誰を殺させるか?
問題は、誰を殺すか、だ。
硬貨を弄びながら、ガウナは思索に耽る。
ソフィア・アルネルトを殺すというのは嘘。なぜなら、セブンスがソフィアを殺したとして、魔術の力なんて手に入らないからだ。
ガウナは、チェルシーの中にいるディーチェルのご先祖さまがしたことを知っている。悪い魔法使いに騙されて、分家もなにもかも皆殺し、“させた”のである。だから、ソフィアを殺すのではない。セブンスが魔術を手に入れるには、殺させる必要があるのである。
それに、予知能力者を殺すというメリットがあるかといえば、ない。
予知能力者を殺す方法も、先日考えた通りに、ない。
この二つの“ない”を成し遂げようとしているというのは、やっぱり嘘なのである。よって、考えられる“ほんとう”は二つ。
……その一。セブンスは、フレッドを間者として使うことで、こちら側の情報を知り、ソフィアと共にガウナを殺そうとしている。これがいちばんあり得そうだ。
……その二。セブンスがほんとうに殺そうとしているのはフレッドであり、わざと彼にソフィアを殺すのだと勘違いさせている。そうすると、魔術を得る手段として殺すことを提示してきたことの説明がつく。フレッドは騙されている。
そこまで考えて、ガウナは頭を振った。
それはない。フレッドが、ソフィアが予知能力者だと知っている時点で、ソフィアを殺せるはずはないのだから。
ーー予知能力者、か。
ここで、気になる点が一つ。どうしてセブンスは、ソフィアを拾ったかという点である。
彼は、葬儀の時に、こう言っていた。
『そのまさかだよ。俺って天才だからさ、予知能力もあるわけよ』
今思えば、あれは、嘘だったのではないか。予知能力を持っていれば、セブンスがソフィアを拾う必要はないわけで。
いや。
実際、彼は、エリオットによって追い詰められていたソフィアを救うことで、彼らの予知をひっくり返した。予知能力は、ある。
ーー問題は、その質ってところかな。
エリオットの件からして、ダグラスの予知は魔術。セブンスがソフィアを拾ったのが、既に持っている予知能力の欠点を補うためだとするならば、また、以前から神殺しをしようとしていたならば、セブンスの予知能力は、魔法の類ということになる。要は、ソフィアは、魔法を使えなくなった時の保険。
こう考えれば、ますますソフィアを殺す理由はなく、ガウナかフレッドという選択肢が浮かび上がってくるのである。
なぜフレッドも入れているかといえば、宮廷魔術師時代の所業を考えれば当然。後輩一人殺すことなど、造作もあるまい。
ーーそうだな。たとえば、ソフィアを使って殺すとか。
予知能力者は、殺されるよりも、殺す方に特化している。ソフィアを生かすなら、フレッドを殺させる方が良い。
硬貨を机に積み上げる。フレッドを殺すことで手に入れる魔力はいかほどか。たしか、ディーチェルは、多くの人を殺すことで魔術を使えるようになったんだっけ。
ーーリルウも、人が人を殺す戦争をすることで勝つのは自分だって言ってたな。
ガウナは髪を掻いた。待て。なにかが、おかしい。
魔法と魔術。
魔術は魔法の派生なれども、その性質は魔法と表裏一体。魔法は人を殺すことで、魔術は人が殺されることで、持ち主に魔力を提供する。
ガウナの“魔女の祝福”は、殺した者の魂を取り入れて、魔力の糧とする。おそらく、リルウも同様の儀式をすることで、魔力を貯めようという魂胆なのだろう。
それならば、立ち返って、ディーチェルは?
たくさんの人を殺させるのが、魔術における魔力を貯める手段ならば、魔術師になる手段は同じなのだろうか? 否。
ガウナは、硬貨を三枚手に取った。銅貨、銀貨、金貨。大きさも違うし、模様も違う。
たとえば、ディーチェルの結界を銀貨として、ダグラスの予知能力を金貨とする。これは仮定。区別をつけるための仮定だ。
予知能力をレベルアップさせるためには、より多くの金がいる。これが魔力。とすると、それを鋳造する型こそが、きっかけ。魔術師になる資格を得ることであると言えよう。
その、資格とは?
ディーチェルの先祖は、たくさんの関係者を殺して、結界の能力を得た。だが、それは、きっかけにはならないはずだ。
なにかがあるはずだ。魔法使いが、隠していた、何か。
身近な人物を殺させた、何かが。
『ええ。ダグラスは魔法使いと謳いながらも、その実使っていたのは魔術ということらしいです』
本当に? 神なきあの世界で、目を持っていたからという理由で、魔術師になったのか? そもそも、その目はどこに行った?
親しげに、英雄の名前を話していた彼を思い出す。燃え盛る炎、事切れた自分を抱きしめながら、姫の炎に焼かれたアルバート……殺された、アルバート。
もしも。
それが、条件なら?
神なき世界で、魔法使いが魔術師になったのが、アルバートという親友が殺されたから、だったとしたら?
魔法使いが、ディーチェルの先祖に、他人ではなく、身近な人たちを殺させたことに合点が行くのではないか。
くすんだ色の金貨が、目に入った。
「そうか」
声に出さないと決めていたのに、声に出てしまう。
「だから、彼は、魔法を手に入れたんだ……」
ぞっ、とした。あの放火は、ガウナの目を欺くためだけではなかったのだ。彼に、魔法を手に入れさせるための、儀式。
ルクレール・ヘッジに、ミラ・ウィトメールを殺させるための。
大切な人を殺すことが、魔法使いになるための条件で、大切な人を殺されるのが、魔術を手に入れるための条件なのだ。なんて、愚かな。
同時に、わざわざルクレールに殺させた時点で、セブンスは、彼を切り捨てる気でいたのだと、ガウナは気付いた。
「聞こえてるかい、ソフィア・アルネルト」
視ているかはわからない。だが、言わずにはいられなかった。
「君もセブンスに、使い捨てられるよ」
フレッドを殺させられた後に、きっと。




