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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第一審)
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知りたくなかったこと

前回最後のセリフは次話に持ち越し

何もかも、どうでも良かった。


目指すべきものを失った私には、生きてる意味なんてなかった。それなのに、皆、私を生かそうとする。


『縋れるものが必要なんだって。こんな、無秩序な世界で、ひとごろしよりよっぽどひどいことがある世界で、確かなものが欲しいんだって』


世界にもう一度、木槌と天秤を。人はそれを求めてるんだって。


皆、お父さんやお母さんみたいになれと言う。私だってなりたいけど、もう、なり方を忘れてしまった。だから、もう私に構わないで。私と、あの人たちの似てるところを探さないで。


『君の瞳は、飴色なんだね』


だから、そう言われた時、身構えてしまった。私の瞳の色は、お母さん譲りだから。また私を、あの世界に連れ戻すようなことを言うんじゃないかって。


『急に何なんですか』

『いや、すまない。こんなことを言ったら、不審な人物だね』


その人は、苦笑いしていた。


『綺麗な瞳だと思ったんだ。似たような色でも、こうも違いが出るのかと思ってね』

『だからなんですか。貴方の目も十分綺麗ですけど』


ぶっきらぼうに言ったのに、その人は、鳶色の目を見開いた後……とっても、寂しそうな笑みを浮かべた。


『いいや、私の瞳は、もう薄汚れているんだ。お嬢さん、どうか、その光を失わないで』


そう言って、その人はふらっと消えた。


その時は、変な人に会ったな、くらいにしか思わなかったけれど。


 


夜、ふと思った。


『あの人は、お父さんやお母さんの話をしなかったなぁ』


法律畑の人じゃないのかもしれない。でも、だからって、初対面の人に、目の話をしてくる?


『ふふっ』


その日は、よく眠れた気がする。











リラは、そのことを語る時、とても優しい表情をしていた。


「ーーきっかけなんて、そこらへんに転がってるものだよ。そういうことがあって、私はもう一度、天秤と木槌を、いや、天秤と剣を執ろうと思ったってわけ」


小さなことだったけれど、リラの心には、深く深く、その出来事が残っているのだという。


「だから、あの人を裁判所へ連れていく時は、とっても辛かったなぁ」


執行官ゆえに、リラは、その役目を全うした。自分の瞳の色を褒めてくれた人を、火刑に処すために。 


「だから、私は、あの人を殺した公爵と判事が嫌い。特に、公爵はね。殺してやりたいとさえ思ってる」

「それなら」

「でも、それはできない。ごめんねジルト君。私は裁判で公爵を追い詰めなきゃいけないの」

「どうしてですか」

「あの人は、真っ白じゃないから」


リラは、苦笑していた。


「好きになったから、たくさんたくさん、あの人のことを調べた。もともと、調べることは好きだったし。だけど、少し後悔したかな。調べれば調べるほど、あの人、悪い人だってことがわかったから」


リラは、どこまで知っているのだろう。


「悪い人、ですか?」

「うん。暗殺者を雇って、邪魔な人を殺してたり。大火の後にできた怪しい組織に加入して、怪しい研究をしてたり」

「その、組織の名前は?」

「……『魔女の信徒』。教祖は、シンス・ゲイナー。いつか法廷に引っ張り出してやろうと思って匿ってたんだけど、逃げられちゃった」


なかなか大胆なことをすると思うと同時に、やはり、貧民街の老人にナイフを売らせたのは、あの男だったと確信する。

リラの目的に気付いたシンスが、逆に、ナイフを使って彼女を貶めようとしているのだ。


アントニーの予想は当たっていた。いち早くナイフの使い道に気付いたのは彼だ。アングラの戦いというのも、案外役に立つのかもしれない。


こうなれば、ナイフの話を彼女にして……ファニタが、口を開く。


「それなら、どうして教祖を法廷に引っ張り出そうとしたんですか? そんなことをしたら、伯爵の罪まで明るみに出てしまうと思いますけど」

「貴方は?」

「ファニタ・アドレナです」


ファニタは、静かに名乗った。その名前が意味するものを知っている彼女らしい、慎重な名乗りだった。 


だが、その慎重さも、アドレナという名前の前では霞んでしまったらしい。


リラが、飴色の目を大きく見開いた。


「まさか……貴方、ガイアス・アドレナ男爵の」

「……ええ、そうです。私は、アゼラ伯爵と親友だった男の、娘です」


たちまち、重苦しい沈黙が部屋に落ちた。


ーーこの人、ファニタのことを知らなかったのかな。


調べに調べたその中に、ガイアス・アドレナ男爵の情報も入ってくるはず。それなのに、ファニタの顔も知らないなんて。まるで。


「見ないふりしてたんだ。いちばん悪いことは」


リラが、沈黙を破って、ぽつりと呟いた。


「殺したかもしれない人の家族は。だけど、そっか。“罪”ってことは、あの人は、本当に」

「はい。父は、伯爵に殺されました」


ランスとアントニーが息を呑む。リラは、額に手をあてた。


「やっぱり、親友を殺したかもしれないっていうのは、本当なんだね」


声が震えていた。真っ白じゃないと言いながらも、本当は、期待していたのだろう。


リラがファニタのことを知らなかったのは、調べようとしなかったからだ。調べたら最後、決定的な証拠が出てきてしまうから。


「それも、あの研究が関係してるんでしょう? 判事や公爵のやったことは、ある意味、正解だったわけだ……」

「そうですね。その研究が関係しています。ですが、父が殺されたのは、父の思惑通りなんです」

「思惑通り?」 

「はい」


ファニタは、そこで初めて笑った。


「安心してください、リブラ執行官。父は完全に、被害者というわけではありませんから」


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