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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
ふこうものと妥協の涯
277/446

先制

師匠が楽しそうで楽しい

ぶつん。



突如として、視えていたものが視えなくなった。


あるのは暗闇だけ。他の予知能力者ーー具体的には、セブンスが動き出した証拠である。だからといって、


「視えない人が多すぎる。なんだ、これ」


ハルバが呆然としながら言えば、同じく暗闇を視ているであろうソフィアが、「はわわわわ」と震えていた。


「決定権が奪われまくってる……!」

「あ、やっぱこれ、決定権なんですか」


恐慌する予知能力者たち。


「なあ、どういう状況なんだ?」


そんな彼らに、ジルトが首を傾げて聞いてくる。ハルバとソフィアは、顔を見合わせた。ハルバが代表して応える。


「一寸先は闇、状態だ。正確には、一寸先から全部、お前の師匠に規定されている」

「規定って、俺たちは学園の応接室にいるくらいだろ。一体どんな、おい、ハルバ、後ろッ!」

「へ?」


ジルトの声に振り向く。ハルバは、自分を襲う影を見た。すんでのところで、ソフィアがハルバを引き寄せる。ハルバの座っていたソファの表面が切り裂かれ、綿が飛び出る。


ばくばくと鳴る心臓。自分を狙ってきた刃の持ち主は、舌打ちひとつ。


「って、え、あ……!?」

「外したかぁ、残念だ」


刃を引き抜き、男は言う。その声にはあまり聞き覚えがないが、顔には見覚えがあった。学園を守るはずの彼の顔には。


「新しい、門番、さん?」


フレッドの後任。臨時で雇われたはずの彼は、笑みを浮かべた。


「こーんな誰でも通すようなやつを、門番なんて言うもんじゃねえよ? ハルバ君」


もう一振り。今度は視えている。ハルバはソフィアと一緒に、床に転がった。目の端に映る、突き立てられた刃。どうして、自分が狙われているのか、わからない。


だが、ハルバにはわかっていることがあったーー勝った。


「ジルトッ」

「ああ!」


ジルトは、すでに鞘を抜いていた。


刃をひたりと首筋に当てられ、男はいとも簡単に両手を挙げる。


「はい、降参。近頃のガキはおっかねぇな」

「……あんた、セブンス・レイクの回し者か?」

「他人行儀なことを言うなよジルト君。おんなじ、あの人に拾ってもらった者同士じゃないか」

「おんなじ?」


ジルトがぴくりと動く。男が笑い、ハルバは吠えた。


「下がれ、ジルト!」


ジルトがナイフを構えたまま後ろに飛び退る。勢いよく引き抜いた刃の柄を、ジルトの脳天にぶち当てようとしていた男は、またも舌打ち。


「やーっぱ、予知能力ってのは厄介だなぁ。こりゃ、あの人の言う通り、どっちか殺しておかないと……」

「よ、予知能力者を殺せるわけないじゃない!」


ソフィアが毅然として言えば、それを鼻で笑う男。


「いーや、殺せる。そのために、俺がいるんだから」


不思議な威圧感を纏う男だった。


にたにたと笑って、ジルトを見据える。


「フレッドを殺すのを、邪魔させやしない。この場で一人、予知能力者を狩る」


ーーなんで、ジルトを見てるんだ?


緊迫した状況なのに……ハルバの心には、そんな疑問が浮かんだ。


「さて、どうするジルト君?」

「……それ、本当に、師匠の意向なのか」

「もちろん!」


男がそう言った途端、ハルバとソフィアは、男から距離を取る。同時、ジルトが腕を振りかぶった。


狙いを過たず、男の手から弾き飛ばされるナイフ。頬に流れた血を手の甲で拭き取り、口笛を吹く。目を細める。


「君、今どっち?」

「どちらでもないよ」

「答え、言ってるじゃん」


不思議な会話だった。男は「成果はあったかな」と呟き、窓辺に駆け寄って硝子を割った。ひらりと手を振る。


「そーいうわけで、俺はここでお暇するわ、じゃっ」


ハルバは、逃げてくれるならありがたいと思い、見逃そうとしたが……次に視えた光景によって、「待て!!」と大声で叫ぶ。


それは、()に、男の存在を知らせる言葉。


次の瞬間、応接室の扉が、勢いよく開かれた。


「クライス」


冷静な彼の声が命じる前に、クライスは一瞬で男が割った窓に到達。しかし半歩、男に届かない。


その半歩はきっと、セブンスと二人の予知能力者の実力差だ。


あっという間に消えた二人を見送って、銀髪の公爵が「大丈夫だったかい」と気遣わしげに、


「見張りから、学園の門番が消えたという報告があってね、急いで馬車を飛ばしてきたんだ。怪我はないかい?」


なぜか、ジルトの方を見て言う。ジルトはしばらく無言だったが。


「はい、大丈夫です」


と、笑顔で頷いた。壁に刺さっているナイフを引き抜き、鞘にしまう。


「それ、前のとは違うね?」

「前のは、どこかにやってしまって」


そんな話、初耳だ。どこかおかしいジルトを、ハルバは訝しんだ。


「……そんで、一体何があったんだ?」


床に落ちた男のナイフを拾いながら言ったのは、元門番のフレッドである。


「フレッドさん! よかったぁ、まだ、殺されてない……!」

「お前なぁ」


微妙に失礼なことを言って喜ぶソフィアに、フレッドは呆れ顔。


「殺されるのはお前だろ? 俺は、それを止めに来たんだ」

「そんなの、表面上の理由ですよぉ。本当に殺されるのは、貴方なんですからぁ」

「はあ?」


行き違いが生じているようで、互いに互いを見る、フレッドとソフィア。


セブンスに狙われている二人が、期せずして、ここで出会ったわけだが……これで、何かわかるだろうか。


「なあ、どう思うアドレナさん」

「……」

「アドレナさん?」

「ハルバ、今すぐ、クライスさんを視て」

「? ああ」


声を硬くしたファニタに、ハルバは従い……ばつん! 再び、暗闇が襲う。


「はっ!?」


声を上げたハルバに、「視えなかったのね?」と確認してくるファニタ。ハルバが頷くと、ファニタが呟く。


「これ、まずいかも」

「な、何がまずいんだ?」  


ファニタは、それに答えなかった。が、諦めたように頭を振って、ハルバに問いかける。


「あの人って、クライスさんより、強いと思う?」

「いや……」


強いには強いが、クライスには敵わないだろう。ジルトに後ろを取られたり、簡単に、ナイフを弾き飛ばされたり。


さっきだって、クライスに一瞬で追いつかれた。捕まるのは時間の問題。それなのに、クライスの未来は視えない。


「いちばん手っ取り早く、決定権を得る方法は?」

「それは」


学園祭で、自分がやった方法だ。






「ま、これは弱点なんだけど、いちばん信用できる方法ではあるんだよな」


赤髪の男は、気絶したクライスの首根っこを掴み、ぽいっと門番の男に投げた。


「まだ殺すんじゃねーぞ。使い道があんだから」

「うへぇ、こわぁ」


わざとらしく震える男に、セブンスは、極寒の瞳を向ける。


「ねえねえセブンス様ぁ、俺が自殺したらダメなんですかぁ?」

「お前の命には、毛ほども価値がないからダメだ」

「辛辣だなぁ」

「無駄話してないで、とっとと行け。お前もまだ使い道が残ってんだから」

「へーい」


男がクライスと共に消えるのを見送って、セブンスは微笑んだ。


「そうか、俺の相手になる奴がまだいるってわけか」


少しだけ楽しそうに、誰にともなく呟く。たぶん、視れるだろう。自分の力は、銀貨だから。


「じゃ、宣言しておくよお嬢ちゃん。


最高戦力(クライス)獲ーった!」

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