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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第一審)
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人望ゼロ公爵の味方

トラス・アヴェイル判事は、混乱していた。


なにせ、脚本にない人物が登場した上に、その人物が、自分の主人に不利な証言をし始めたからだ。


ーーこれは、いったいどういうことだ!?


内務省行政局から派遣された検察官も、クライスに同調するように、アウグスト公爵の罪を糾弾し始める。行政局長官は、彼の味方だったはずだが。


なにかが、起こっている。取るに足らない、親の威光だけで執行官に収まった部下の小娘たちが、勝手に動いたその時から。


「以上、アウグスト公爵による、アルネルト氏の殺害計画を証言いたします」


クライスが、頭を下げて、綺麗な礼をする。


ーー偽物、ではあるまい。あの立ち居振る舞いは、クライス・エドガーそのものだ。


だが、公爵に絶対的とも言える忠誠を誓っていた、“あの”クライスが、ここで公爵を裏切るのも不自然だ。そうだ、本人はどうだ?


はたして、銀髪の公爵からは、何も読み取ることができなかった。藍色の目に何の感情も乗せず、クライスのことをじっと見ている。


モノ、ヒト共に、曖昧な裁判のはずだった。あるのは、公爵がナイフを持っていたという事実のみ。だが、ここに至って。


モノの面では、クライスが提出した、警邏局上層部と取引した書類、ヒトの面では、公爵の側近という、これ以上ないほどの証言者が出てきたわけである。


トラス判事は、小さく息を吐いた。 


ーー潮時だな。


かん、かん、とトラス判事は木槌を鳴らした。その音は、法廷に嫌に大きく響いた。


「被告人、ガウナ・アウグストは有罪。殺人罪を言い渡す」


陪審員の貴族達がどよめいた。出番がないと思っていたのだろう。急に顔つきが変わる。


「これより、量刑作業に入る。陪審員以外は、外に出ているように」




警邏官に引っ立てられながら、ガウナは、その背中に声をかけた。


「君は、誰なんだい?」


顔だけ振り返った彼は、しばらく考えた後、「貴方の元従者です」と返してくれた。なるほど。


「考えたね、魔術師様も」

「余計なことを喋らないでください、アウグスト公爵。エドガー氏もです」


警邏官が仕方なく注意をしてくる。元主従のやりとりに困惑している様子が見て取れた。それに構わず、ガウナは彼に笑いかけた。


「あと何分あるのかな。私の時は、五分だったけど」




トラス判事が早々に裁判を切り上げたのは、クライスの証言が、王都通信社狂言殺人まで遡ったからであり、自分の身の危険を感じたからだ。


それはそうだ、ソフィア・アルネルトが、失踪直前まで調べて記事にしていたのは、自分が火刑に処したゴート・アゼラ伯爵の事件であったからだ。


と、自己保身もあるが。


「判決に異議があれば、控訴するように」


ここは捨てろと、ガウナに言っているのだ。ソマリエ裁判所の、特殊な位置ゆえに。 


ーーこれで、トラスが裏切り者でないことはわかった。裏切り者は……。




「え、あの堅物烏と、検察官じゃないんですか?」

「クライスは、裏切ってはいないよ」


かつて、ブラン・ルージュ秘書官にしたことを、今度は自分がやられるとは。


暗闇の中に突然人が現れると、少しだけ驚きたくなる。ガウナは、普通に拘置所に侵入してきた教祖様に、自分の考察を述べた。そういえば、この教祖様は、紙幣ではなく硬貨持ちだったっけ。


「検察官は、クロだけどね」


ガウナは肩をすくめた。あの内務省行政局長官(イヌ)め、リルウと同じで僕を裏切ったな。


だが、裏切るのも仕様があるまい。なにせ。


「トウェル王のお友達である、セブンスが復活したんだからね」

「今度はその友達に着いたってことっすか?」 

「いや、セブンスには着いていないだろうね。僕のアイデンティティが奪われたと言った方が良い。たぶん、セブンスは、長官の前で彼を復活させたんだ」

「誰を? って聞くのも野暮か。なるほどね、あの長官は気付いちゃったわけか。別にアンタに尻尾振ってなくても、トウェル王に会えるってことに」

「そういうことだね」


セブンス・レイクは魔術を手に入れた。魔術はたしかに魔法の劣化で、威力は弱いが、人間の悪意という面においては優秀だ。


「『アッカディヤの魔術儀式』。死者を蘇らせるあの術を、セブンスが手に入れたというわけだ」

「てことは、あの堅物烏くんも?」


ガウナは頷いた。


「誰かが中に入っていて、クライスのフリをしているんだろうね」

「たしかに、そう考えたら、今回の裁判の不思議な点はしっくり来るな。烏くんと、内務省行政局の検察官の裏切り。もしかしたら、あんたの二股もバレてるかもよ?」

「……だろうねぇ」


アントニー・マルクスのことを、いっそ尊敬したいぐらいだ。二股かけるだけでこんなしっぺ返しを食らっているというのに、六股かけていたなんて。


「トウェル王のことに加え、あんたが警邏局とも繋がっていたって証拠を出されて頭がイっちゃった長官が、あんたを裏切った……自業自得だな?」


にやにやと笑ってくるシンスに、ガウナはジト目を向けた。

指を鳴らそうと構えると、戯けたように両手を挙げられる。


「お前は何をしに来たんだ」

「可哀想な魔女様に、有益な情報でも与えてやろうと思ってさ」


シンスが取り出したのは、一枚の紙。ガウナはそれを見て、眉を顰めた。


「どうして、彼女が?」

「わかんないですけどね、やっぱりこの裁判、裏に何かありますよ。そこさえ掴めれば、あんたは第二審で勝てる」

「まだ、人間社会にいていいってことかな」

「……そこに拘るんですか? まあいいけど。そうですね、あんたはまだ、人間でいられる」


ガウナは、微笑んだ。


「君を部下に持って良かったよ。シンス、リラ・リブラについて、詳しく調べてもらっていいかい?」

「承知しました魔女様。俺としても、裏切った信者に、お灸を据えたいところですしね」

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