表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第一審)
294/446

忘れられない人

老人は、うんざりしたような表情だった。


「ああ、あんたもかね」

「……も?」


青年は、目を見開いた。こんなことをやっている人間が、他にもいるというのか。


「もっとも、あちらには貧民街の女王様がついてるから、あんたみたいに当てずっぽうというわけではないかもしれんがね」


貧民街の女王とは、最近公爵に返り咲いた、とある一族の生き残りのことを指す。


「その、女王様はどちらへ行ったかわかりますか?」

「ん」


老人は、北の方向を指さした。


「“落ちる靴通り”に行くと言っていたよ。ワシが教えた店に行くそうだ」


貧民街、深部。青年は老人に礼を言って、歩き出した……。






チェルシーは首を傾げた。


「んー、あそこだと思ったんだけどなぁ。まさか私とあろうものが、一発でたどり着けないとは」

「まあ、俺の師匠だからな」

「なんで得意げなんだよ」


なぜか嬉しそうなジルトに、ハルバが突っ込みを入れる。


「それにしても、すごいですね、チェ、ディーチェル公爵!」

「あ、チェルシーでいいよ。ファニタちゃん」

「じゃ、じゃあチェルシーちゃん! ナイフの特徴を聞いただけで、出どころの当たりをつけるなんて!」


キラキラした目でファニタがチェルシーに迫る。チェルシーは苦笑した。


「ファニタちゃんが特徴を覚えててくれたからね、それが功を奏しただけだよ」

「えへへ……」


と、ファニタが照れ笑いをした時。 


「なあ、なんで俺もここに連れてこられてんの? あのクソ公爵の無実を証明するのとか、嫌なんだけど?」

「アントニーお兄ちゃんは、たくさん危ないところに行っていて、悪い人たちに顔が利くでしょ?」

「それ、褒めてんの?」


微妙な表情をするアントニーが、頭の後ろで手を組みながら、たらたらとついて行き、海に行ってから喋れるようになったラテラが、済ました顔でさっさと着いていく。


「大丈夫、いざとなったら、私がみんなを守るから」

「頼もしいよ。ありがとう」 


ジルトが微笑むと、ラテラは赤面し、アントニーはつまらなさそうな顔をした。が、


「こんなことに巻き込んでしまってすみません、アントニーさん。だけど、アントニーさんの裏社会の力が必要なんです」

「それ、褒めてんの?」

「褒めてます」

「なら、いいか」


と、自分も単純になるアントニーである。


「あ、ほら、見えてきたよ。あそこだよあそこ!」


チェルシーが指さした先には、いかにもといった店構え。




だが、店主は首を横に振った。


「いや、そんなのは、ここで扱ってはいない。扱っているとしたら、さっきのジジイのとこだ」

「あ、合ってたんだ」


と、チェルシーがぽかんとして言うと、ファニタが顔を青ざめさせた。


「嘘を教えられたってことは……はやく、引き返さなきゃ! 逃げられちゃう!」




あの骨董商の老人は、口止めされていたということになる。


つまり、チェルシー達が探りに来た時に、すでに危機を感じて店を畳んで、逃げられてしまう恐れがあるわけだ。


さきほどの店(といっても地面に商品が置いてあるだけである)の前に行くと、ものの見事に、もぬけの殻だった。


「やられた」


チェルシーが悔しそうに言った、そのとき。


「チェルシー様」


ラテラが、一同の前に進み出る。前方から、こつ、こつ、足音が聞こえた。


ここは、王都の陽の当たる場所ではなく、貧民街から少し入った場所にある。どのみち、ここにいるのは、ロクな人物ではない。


路地裏から、足音の人物が出てくる。ラテラが隠しナイフを取り出し、構える。


こつ、こつ。


暗がりから出てきたのは、ダークブラウンの髪を撫でつけた男と、


「あっ」


その男にがっちりと首をホールドされている、老人だった。


だが、ジルトが声を上げたのは、そのことではない。


「貴方は……」

「君は」


双方、目を丸くした。


暗がりから現れたのは、あの現場に駆けつけた、ソマリエ裁判所の執行官の片割れだったからだ。






ランスは、老人を地面に下ろした。


「とっさに隠れたんだけど、そうか、ナイフを探していたのは、君たちだったのか」


セント・アルバート学園で会った三人を認めて、ランスは笑った。


「どうして貴方が、こんなことを?」

「……この裁判、少しおかしいと思うからだよ」


灰色の髪の少年の質問に答え、ランスは自嘲しそうになった。ほんとうに、なんで自分はこんなことをしているのだろう。答えはわかっているのだが、認めたくない。


「このご老人は、俺が尋ねた時も店を畳もうとしていたが、尋ねた後、物陰から見てたら、いっそう慌てて店を畳もうとしてたからな。なんだか怪しいと思って、話を聞こうとしたら、逃げようとしたんだ」


それで捕まえたところに、少年たちが来たわけである。


「君たちこそ、どうしてここに?」

「それは……」


少年は、少し迷った後、キッパリと言った。


「俺は、師匠を止めようと思ってます」

「師匠?」

「はい。セブンス・レイクを、殴ろうと思っています」

「そうか、奇遇だな」


あまりにもまっすぐな目をしてくる少年に、ランスは偽ることをやめた。


「俺も、止めたい人がいるんだ。殴りはしないけど、目を覚ませって言いたい奴がいる」

「それって」

「リラだよ。君たちも見たと思うけど、俺と同じ執行官の女。俺はアイツに、もう、傷ついてほしくないんだ。アイツが好きだから」

「それって……」


一緒にいた少女達から、妙にキラキラした目線を感じるが、ランスは苦い思いと共に首を振った。


「“俺が”好きなだけだよ。一方的な片思いだ。なにせアイツには、忘れられない人がいるから」


そう、それが、この裁判が始められた理由であり、リラが暴走している理由なのだ。


「忘れられない人、ですか?」


灰色の髪の少年が首を傾げる。ランスは頷いた。もう星になって、絶対に勝てないアイツの名前を口にする。




「ゴート・アゼラ伯爵。今年の春に処刑されたあの人のことを、リラは愛してたんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ