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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
ふこうものと妥協の涯
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勝利条件

銀貨五枚は金貨一枚に相当するから、つまりは同じ価値である。だが、ファニタが、ハルバと、ソフィアの魔力に見立てた金貨よりもよっぽど高さがあることは明らかだ。


「神様が死んだことで、誰でも金貨一枚分の魔力になった。けど、師匠の場合はちょっと違ってて、銀貨で量を水増ししてる。そんな感じか?」

「そう、そんな感じ」


ジルトの問いに、ファニタが頷く。


ーー質が違う。


それは、盲点だった。だが、それは、与えられていたヒントでもあった。


『ま、俺のは銀貨ってところだけどな』


これは、偶然だろうか? それとも、必然?


ソフィアが悩んでいると、ファニタは、「だから」と優しく続けた。


「ジルトのお師匠様が貴方を拾ったのは、フレッドさんを殺させるためなんかじゃありません。自分ではできないことを、貴方に補ってもらいたかったからだと、私は思います」


ソフィアは、目を見開いた。


「たぶん、ダグラスの予知能力と他の予知能力には、違いがあるんです。ジルトのお師匠様が貴方より優れているのは量だけで、それによって決定権を奪った。けれど、金貨のハルバを視ることができるのは、同じ金貨の貴方しかいなかったんです」

「だから、私を拾った?」

「はい。誰でもよかったわけではないと、思います」


それを聞いて、ソフィアの口元は綻んだ。同時に、頭が冷静さを取り戻してきて、記者時代の深掘りの癖が現れた。


「同じ金貨を持つ私に、ハルバ君を視させたのはわかったわ。でも、おかしいことがひとつある。力を同等とするなら、私でも、副大統領のことは視れるはず」

「それ、なんですけど」


ファニタがおずおずと、ハルバに何かを要求し、ハルバが気前よくそれらを机に置く。 


「神の左目ということは、魔法に属しますよね? 魔法は魔術より強いから、コレになるんですけど」

「……」


それは、紙幣である。


「ソフィアさんが副大統領を視ることができないのは、彼が紙幣を持っているから。ハルバが副大統領を視ることができるのは、同じものを持っているから」

「……なるほど」 


さきほど、ファニタがソフィアの実力として金貨五枚を残した意味がわかった。あとで、ハルバにこれを増やすつもりだったからだ。


これで、ハルバが持っているのは、紙幣一枚と、金貨一枚。


それをじっと見ていたジルトは、何かを考えていたようだったが、唐突に「ああ!」と手を打った。


「そうか、外務大臣が亡くなった分か」

「そう。神様が死ぬ前に亡くなった、カルキ・ダグラス外務大臣が、ハルバとレオンさんを守るために契約した分。言い換えれば、神様が没収できなかった魔法の力。それが働いているとすれば」

「副大統領を視ることができる」


魔術の上では、ソフィアとハルバは同等になったが、魔法ではそうではないということであるらしい。ソフィアの心に、希望の火が灯る。


ーーやっぱり、ハルバ君に頼ってよかった。


魔法が使えなくなった世界で、魔法を使える。硬貨よりも強い紙幣を唯一持っている。


「これなら……セブンス様に、殺させないで済む……」


心からの言葉だった。ジルトが「ありがとうございます」と頭を下げてくれる。


「身勝手な師匠を心配してくれるのは、ソフィアさんぐらいですよ」

「ジルト君は、心配してないの?」

「師匠ですからね」


その一言で終わらせた彼は、まさしくあの師匠の弟子である。


「でも、ソフィアさんがこっちに来た以上、師匠の“殺させる”って目的は、達成されないよな? やっぱり、別の目的があるって考えた方が良いんじゃないか?」

「たとえば、ソフィアさんをハルバに会わせるとか、ね」


ファニタが、沈鬱な表情で言う。ソフィアは、はっとした。


「これも、セブンス様の掌の上ってこと?」

「そうとしか考えられません。貴方を思い通りに操るなら、予知魔術の存在は知らせなくてもいい。それなのに、わざわざ知らせたということは、貴方に対抗手段となるハルバを頼らせるのが目的だったと、考えられます」


敵は強大である。


ソフィアは頭を抱えた。


「ううう、ハルバ君に会うことまで織り込み済みだとしたら、私はどうすればいいの……?」

「落ち着いてください。こちらの勝利条件を考えましょう」


ファニタが、机の上の紙幣と金貨、銀貨をハルバに返しながら言う。






「勝利条件は、一つ。

貴方かソフィアが、フレッドを殺さないことです」


うそつき魔法使いが、真剣な表情を浮かべる。


「特に、ソフィアには要注意です。彼女はセブンスの手の内ですから、よく見張っておかないと」

「そんな彼女は?」

「貴方の言葉に扇動されて、本家の次男坊に頼りに行ってますよ」

「見張りようがないじゃないか。というか、一応指名手配犯になっているソフィアを見逃すなんて、学園の門番は大丈夫かな」


ガウナは、学園のセキュリティを憂えた。自分とクライスを通してしまう節穴門番。まったく。


「君が辞めたせいだよ」

「元は先輩が悪いんですぅ」


しれっと責任転嫁をするのは、人の家のソファで堂々とくつろぐフレッド・シュルツ。クライスに紅茶を淹れてもらいながら、優雅にセブンスの作戦をリークしている。 


「まさか、俺が殺される側だとはねぇ」

「やけに余裕そうだね」

「そりゃ、余裕になりますよ。ソフィアは先輩の手を逃れたんでしょ。だったら、俺が殺されることはない」

「それはそうなんだけど。まだ、ソフィアが殺される可能性も、残っているには残っているからね」

「心配性だなぁ、公爵様は。先輩がソフィアを殺したところでどうにもならんってのが、そっちの結論でしょ?」


長い足を組み替えて、フレッドは、ガウナを面倒くさそうに見た。


「そんならこうしよう。俺がわざとソフィアの前に姿を現す。そんで、先輩の狙いがどっちかを明らかにして、方針を決める」


フレッドの提案に、ガウナはしばし考えた。


「考えうる二択を同時に出すということか。悪くない」

「だろ?」

「けれど、本当にそれでいいのかい? 君は、殺されるかもしれないんだよ?」

「そうなったらそうなったで、嬉しい限りです」


ガウナの方を見ずに、フレッドは紅茶に口をつける。


ーー嬉しい? 


ガウナは、エリオットと顔を見合わせた。


「殺すよりも殺されたい。殺される方が、()()()ですからね」


フレッドは、どこか寂しげに、そんなことを言ったのだった。

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