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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第一審)
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鉄槌

楽しそう(他人事)

告げられた名前に、ジルトは絶句した。


その名前は、ジルトにも縁深い名前だが、いちばん関係があるのは。


「あの、人が……」


俯き、つぶやくファニタ。そう、『アッカディヤの魔術儀式』の完成を夢見、ファニタの家族を人質にし、彼女を脅迫した末に、火刑に処された男の名前だ。


「もしかして、あの手紙も……」

「あの手紙?」

「最近、送られてきたらしいんです」


大きく目を見開き、硬直したファニタの代わりに答える。死者からの手紙。最近送られてきた、後悔ばかりの手紙の話だ。


ランスは、それを神妙な面持ちで聞いていた。


「そうか……それは十中八九、アイツの仕業だ。アイツは執行官として、俺と一緒に、警邏局の家宅捜索に付き合ったんだ。その時に見つけて、隠しておいたものなんだろうな」

「どうして今、送ってきたんでしょうか」

「……復讐の目処がついたからだろう」


ランスの声は、重苦しい。


「アイツは、アゼラ伯爵を火刑に処したアヴェイル判事と、アウグスト公爵を追い詰めて、同じ道を辿らせるつもりだ」

「でも、どうやって? あの公爵ならともかく、判事を追い詰めるのは難しいと思いますけど」


ハルバが首を傾げながら言う。


たしかに、今現在罪を問われているガウナならともかく、裁く立場の判事なら、少々リスクは高いが、ガウナを切って終わりのはず。それくらい、この国の司法機関は力が強いのだから。


「どうせ、誤審で追い詰めるつもりなんだろ?」


と、それまで興味なさそうに聞いていたアントニーが、やはりやる気なさそうに言う。


「驚いた。マルクス家の御曹司様じゃないか」

「気付いてたくせに」


わざとらしいリアクションをしたランスに、半眼になったアントニーは、皮肉げに笑った。


「それこそ、あの裁判は誤審だったって結果を得たいわけだな、そのリラって女は。二桁にも上る公訴は、目隠しであり、布石。今回ソフィア・アルネルトを起点にしたのは、失踪直前に調べていたのが、あの伯爵のことだから」


つまり、ソフィアのことはきっかけに過ぎないのだと、アントニーは言う。


「ソフィア・アルネルトは、どうして公爵に殺されなければならなかったのか。それは、公爵にとって都合の悪い人物だったからだ。彼女が調べていたゴート・アゼラ伯爵の事件には裏があり、それを公表しようとしたソフィアは口を封じられてしまった。伯爵も同様。さて、口を封じたのは何者かって話になる」

「なんだか、回りくどいね」


チェルシーが、呆れたように言う。


「私だったら、内部告発するのに」

「それくらい回りくどくないと、あの小心者達は仕留められないってことだよ。もしくは、()()()()が欲しかったから、とか」

「仮の理由?」

「ごほん!」


ランスが大きく咳払いをして、アントニーとチェルシーの会話を打ち切る。


「御曹司様の言った通りだ。リラは伯爵に心酔しているが、同時に伯爵が完全にシロでないことも知っている。だから、あくまでも、伯爵の名誉回復という結果を得られる裁判を選んだ」


完全にシロでないこと、というのは、どういうことだろうか。つまり、あのことも、知っている?


誤魔化すような言動をしたランスを、ジルトは訝しげに見てしまう。


「さすがは、いつも起訴一歩手前で和解に持ち込む御曹司様だ。よくわかってらっしゃる」

「だろ?」


ふふんと笑うアントニーをジト目で見る。


そういえば、この人、付き合っていた女性から裁判を起こされそうになったんだった。


「俺も、二股かけて訴えられることで、六股がバレそうになったからな。連鎖的に他の罪をバラす方法はあるんだって、あの時学んだんだよ」

「もう少し別の方法で学んだ方が良いですよ、アントニーさんは」


と、言うと、ぐしゃぐしゃと髪を撫でられる。


「良い子のジルト君にはわかんないよな〜? アングラにはアングラの戦いがあることが」

「……いつか絶対起訴するからな御曹司。それはともかくとして、ナイフの出どころが判明したのは助かった。このご老人が証言をしてくれれば、アイツを止められるかもしれない」


同じくアントニーのことをジト目で見ていたランスが、嬉しそうに言う。


「さあご老人、どこの誰に売ったかを教えてください」

「それは……」


老人は口ごもり、やがて、観念したように白状した。


「黒髪の男じゃ。おとなしそうで、物腰が柔らかな……じゃが、奇跡のような業を使う男じゃった」

「……は」


予想外の答えに、ジルトはぽかんと口を開けてしまった。セブンスも、あの門番も、決して黒髪ではない。となると、クライス?


一同が驚いている様子を見て、老人も、目を見開いた。


「お前さんたち、あの男を追っているのではないのかね。ワシはてっきり……」

「それって、いつの話ですか!?」

「き、昨日の出来事じゃ。ワシを脅して、同じナイフを買っていった……」

「そうじゃない!」


ランスは、老人の肩を掴んで揺さぶった後、額に手を当てた。


「そうじゃない、そうじゃないけど……なんだ、これ、どうなってる?」






証拠品があるのは、逆に悲劇だ。


「はい、一丁あがりっと!」


家主に気付かれないように、シンスは仕事を完遂した。完璧だ、さすが俺。


あとは、適当に『魔女の信徒』の人脈を動かして、彼女に疑惑の目を向けさせればいいだけ。


「人を呪わば穴二つとは、よく言ったもんだぜ」


それにしても、証拠品が、出どころがわかりにくいもので助かった。


「そこらへんにあるナイフだったらいくらでも言い訳ができるけど、こればっかりはできないもんな〜」


まさに墓穴。まさに迂闊。シンスは肩を震わせた。


「復讐なんてちゃちいこと考えてる信者ちゃんに、教祖様から鉄槌を下してやるぜ。鉄槌は木槌より重いってな、ひゃっはっはっは!!」


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