失態
はいじゃあさようなら、というわけにはいかないのだ、世の中は。
「高貴なる私を助けてくれてありがとう。お礼に貴方を家臣にしてあげましょう」
「うわ、めんどくせええ」
誰もいない路地裏。正体晒した王族の前で、不敬な言葉遣いをしてしまった自分は悪くない。
少年は頭を抱えて、目の前の美少女を見た。
フードを外して惜しげもない美貌を晒しているのは、この国始まって以来の悲劇の女王陛下。名をリルウ・ソレイユという。
白磁の肌、波打つ蜂蜜色の髪、魅惑的な紅い瞳。妖精と言われても不思議でない彼女は、地味な町娘の格好をすれども目立つ存在だ。
実際、少年はリルウに助けを求められた時、非常に面倒くさい予感がしたので一度断った。
だが、
「その制服、セント・アルバートのですね。なぜ、式典に参加していないのですか?もしかしてサボ……」
「困ってる人を助けるのは義務ですよね!」
弱みを握られた少年は、リルウを追う男の、注意を逸らす囮を買って出たのだった。
そうして、無事に男を騙せたところで。少年はリルウに制服の袖を掴まれ、詰め寄られていた。
「貴方、名前は?」
「……」
答えない少年。それだけは答えたらおしまいな気がした。押し黙る少年をためつすがめつした後、不意にリルウは彼の懐に手を入れた。
「ちょ、何すっ……ああっ!」
目当てのものを探し出したリルウは、それを開いてにっこり笑う。
「ふうん、ジルト・バルフィンね。これからよろしくね、ジルト」
なぜか甘い響きで名前を呼ばれたジルトは、顔面蒼白。
律儀に生徒手帳を持ってくるんじゃなかったと、過去の自分を呪ったのである。




