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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
ふこうものと妥協の涯
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消失

フレッド君だけ別のものと戦ってるんだよな…

もう、予知の穴は二つ過ぎたのに、何一つとして、室内の様子が変わることはなかった。


エベックは相変わらずガウナと話をしているから、室内に入ってくる様子はない。おかげでジルト達は、ファニタを中心に、疑問点を話し合うことができた。


「あと二十五分で、本命が来ることは確か。だけど、五分後の穴が、結局何なのかはわからなかったわ」


そう。門番のように、直接的にセブンスに指示されて襲撃に来るわけでもなく、学園長のように、間接的に来るように仕向けられたわけでもなく。目に見えない形で、“穴”は、遂行されたのである。


「なんにせよ、“穴”は通過か、よかったよかった」


相変わらず楽観的に笑うフレッドとは対照的に、唇を真一文字に引き結び、難しそうな顔をするファニタ。


「目に見える形じゃなかったのが、不気味だわ。いちばん気になるのは、どうしてこの、密室とも呼べる学園長室で、決定権を得られているか」


たしかに。


ジルトも、それを疑問に思うとともに、不気味に思った。この、一見何も起こっていない密室の中でさえ、セブンスの掌中だということになる。


ーー俺たちがここで作戦を練っていても、予知は変わらなかったわけだ。


事態は、セブンスの思うままに進んでいる。


「ま、それはまずいよな」  


お気楽だったフレッドが、一転、眉を下げて苦笑を浮かべた。


「俺たちの把握しきれてない何かが、この学園長室にあるってことだからな。学園長を差し向けた以上、ここが避難場所に使われることは、先輩も把握してるだろうし……部屋の中に、仕掛けがあるかもしれない」

「予め、部屋に仕掛けをしておくということですね。そして、私たちの行動をコントロールする」

「そうそう」

「それは、無理ですね」


そこまで聞いておいたフレッドの考えを、ファニタはばっさりと切った。


()()、学園長ですよ?」

「そりゃそうだ」


フレッドも、それを予期していたようで、あっさりその考えを放り投げた。


ジルトもファニタに同意だ。学園祭で丸くなったとはいえ、自分の居城に仕掛けをされて、気付かない彼ではない。


ーーと、すると。


ファニタの顔は、強張っていた。 


ーー部屋に仕掛けは無いってことになる。


ジルトは、それとなく、ソフィアとフレッドを見た。二人とも、時間が気になるらしい。しきりに時計を見つめている。


部屋の中には、重苦しい沈黙が落ちていた。フレッドの無神経なまでの楽観さは、実は必要だったのかもしれない。


学園長室という密室に閉じ込められて、今か今かと、襲撃が来るのを、待っていなければならない状況に、追い込まれているのだから。




そうして、三つ目の“穴”を通り過ぎた時、ファニタが、重い口を開いた。


「部屋に仕掛けがないとすると……考えられるのは、人です」


本命の時間まで、あと二十分。室内にいる人間が、一斉に、ファニタを見た。


「直接的にせよ、間接的にせよ……私たちの中に、セブンス様に決定権を与えている人物が居る」

「直接的ってことは、スパイ?」


ソフィアが、表情を硬くしながら言った。ファニタが頷いた。


「その可能性もあります」


そう。モノでないなら、ヒトである。


ジルトもその可能性に思い至り、ソフィアとフレッドを観察しているが、二人とも、怪しい動きはしていない。


「あと十九分、か。時間がねえな」


じっと見ていると、フレッドが徐に立ち上がった。


「じゃ、こうすりゃどうだ? 俺が、小便に行く時間を早める」

「ハルバ、ソフィアさん」


ファニタの声に、二人が頷き、黒瞳を光らせた。


「……“穴”が、消えた」

「だけど、十九分後の穴は、変わってないわ」


ハルバとソフィアが、呟いた。フレッドが、大きく頷く。


「どうやら、先輩に“決定権”を与えてたのは、俺みたいだな」  

「でも、どうして」

「わかんねえけど、もしもこの“穴”ってやつが、俺かソフィアを殺すための準備だとしたら、無くなるに越したことはない」

「誘い出されてる可能性は?」


一番の懸念はそれだ。ジルトが不安になって尋ねると、フレッドがニンマリと笑って、ぐしゃぐしゃとジルトの頭を撫でた。


「心配か? 可愛い奴め」 

「そりゃ、心配しますよ。あの門番になってから、俺は気軽に王都に出られなくなっちゃったんだから」 

「そっちかよ」


だから、これが終わったら早く帰ってきてほしい。


そこまでは言えなかったので、ジルトは渋い顔をしているフレッドに、笑ってやった。

そして、嬉しいことに、フレッドを心配しているのは、ジルトだけではない。


「俺も行きます。戦う役には立たないけど、予知能力者が一人いた方が、安心して用を足せますよ」


ハルバが、勢いよく立ち上がって言う。


「ありがとな、だけど、お前には、ソフィアを守って欲しいんだ。ていうか、お前も門番に狙われてんだから、ここで大人しくしてろ」

「でも……」


言い募るハルバに、フレッドは、力強く微笑んだ。


「セント・アルバートの門番は、そんじょそこらの奴がなることはできないんだぜ? 誰が来たって返り討ちよ」

「……いや、そんじょそこらの奴がなった結果が、これなんじゃ」


ハルバのジト目に、フレッドは目を逸らした。


「そんで、アドレナちゃん。俺は、十五分後までに、帰ってくればいいわけだな?」

「は、はい。一応、ハルバに貴方の様子を視てもらいますけど」 

「ソフィアは視てくんねーの?」

「セクハラです!」  


ソフィアが投げたクッションが、フレッドの顔に当たった。


「くれぐれも、くれぐれも気をつけてくださいよ、フレッドさん。後で、二人でセブンス様を殴るんだから!」

「へいへい」






扉を開けると、まだ、銀髪の公爵と、学園長は話し込んでいた。会話は薄味、かと思いきや、公爵がわるーい顔をしている。


ーーあーあ、ロクなこと考えてねえな。


「て、どこに行くつもりだ、君は」


そこを通り抜けていこうとすれば、がしっと肩を掴まれる。


「ちょっと、小便に」

「君は、狙われてるという自覚があるのかい?」


呆れ気味に言われたので、ファニタの推理を、予知能力を省いて伝える。


「私もついていこうか? こう見えて、腕に覚えがある」

「いや、いいです。ていうか、あんたがここから離れたら駄目でしょ」


そう言われて、ガウナはしまった、という顔をした。


「しっかり、子供達を守っててくださいよ。俺が戻るまで」

「……わかった」 


すぐに戻ってくるんだよ! と大声で釘を刺されて、フレッドは「うるさい!」と叫んで、廊下を闊歩する。


目指すはトイレだ。別に、尿意はないけれど、頑張ればいけるだろう。


ーー頑張れよ、俺の膀胱!

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