の言葉なんて、信じてくれる人はいるんですか。俺は、()()()()()()()()()()()()()?」


ぴくり、アヴェイル判事のこめかみがひくついた。


「証言台に立ってくれるだけで良いんだ。そうすれば、クライス・エドガーは満足する」

「クライスさんが?」

「? クライス・エドガーと知り合いなのかね?」

「え、あ、いや! 新聞で見たんですよ! 有名ですもんねー、彼!」


ジルトは冷や汗をかきながら、誤魔化した。それをどう受け取ったのか、アヴェイル判事は不機嫌になりながら言う。


「そうだ。彼が君の名前を出したばっかりに、私は君に会いに来なければならなかった、というわけだ」

「どういうことですか?」


名前なら、現場にいたリラとランスも知っていたはず。今更ジルトの名前を出したところで……


「クライス・エドガーは、今回の裁判で、一番の重要人物だ。そのクライスが挙げた君を、私は是が非でも、裁判所まで引きずっていかなければならない」


つまり、クライスの機嫌を損ねないために? 


目の前の高圧的な人物が、クライスを恐れていることが、ジルトには信じられなかった。


「そんなに怖いんですか、クライスさんって」

「怖くはない。厄介なだけだ。王家の鴉、エドガー家の末裔。あの卑しい鴉め、どこまで暴くつもりだ」

「どこまで、って」

「とにかく」


据わった目で、アヴェイル判事は言った。


「君が立つと立たないとで、鴉の機嫌は違うらしい。だから、王立裁判所で証言をすること。いいね?」

「はい」


必要なことは聞けたので、ジルトはすんなりと了承した。今度はアヴェイル判事の目を見て。


驚いた様子のアヴェイル判事は、


「その目」

「はい?」

「いや、何でもない」


そそくさと退室する。何かを言いかけたのに、逃げられた。

ジルトは、しばらくソファに沈み込み。


「ま、あの人も大変だってことだな」


肩をすくめる。


ーーあの人も脅されてたから、俺を脅しにきたってとこか。

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