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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第二審)
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中身

本人が到底浮かべるべくもない軽薄な笑みを浮かべるクライスは、セブンスにひらひらと手を振った。


「それじゃあ、僕はちょっと行くところがあるから」

「ちょっと待てや」


セブンスは、こめかみに青筋を浮かべて、クライスの後ろ首をふん掴んだ。その口元は、ひくついている。


「お前が今から行くのはソマリエ裁判所だろがよ? ああん?」

「あはは、嘘嘘。嘘だから、首が絞まるって」

「ったく、油断も隙もねえ。すーぐ会いに行こうとしやがってよぉ!」


『アッカディヤの魔術儀式』などという外法を使ったフレッドの先輩は、ずるずるとクライスを引きずっていく。


いつも、セブンスを恨みがましく見ているクライスは知らないだろう。セブンスが、どんなに苦労して裁判所まで証人を引きずって行っているか。


「クソが、やっぱ魔術はダメだ。魔法だったらこのバカ、ひとっ飛びで連れていけるのに」

「おやおや、そんなことを言っていいのかな? 君に不利な証言をしても良いんだよ?」

「お前死んでからまじで性格悪くなったよな!?」


いや、死ぬ前から性格悪かったと思いますよ。と、傍目から見ていて思うフレッドである。


「はっ!」

「ああクソっ、バカが余計なことしたせいでクライスが目を覚ました! もっかい寝てろ!」


ぱちん!


セブンスがやけくそ気味に指を鳴らすと、クライスががくんと揺れ、再び彼が目を覚ます。


「あの、先輩。なにも、この方呼び出さなくても良いんじゃないですか? すごい余計な力使わされてるじゃないですか」

「……」

「先輩?」

「ふふふ、解説しよう」


ようやく、自分の足で歩くようになった彼が、ぽんと、フレッドの肩を気さくに叩いてきた。


「『アッカディヤの魔術儀式』は、死者ならば誰でも呼び出すことができる。しかし、協力するかどうかは死者次第だ。ゆえに、術者は、家族・友人・恋人……自身に協力してくれそうな者を呼び出す必要がある」

「はあ……」

「つまり、セブンスには、僕しか友達がいなかったってことさ! あははは」


と笑う彼は、間違いなく、性格が悪い。セブンスがバツが悪そうな顔をしている。


「しかし、僕を選ぶことができるのは幸運だよ。なにせ、僕は立法に携わってきたからね。大舟に乗ったつもりでいてくれ」


選ぶ。


その言葉に、フレッドは自身の右手を見た。選ばれたのは、彼女である。


「気を落とすことはないよ、フレッド君。大丈夫、全て、丸く収まるようにしてあげよう」

「丸く収まる、ですか?」

「そうだよ。君の罪悪感、失望(すべ)て……浄化して、無くしてあげる。楽しみにしていてくれ」

「おい、何話してんだよ。俺も入れろよ」

「はいはい」


ぱっ、と彼が離れて、フレッドは安堵した。触れられているだけで、生命力が持っていかれそうになったからだ。


ーーこの人だけは、絶対に敵に回したくないな。


気を抜くと、食われそうになる。手玉に取られて、思うままに操られそうだ。

意気揚々と歩く彼は、ばっと、女神像の建つそこを指さした。


「さあさあ、行こうか第二審! ガウナ君をこてんぱんに打ちのめしてあげようじゃないか」






シンスは、失敗したらしい。


『赤毛にロクな奴はいませんよ。信者とられた』


ぶすくれて報告に来たのは、裁判の始まる三時間前。


『なんですかあのチート。馬鹿御曹司じゃないんですか。きっちり当日まで箝口令敷いてるし』


シンスの言う馬鹿御曹司とは、現財務大臣カイリ・マルクスの一人息子である、アントニーのことである。


昨日、リブラ邸で行なわれるはずだった家宅捜索は、失敗に終わった。警邏局と行政局が睨み合う中に、突如ふらりと現れたアントニーは、どういう術を使ったのか……いや、十中八九スピレード仕込みの洗脳術なんだろうが、言葉巧みに、両者の矛を納めてみせたのだという。


ついでに、『魔女の信徒』から、警邏局上層部の人間が、ごっそり抜けたらしい。


『俺がちまちまカウンセリングして、集めた信者がぁ』


嘆くシンスは、アントニーの名前を噛み締めるように言った。 


『アイツだけは絶対許さねえ……俺から信者を奪ったアイツだけは!』


などという、比較的どうでもいい因縁が生み出されるのを見ていたガウナは、謝罪するシンスをテキトーに慰めつつ。


ーーそろそろ、駒を前に進めるべきかな。


と、考えていた。


リラ・リブラを嵌めるのは失敗に終わったが、代わりに別のものが釣れた。


ガウナは、アントニーの背後にいる人物を察していた。影が見えただけでも、胸が高鳴る。


これから始まる第二審も、頑張ってみようと思えるものだ。






最初は、ガウナのことを庇う節があったトラス判事は、今やガウナのことを切り捨てることにしたらしく、即決ということはしなかった。


むしろ、ガウナの罪を深掘りして、完全に有罪を言い渡しにきていた。


それというのも、証人が有能すぎるせいである。


クライスの中に入った人物は、実にこの国の法律を理解していた。まるで、自分が法であるとでもいうように、堂々と、条文を読み上げていた。行政局から派遣されてきた検事の顔は、「自分はいるのだろうか」と戸惑っていた。


ーー法律家でも召喚しているのか?


セブンスが召喚した人物が誰か。それも、目下の疑問である。


あの儀式を使っているからには、セブンスに縁のある人物に違いない。一人思い当たる人物はいるが、いやいや、そんな面倒くさい人物は召喚しないだろう。


「判事」


す、と手を挙げるクライスは、にこりと笑った。


「この事件の重要人物を、法廷に召喚していただきたいのですが」

「良いでしょう。その人物の名前は?」


その名前を聞いた途端、ガウナは、クライスの中にいる人物に確信を持った。


ーーし、私情だ。この男、ものすごく私情を挟んできてる!


愕然とするガウナに、クライス、というか、トウェル王は、ちらりと視線を寄越してみせた。



……ヒントは与えてやった。



そうとでも、言うように。

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