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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第二審)
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邪魔者

セブンスは、御立腹だった。


「なあトウェル、お前は、どっちの味方なんだ? 俺の味方だよなあ?」


と、いうのも、さきの裁判で、クライスに取り憑いたトウェル王が、彼の最愛の弟子の名前を出したからである。


「アイツは巻き込まないって話だっただろうが。どうしてアイツの名前を出してくるんだ」


地獄の底から響くような声を出されても、クライス、というか、中に入った人物は、けろりとして笑っていた。


「巻き込まないも何も、ジルト君は当事者だろう? 目の前でアルネルト嬢を殺しておいて、それはないと思うよ。ねえ、フレッド君?」


唐突に話を向けられて、フレッドは困惑した。


「いや、俺は……」


どう答えるべきか迷った。


忘れられない。驚愕した顔で、自分の名前を口にする少年を。勝ち誇った顔で死んでいった娘を。


フレッドの反応を見たトウェル王は、「ほら」とセブンスを見た。


「君は、目的のためなら、少しの綻びはあっていいと考えているんだろう。終わりよければ全てよし、それが自分の生き方だとね。けれど、それは危うい生き方だ」 

「死んで生き返ったかと思ったら説教か? 偉くなったもんだな、トウェル」

「僕を置いて行った親友が何か言ってるよ、フレッド君」

「二人とも、喧嘩をしないでください。大丈夫っすよ先輩。ジルトは未成年です。アヴェイル判事も、未成年の証言は信じませんって」


トウェル王には悪いが、フレッドはセブンスの味方である。

引きずるものはあるが、敬愛する先輩が、身を切る思いでした選択を否定しようという気は、フレッドには無かった。


それを見たトウェル王は、面白くなさそうな顔をした。


「中途半端な人間が、いちばんタチが悪いんだよフレッド君。この人だから信じられるというのは結構。だが、信じられる人間の重圧にも、目を向けるべきだ。僕は曲がりなりにも、この国を導いてきたからわかる。先頭に立つ人間に必要なのは、後ろで道を選ぶのを待っている人間じゃない、隣に立ち、あれこれと意見を言ってくる邪魔者だ」


必要と言いながら、あんまりな言い草に、フレッドは眉を顰めた。


「どうして邪魔者なんですか」

「おい、フレッド、トウェル」

「それはね、どの道を選んでも、不正解だからさ」


朗らかな笑みで、トウェル王は言った。


「どの道を選んでも正解で、どの道を選んでも不正解なんだ。例えば、僕がやめさせた戦争。クライス君に乗り移ってからさまざまな書物を読んだんだけど、あのまま行っていたら帝国に勝ったのにと書いている書物があって驚いたよ」

「そりゃお前、それを書いてる奴は軍部の実情を知らないクソ野郎だからだろ」


セブンスは相変わらず、慎重に酒を飲んでいたが、その目は据わっていた。


「たられば論を持ち出す奴なんて、最低のクソ野郎だ。軍部は最終兵器を持ち出す機を待っていた〜なんて言葉はあるが、そんなのあったら最初から出してるっての」

「だけど、実際選ばれなかった選択の行き着く先は、誰にもわからない。それゆえに魅力的に写るんだ」


対して、トウェル王は、クライスの体なのでハイペースで酒を煽っていた。


「少しでも良い選択肢を、なんて嘘さ。その時はよくても、後になってこれは間違っていたと言われることなんてザラにある。そのために必要なのが、邪魔者だ」

「邪魔者……」

「そう。すぐに切り捨てることができる邪魔者。声の大きい二番手。それを持っておくと、その邪魔者をスケープゴートにして、名君になることができる」 


真っ黒な瞳が、フレッドを捉えた。その瞳には、何も言うことのできない自分が映っている。


「従順に後ろをついていくだけでは、お荷物にしかならないよ。必要なのはドラマで、障害だ」

「不必要な露悪をひけらかすのはやめろ」


セブンスが、グラスを机に叩きつけた。


「実際にうまくいってないお前に言われたところで、なんの説得力もねえよ」

()()が上手くいっていたら、スピレード君がスケープゴートになっていたよ」


何が面白いのか、くすくすと笑うトウェル王。に、渋い顔をするセブンス。


「クソが……お前なんて、呼び出すんじゃなかった」

「僕は、君と会えて嬉しいよ。なにせ、あっちには」






暗闇しかない。


「やあ、君がアッカディヤ一族の生き残りかな? はじめまして、僕はトウェル・ソレイユ。偉大なるシーリフ王国の……」

「御託は良いんでぇ、さっさと打ち合わせに移らせてもらっていいですか、元王様ぁ」

「ふむ、人の話を聞かないとはなんたる痴れ者だ。死刑にしてあげよう」

「あんたが言うと冗談に聞こえないんだよなぁ……」


時折回ってくる看守の目を盗んでは、ひたすら指を鳴らしていた挙動不審なガウナが、もっと挙動不審になったかと思えば、妙な威圧感を持った男が目の前にいた。名乗らなくてもわかっていた。コイツが、そうだ。


「あのクソガキの名前を出したってことは、完全にセブンス・レイクの味方ってわけじゃないんでしょ。わざわざ自分の正体を教えるような真似をして、あんた、何がやりたいんだ?」

「僕は僕の目的を達成したいだけだよ。そのために、ガウナ君に死んでもらっては困るんだ」

「て、ことは、俺らの味方ってわけだな? それなら話が早い。裁判でこの人に乗り移ったら、この人のフリをしてくれ。クライスも正気に戻るだろうから、ソフィアの殺害について否定してくれ」

「わかった」


あまりにもすんなりと言われて、シンスの時は一瞬止まった。


「や、やけに物分かりがいいな?」

「利害が一致するからね。さぁて、その報酬も、いただいておこうかな」

「へ」


トウェル王が指を鳴らせば、その足元には虹色の枠が現れた。“抜け穴”である。


「これが使えるとバレたら、色々と厄介だからね。でもまあ、君の前ならいいかなって。それじゃあ行ってくるよ」

「どこへ!?」

「もちろん」


彼は片目を瞑った。その表情の憎たらしさといったら。


「迷える子羊のところへさ」

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