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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
ふこうものと妥協の涯
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離脱

予知能力者が、決定権を得る時。それは、何かアクションを起こす時である。


言うなれば、“攻撃を仕掛ける時”。


それは、ソフィアの話してくれた通り。葬儀でのエリオットによる号令だったり、ソフィアがエリオットを殺すために、姿を現す時だったり。


……最初の門番の攻撃は、たしかにそうだった。


ソフィアの話を聞いて、対策を練ろうとしていたファニタ達を襲わせることで、決定権を得た。


予知能力者の決定権というのは、ファニタにはよくわからない。が、何か重要な時に得なければいけないものだという認識がある、ということは、理解できた。


その重要なものは、今後の未来を変えるもの。そう、刷り込まれているのだ。だから、先を視たって意味がない、とも。


ーーだけど、あの人は、それを逆手に取った。五分後の出来事を、あたかも重大なことが起こるかのように思わせようとした。


そのために、門番にこちらを襲わせるという、あちらにとってもリスクのあるパフォーマンスをしたのだ。あのような攻撃が来ると思わせるために。


だが実際は、クレア学園長が部屋に入って来ただけ。遅かれ早かれ、ファニタ達は、この学園の主に助けを求めただろうし、予知の上では、何の影響もないはず。


だが、セブンス・レイクは、エベック・クレアを応接室に呼び寄せるという決定権を、わざわざ獲得した。それは、なぜか。


ーー五分ごとの、予知の穴空き。間違いない、これは、罠だわ。


“視えなくなったということは、ここで重大なことが起こる”と思わせるための、穴。


つまり、本命を隠すための穴。


ーー私たちは、その本命を見極めれば良いわけですよね。ジルトのお師匠様?






明らかに、こちらに伝わる前提で語りかけてくる少女に、セブンスは口笛を吹きそうになった。


ーーこ、これがあって助かったぁ〜。


と、同時に、“これ”を拝み倒したくなった。


“神の左耳”。


即座にファニタの思考を読めたのは、この耳のおかげである。まあこの耳は、近くにいる人物でないと心の声を聞けないという弱点があるのだけれど。


だが、その弱点が功を奏した。駆けつけてくるエベックを、予知よりも早く応接室に入れることができた。これで、五分ごとに空けた穴はまだ健在。なにしろ……


『それを、どうやって皆に伝えるかが重要ね。いちばん良いのは、予知能力者二人に伝えることなんだけど』


「へっへっへ、その通り。そのためのエベック君だからな。結果的にお嬢ちゃんを封じる手になっただけだけど。普通にブラフのための穴だったんだけど」


廊下を歩いているファニタ達から、見えるか見えないかの位置にある、中庭の木の枝に座りながら、ぶつぶつ呟く。

完全に不審者であるが、外は夕闇。校舎内に残っているのはごく数人で、仕事熱心な学園長くらい。よって、見る者がいなければ不審者認定はされないのである。


惨劇を起こすには、もってこいの状況だ。


セブンスが、最初に懸念にしていたのは、二人の予知能力者。特に、紙幣持ちのハルバなのだが……あの天才の娘、弟子をたぶらかしただけあって、普通に頭が良い。


「ていうか、そーだよ! これはリベンジマッチってやつだぜお嬢ちゃん。お嬢ちゃんさえいなければ、ジルトが学園に入ることはなかった。あのクソ魔女とも会うことはなかったし、俺がこうして不審者ヅラすることもなかった!」


うん、うん、と頷いて、セブンスはすべての責任をファニタに擦りつけた。


ーーにしても、罠を即見破るのはナシだと思うんだけどなぁ。


ファニタがハルバに、五分後のすぐあとの予知をさせたのは、その時点で、それが罠だとわかっていたからだ。


ーー本当なら、アイツに注意を向けさせるつもりだったんだけどな。


毛ほどの価値もない男。そいつが襲ってくると思わせておくつもりだったのに、早々に、本命を隠しているとバレた。やりにくいったらありゃしない。


だが……だが。


ただ、殺すよりかは良いかもしれない。


「ありがとよ、お嬢ちゃん」 


気付けば、セブンスは……ファニタに、礼の言葉を言っていた。


気乗りしない儀式。なによりも視えている、自分にとっての絶望。気を紛らわせないとやっていられない。彼女の存在は、セブンスの罪悪感を、少しだけ減らした。


「ま、だからといって、手を抜くつもりは無ェけどな。本気で、殺り合おうや」






まさか、さっきの襲撃が、自分の師匠によるものだとは言えないので、ジルトは適当に話をでっちあげた。


応接室で襲ってきたのは、門番の男。彼がどうして襲ってきたのかはわからないが、たぶん、家柄の良いハルバを誘拐しようとしたのだろう。その彼は、今、クライスが追跡中。


「クライスさんが?」


エベックが不審げな顔をする。


「たまたま、学園に用事があったんです」


それをフォローするように、ガウナが外向けの笑みで答える。だが、エベックは、薄青の瞳を懐疑の色で固めていた。


「こんな時間に?」

「ええ、こんな時間に、です。私は、貴方に会いにきたんですよ。学園長」


ーー何言ってんだ、この人!?


ジルトはあんぐり口を開けそうになった。話がややこしくなっている。 


だが、その一言は、エベックに打撃を与えたらしい。


蒸し暑い夕方の熱気が、どこかに遠のく。


エベックが、にこりと微笑んだ。


「……私に、ですか。それは光栄ですね。一体、どんな御用で?」

「それは、学園祭の時にお話しした通りです」

「その話は、もう、終わったはずですが?」

「いいえ、終わっていません」


学園長室の前で、梟雄が二人、並び立つ。


「困りましたね」


ちっとも困ってなさそうなエベックは、ちらりと、扉を見た。ジルト達に言う。


「とりあえず、君たちは、ここに入っていてください。私は少し、公爵とお話があるので」

「いや、でも……」

「フレッドさん、頼みましたよ。何があったかはわかりませんが……そちらの女性も一緒に、守ってあげてください」

「はい! 承知しました!」


フレッドが綺麗に敬礼し、ジルト達の背中を押して部屋の中に入らせる。ジルトは、後ろを振り返った。


ガウナが、ひらひらと手を振っていた。



ジルトは目を見開きーーぱたんと、学園長室の扉が閉じられた。

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