手に入れたもの
『この俺を床に転がすまで成長するなんて嬉しいよ』なんて言おうと思ったが、そんなこと言ったらジルトに迷いを与えるし、なにより、自分にも迷いが生じる。だからセブンスは、事実確認をするだけにとどまった。
期待通り、ジルトは、セブンスのことを嫌いと言ってくれた。
自分で招いたことなのに、目の前が真っ暗になるのを感じた。小さい灰色の髪の男の子が、立派になったもんだ……学園に入るまでの、およそ三年間が、走馬灯のように蘇った。
ーーそうだ、俺は、不幸にならなくちゃいけない。
俺の先祖は優しすぎた。自分が幸福になれないのなら、せめて、自分の子孫は幸福になってくれと、神と再契約を交わしたのだ。
だから、俺はそれを否定する。神に与えられた力は、どうやったって、人を幸せにしないことを証明しなくちゃならない。そのために、必要なのは、もう一人の不幸者だ。
セブンスは、ゆっくりと立ち上がった。ジルトが、警戒心をもって見てくる。頭の一つでも撫でてやりたかったが、それも叶いそうにない。
さんざんこき下ろした、黒髪の少年と、“お嬢ちゃん”扱いした金髪の少女を交互に見た。この忌々しい学園で、自分の弟子によくしてくれた二人。
ああ、黒髪の少年の方は、強敵だった。なにせ、彼は金貨持ちの上に紙幣持ちだ。本来なら勝てるはずもない。フレッドが襲った時だって、すぐに“決定権”を取り戻した。その取り戻し方が、ジルトの一言だっただけで。
フレッドを殺させてもよかった。どのみち、それを確認するために、この少年は視るだろうから。
だが、セブンスはなんとなくわかっていた。あの暗闇は、弟子が作ったものだと。さんざん王都に降りていた弟子だ。制服を着て、自分たちを襲ってきたとしても、きっと見抜いてしまうだろう。
だから、あそこに姿を現したのは、賭け同然だったのだ。予知の分野において、親友殺しのダグラスに勝てるわけないんだから。
ーーお前さんの予知は、フレッドを救ったんだよ。
死体となったフレッドではなく、生きているフレッドを視ることになったのは。
おかげで、プランを変更しなくてはいけなくなった。ソフィアを殺したフレッドには、ガウナ以上の返り血がつき、執行官たちの茶番が、より強くなってしまった。まあ、ガウナ憎しのリラ・リブラが、うまくやってのけてくれたけれど。
そして、金髪のお嬢ちゃん。もとい、魔法や魔術を学問にまで堕とした天才、ガイアス・アドレナの娘。
魔法や魔術には、実質的には門外漢なのに、よくやってくれた。おかげで、身近な二人を殺すという“作業”を、“作業”でなくしてくれた。虚無の時間があれだけ楽しかったのは、彼女のおかげだ。
最初の予知の“穴”にすぐ気付くところなんか、同じことを企んでいたんじゃないかと、疑ってしまうほどに。
ーージルトを学園に引き留めた雌猫ぐらいに思ってたけど、これ、案外正解だったのかもな。
無謀なところがある弟子を、繋ぎ止めてくれるのは彼女だろう。さっきも、自分の前に立ったジルトに制止の声を掛けてくれた。
ーーだから。
あの夕暮れを見て思ったことを、再確認する。セブンスは、ジルトに微笑んだ。
「じゃあな、ジルト。達者でな」
それから、ファニタ、ハルバ。こいつを頼むぜ。
ま、それは言えなかったけれど。
ぱちん、と指を鳴らした瞬間、セブンスは、とある建物の中に来ていた。なるほど、これが、銀貨の力か。
こつこつ、足音を鳴らして、暗闇の中を進む。
檻の中に彼を目視して、セブンスはにたりと笑った。
いっそ清々しいまでの殺気が襲ってくる。だがそんなもの、弟子に大っ嫌いと言われたセブンスの前では、そよ風に等しい。あ、泣きたくなってきた。
今、セブンスが会話できるのは、どうでもいい相手のみだ。弟子の前で話せなかったことを、セブンスは、彼に話した。
「貴方は、何を得たのですか」
抑揚のない声だった。それくらいが丁度いい。
「俺が得たのは、魔術だ。これ、どういう意味かわかるか?」
彼は首を横に振った。「貴方のお話を聞いていると、妥協したから、ではないのですか」
「違うな。俺は、人間のきったねえ部分を寄せ集めた、魔術を手に入れたんだ」
「……」
理解できない、という顔の彼。彼の主人ならば、即座に理解して、セブンスの命を奪ろうとしてきただろう。
「ま、楽しみにして待ってろよ。お前だけは、生かしてやるからさ」
暗闇の中で、なおも闇色をした瞳を見る。彼の瞳には、たしかに、“良心”が渦巻いていた。
少し短いですが、これで締め。次章は分割かもしれません。




