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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
伯爵と復讐
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ジルトの誤算

え?この伯爵何言ってんの?


完全勝利すると言っておきながら、ジルトはとても困惑していた。


ーー俺、クライスさん連れてきただけだよね、なんで公爵の手先扱い?


あわよくば公爵の威光を利用できないかなとか考えていたが、まさかこんなにガッツリ仲間扱いされるとは思わなかった。


実はクライスに至っては、護衛が欲しいと思ったジルトが、半ば脅しで連れて来ただけなのだが。


『いいんですか? 論文伯爵側に渡しちゃうかもしれないですよ』という雑な脅しでついて来てくれるし、ノリノリで執事を脅してくれるしで、妙にこちらに協力的なのが気になるが、渡りに船。


困惑しながらもこの状況をどう利用しようか考えていると、伯爵がドヤ顔をしてきた。とりあえずこちらは論文を燃やす気満々なことを伝えようと、ジルトは公爵とスタンスが違うことを言おうとしたのだが。


「ガウナ様は、『魔女の信徒』を完全に切った。それだけです」


この爆弾発言である。クライスが冷え冷えとした目で、伯爵を見ている。


「か、完全に切った?」


その言い方に疑問を覚えたのは、声を出した伯爵だけではない。ジルトも声には出さずとも、呆気に取られていた。


……あの夕闇の襲撃で、クライスは伯爵側の間者ではなく、ジルトを助けた。


相対的になら、味方になってもらえると踏んでいたから、ジルトはクライスをこの場に引き込んだ。よほどのことがない限り、天秤の重さはこちら側にあると。だが、今のクライスの“完全に”という発言は。


ーー『魔女の信徒』を天秤にすらかけないということだよな?


比べるまでもなく、ジルト側につくということ。

嬉しい誤算だが、どこかモヤモヤしたものも感じる。


論文を燃やそうとしても何も言わず、手も出さない。その理由が“公爵が完全に彼らを切ったから”らしいが、論文という成果物を捨てるには惜しくはないか?


ジルトの考えと、伯爵も近い考えを持ったらしい。


「貴様ら、論文が惜しくはないのか!? 私が貴様らに明かした『アッカディヤの魔術儀式』は、完成形ではない! この論文があってはじめて、完成するんだぞ!?」


そう吠える伯爵に、クライスは淡々と続ける。


「ええ。貴方が我々に『アッカディヤの魔術儀式』について何かを隠しているであろうことは、ガウナ様も看破されていました。その上で、我々は『魔女の信徒』を切るつもりでした」

「切る、つもり?」

「英雄式典の日です。少々アクシデントがあったので、遅くなりましたが」

「はっ、切るなどと。せいぜい、お前たちがそこの子供を教祖様にけしかけたくらいだろう!」

「えっ」


思わず声が出た。伯爵はジルトを睨め付ける。


「そうだ……教祖様はお前の写真を見た途端、公爵の薄汚い狙いを理解したのだ」


だから、なんで? 身に覚えがない。ジルトが公爵に言われたことはハルバ関連なのだが。その公爵と会ったのも、英雄式典のことがきっかけで……。 


英雄式典。けしかけた?


ーーいや待てよ。なんか、変な人を追い払ったな、俺。


そういえば、リルウが妙に的確な指示であいつにぶつかれと言っていた。黒いローブの、長身の男……。


やっばいな、無関心装ってないでもっと深く突っ込んどけばよかった。絶対あいつじゃん。制服の弊害がここにも出ていたとは。


それに、衛兵に扮していたクライスがさほど驚かなかったことは、ジルトの中にわだかまりとして残っていた。


『彼は腕利きでね。普段はリルウの護衛をしているんだ』

『今日は?』

『君がいるだろう?』


初めて会った時、クライスを紹介したときの公爵の茶化した態度が気に入らなかったが、あれはジルト達はクライスに監視されていたという意味だったのだろう。だから、クライスは驚かなかった。


あの英雄式典で、ガウナは本当に『魔女の信徒』を炙り出し、クライスに“切らせる”つもりだったのだろう。

それがどんな方法であれ。


「ですから、その論文は燃やして構いません。式典の後に出て来た副産物です」


クライスの言葉に、隣のファニタがぷるぷる震えていた。自分が必死に考えてできた論文がいらない子扱いだから当然だ。それでも口を挟もうとしないのは、きっと家族のためだろう。


だが、ファニタ以上に震えている人物が、いた。顔色は、赤を通り越して真っ青だ。


「な、ガイアスが……、ヤツが、命をかけた、論文、を……」

「亡き親友の研究に、価値があると思いたかっただけでしょう」

 

激情を顕そうという人間に対して、あまりにも冷たい言葉。

それは、アゼラ伯爵の導火線に火をつけた。


「『アッカディヤの魔術儀式』は完成しない!! 公爵は、薔薇の魔女を蘇らせるつもりなのだろう!?」

「いいえ。『魔女の信徒』に同調したフリをして、不穏分子を排除しようとしていました。その過程で出てきた論文に、“あなた方にとって”どれだけの価値があるのかを測っていたにすぎません」


まあ、それで辻褄は合うか。


判断したジルトは、伯爵に向かって、いい笑顔で言い放つ。


「つ、ま、り。クライスさんもとい公爵側は、俺らの味方ってわけですよ。万が一にもあなたの不利は覆りません。わかりましたかアゼラ伯爵? わかったらとっとと人質解放してくださいね」

「ぐ、うう……!」


全力でクライスに乗っかったジルトの言葉に、伯爵が何か言いたげに声を漏らす。彼の反応を見てわかったが、彼はなにも、『アッカディヤの魔術儀式』の完成に拘っているわけではない。拘っているのは、むしろ……。


「ほら、早くしないと論文燃やしますよ? 大切な親友の研究ですよね? さーん、にー……」


カチッ。ライターから火花を散らす。


「くそっ、わかった、人質は解放す


「わかりました。論文は渡します」


る」


「え?」

「……」


同時だった。

伯爵が最後の一語を言い切る前に、ジルトの隣の少女が、笑顔で言い放った。


「ありがとうございます伯爵。お礼に、完成稿をお見せしますね」


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