希死念慮
実はこいつもめんどくさい人間です
生き延びてしまった者の気まずさを、彼はずっと抱えていた。
真っ赤に光る王都は、命を燃やし尽くしていた。
「ハルバ、見なさい」
お爺さまが指差した先、遥か彼方にある王宮が崩れ落ちる。今日は王様の誕生日。そこには、沢山の人たちがいたはずだ。
「よく見ているんだ。あれが、我々の宿命だ」
炎に照らされたお爺さまの顔は、いつもと同じ。だけど、ハルバの右肩を掴む手は、がたがたと震えていた。
「許せ、許してくれ……」
誰に許しを乞うているのかはわからない。
「大丈夫だよ、お爺さま。俺も、父さんも、母さんも、兄さんもいるでしょ」
「ああ、私が助けることができるのは、お前たちだけだ……それしか、それしかできないんだ」
その光景を、ハルバが見せられてから数日。お爺さまは、息を引き取った。
老衰だった。
なぜ、祖父がハルバにだけあの光景を見せたのか、未だにわからない。
ただ、そこに立つには、あまりにも若い貴族の来賓を入学式で見た時……吐き気を催したことは覚えている。
大火で亡くなった人々への鎮魂も意味する英雄式典なんてもってのほか。ハルバは不真面目なふりをして、それらをことごとく避けた。
そんな過程で出会ったのが、ジルトである。
彼もまた、思うところがあるようで、だいたい来賓が来る式典をサボっている。
だが、ジルトとハルバには、決定的な違いがある。
それは、ジルトはあの火災の被災者で、ハルバはあの火災の傍観者であるという点。ジルトは火災で家族を亡くし、ハルバは安全な高台から、祖父と王都が燃え落ちるのを見ていただけなのだ。
加えて、彼は、自分が役立たずだという自覚があった。
ダグラス公爵家の次男坊に生まれておきながら、ハルバには、なんの才能もない。二年になってから、領地経営を学ぶように言われて実家に帰るが、天才肌の兄や父の言っていることはさっぱりわからない。
失望されたくないから、その場でわかったフリをするだけで、後になって必死に調べて、こう思う。
なんで俺は、こんな簡単なことすらわからないんだ、と。
それで、思い詰めて家を飛び出して、ジルトのいる寮へ帰るまでがワンセット。三日が限度である。
ジト目ながらも出迎えてくれる友人に、ハルバは安堵を覚える。まだ俺の居場所はある、と。
もちろん、ファニタの噂を聞くたびに、自己嫌悪が強くなることもあるが、概ね平和に過ごせている。
これでいい。このまま、俺は明るくクズに振る舞って、楽しい学園生活を送って、火災のことを忘れて生きていくのだ。
生き延びてしまった者の気まずさと、自分が役立たずだという自覚を彼は併せ持ち、そして、耐え難い罪悪感が生まれた。
目の前の男の言葉に、ハルバは息を呑んだ。
「そんなこと、できるんですか?」
男は頷く。
ハルバは、希望にも似た光を見た。
真っ赤に光る王都。命を燃やし尽くす火。
その光景を、無かったことにできるなら。
数多の失われた命を、取り戻すことができるなら。
役立たずの命なんて、軽いものだ。




