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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第一審)
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提案

手を差し伸べタイムは終わりだぁ!

結局、裁判所まで来てしまった。


今日は非番だし、裁判所にはアイツがいるしで、実はここに来たくなかったのは、リラの方だったりする。


「おお〜、ここが裁判所かぁ! 初めて来た!」


はしゃぐアントニーは、敷地内に建っている正義の女神の像を見て、「これ、なにかのプレイ?」と失礼極まりないことを言ってきた。


「目隠しとかエロくない?」

「エロくないです。これは、平等を示しているんです。目の前に立つ者を、偏見の目で見ないように」


言っていて、心の中で苦笑してしまう。なにが平等だ。そんなの、理想論に過ぎない。リラが子供の頃に憧れた女神様は、正義を見ようとしていないだけだ。


それはもう、割り切ってしまったけれど。


「……だから、正義の女神様の目が見えてたら、貴方なんて実刑判決ですからね」

「その前に、法廷に立つ気はないんでご心配なく。寧ろ、立たなきゃいけないのは、君の方だろ?」


わかったようなことを言うアントニー。その落ち着きように、リラは怪訝な顔をする。


「いったい、何を言って」

「あの、リブラ執行官」


声をかけてきたのは、裁判所の入り口を警備する警備員だ。彼は少し困惑しているようで、リラとアントニーを交互に見つめる。


「執行官に、面会の申し出があるのですが」

「……面会?」


もちろん、そんなものは知らない。


「何かの間違いでは? 断っておいてください」

「それが、すでに裁判所の中にいるのです」

「は」


リラは、ぽかんとした後、額に手を当てた。


「どうして通してるんですか。そのための貴方達でしょう」

「マレット執行官が、どうしてもと仰り、それに、面会したいと言っているのは、身元もはっきりしている学生なので」

「……学生?」

「はい。セント・アルバートの制服を着ており、学生証も、この目で確認しました」

「そうですか、わかりました。ありがとう」


ランスとはぎくしゃくしてしまったが、“あの証拠”を保有する仲間という認識は変わらない。来たのがセント・アルバートの生徒なら、エベックの伝言を預かっているのかも。


態度を一変させたリラに警備員は驚いている。だが、かまっている暇はない。今は、その生徒と会わなければ。 


と、リラの肩にぽんと手が置かれた。


「この子、今すげえ気が立ってるんですよ。すみませんね」

「は、はあ……」

「な、ん、で、貴方が私の保護者みたいなポジションになってるんですか。ていうか、貴方にはもう用はないので帰ってください」

「フォローしてあげたのに」


と、口を尖らすアントニーは、図々しくも裁判所の中に入ろうとする。


「とーぜん、俺も呼ばれてるんで、入らせてもらいますよ。ね、警備員さん、いいでしょ?」

「マレット執行官は、彼もお呼びしろと」

「わかりました。許可しましょう!」


「どうしましょう」という警備員の瞳に晒されて、ほとんどヤケクソの気持ちで、リラは叫んだ。






ドアノブに手をかけながら、リラは背後のアントニーを見た。


「いいですか、変な真似をしたら、すぐに法廷に送り込みますからね」

「へいへい」


出会った頃の軽薄さはどこへやら、適当極まりない返事。


ーーどうしてこんなことに。


と、心の中でため息を吐きながら、リラは扉を開ける。




……中にいたのは、四人。


ランスと、そして、あの現場にいた生徒だ。


ーーどっち?


リラは、瞬時に疑問を覚えた。この生徒達は、どっちの目的でここにいる?


セント・アルバートの生徒ならばと思ったが、この子達となると話は別だ。ソフィア・アルネルト殺害の現場にいた生徒達。リラ達が来る前のことを知っている、真実を知っている生徒達だ。


「よーう、連れてきたぜ」


アントニーが、リラの退路を塞ぐように後ろ手にドアを閉める。灰色の髪の少年がソファから立ち上がり、アントニーに礼を言った。それから、草色の瞳を細めて、リラに笑いかける。


「はじめまして、ではないですね。リブラ執行官、俺は、ジルト・バルフィン。セブンス・レイクの弟子です」


ーー弟子?


とは、何なのかはわからないが、稀代の魔術師様の弟子であるジルトは、やけに落ち着き払っていた。それが、リラの焦燥を掻き立てる。


「君は、どうしてここにいるの?」

「貴方を止めるためです」


確定だ。リラはランスを見た。小さく「裏切り者」と呟く。

飴色の瞳を細めた。


「わざわざここに押しかけて、みんなで私を説得しようっていうの? ふふ、笑えるなぁ? ねえジルト君、君は、この裁判の重要さを理解してる? 四年前の大量殺人犯が裁かれる機会が、ようやく巡ってきたんだよ?」

「そうですね。俺の両親を殺したのはアイツなので、喜ばしい限りです」


大衆の憎悪を持ってきたつもりが、個人の憎悪に収斂(しゅうれん)されてしまった。自分も当事者なのだと言われてしまった。


「ソフィアさんの事件がきっかけで、アイツのやってきたことが暴かれ始めている。師匠と、貴方達がやったことは、とっても良いことです」

「うん……だよ、ね?」


あれ。


ーー肯定されてる。


「笑えますよね。今まで悪いことをしてきて、裁かれてこなかったツケが一気に来ている。行ないに対して、相応の罰が与えられようとしている。行政局にも警邏局にも裏切られて。今はまだ懲役や罰金だけど、アイツのやったことからして、王立裁判所に行くのも時間の問題です。首切り台に火刑、アイツが裁かれる日が待ち遠しい」


淡々と言う少年は、別に、公爵を庇っている様子はなかった。草色の瞳が澱み、暗い暗い感情が姿を表していた。


「それなら」

「惜しむらくは」


少年は、笑っていた。


「俺がこの手で殺せないこと。アイツに罰を与えるのが、社会であること」

「……」

「勿体無いと思いませんか、リブラ執行官。裁判っていうのは、あくまで表層です。表に出てきた罪でしか、裁けない」

「……何を言いたいのかな?」

「全部、裁きたくないですかって言ってるんです」


少年の師匠と全く同じ顔で、笑っていた。


「俺が止めたいのは、貴方がアイツを追い詰めるのを、社会に委ねていること。提案したいのは、一緒にアイツを殺すこと」

「……悪いけど、君は強そうに見えない。私の方が強いと思うよ」

「そうですね。でも、アイツを殺せるのは、俺だけなんです」


そこから感じたのは、責任感。罪悪感? そして、信頼感。


「どうしてそんなこと、言い切れるの?」


気のせいだろうか。


「一回殺してるから」


少年の声が、誰か別のものに聞こえたのは。


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