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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
ふこうものと妥協の涯
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硬貨持ち

エリオット君はSRくらい

手のひらを天井に向けて念じる。炎は出ず。


魔女の生贄。これは発動する。


“抜け穴”。これは発動せず。 


『アッカディヤの魔術儀式』。これはまだ使える。



「エリオット君とペルセが言っていたことは、こういうことだったんだな」


ディーチェル公爵家の馬車が帰ってきたとクライスに報告され、嬉しくなったのも束の間。検証結果に、ガウナはそう呟いた。


“薔薇の魔女”たるローズ・クリエの生まれ変わりだというのに、炎魔法が使えなくなってしまった。別にアイデンティティを感じてはいなかったけれど、便利だから残ってほしかった。


「誰かがペルセを殺したってことになるんだろうなあ」


その誰かは、相当な阿呆に違いない。神を殺すということは、自分の身をも滅ぼすことであるからだ。魔法は神との契約だ。契約相手を殺すなんてしたら、どんな罰を受けるかわからない。


ーーそれに、殺し方もわからない。


今はもう切れてしまったか細い糸。それを辿っていけば、たしかに神に辿り着くだろうが、ガウナには、神の殺し方なんてさっぱりわからなかった。ペルセによると、魔法使いが姫と手を組んだことで殺されたらしいが。


魔法を知っている者であることは確実。自分が魔法を使えなくなることもわかっていて、それでも殺したことは確実。


「捨て身すぎる。そう思わないかい?」

「……そうですねえ」


王城にて。比較的自分に優しいエリオットを召喚すれば、何か言いたげな彼は、それでも話に乗ってくれた。おそらく、昨日ちょっと良さげな会話をして別れたのに、もう一度召喚されたことへの不満なのだろう。が、魔術しか使えなくなってしまったガウナは、そこに触れることなく話を進めていく。


「魔法を使えなくしたことで、何かのメリットがあるとか?」

「実際、ガウナ様は炎魔法と空間魔法が使えなくなりましたからね」 


見事に弱体化させられたというわけである。


「君の予知は使えるんだよね?」

「ええ。ダグラスは魔法使いと謳いながらも、その実使っていたのは魔術ということらしいです」

「まあ、一般人には魔術と魔法の違いなんてわからないからね」


わかったようなことを言いながらも、「僕もつい最近まではわかってなかったけどね」と心の中で付け加える。


「でも、これでわかったことがある」 


ガウナが魔女の生贄を使えるということは、チェルシーもまた、ディーチェルのご先祖様特有の結界を使えるということ。魔術なら生き残っていると仮定すると、リルウはまだ“抜け穴”を使えるということである。


「リルウが“抜け穴”を使えるのは痛いな。“神殺し”も、どうせなら魔術を封じてくれれば良かったのに」


そうしたら、魔法や魔術なんて関係ない、純粋な暴力の世界になるのに。


「そんなことをしたら、貴方の勝ち目がなくなりますよ」

「それはそうだね」


呆れたようなエリオットの言葉に、ガウナは素直に頷いた。 

魔術が残っただけ万々歳だ。魔法だけを使える人物にとっては悲劇だが。


ここでもう一つ、検証をしてみる。


「魔法と魔術は、どちらも人智を超えた力だけど、神から直接与えられている分魔法の方が有利だった」


ガウナは、首を傾げるエリオットを尻目に、机の上に、紙幣を一枚と、硬貨数枚を並べた。この紙幣一枚だけで、机の上にある硬貨よりも価値がある。


「けれど、“神殺し”が起こったせいで、魔法は意味を成さなくなった」

「あっ」


擦ったマッチで紙幣を燃やす。エリオットが焦ったような声を出した。


「勿体ないですよ」

「この方がわかりやすいと思ってね」


マッチも一瞬だが、やはり炎魔法には劣る。燃え残りを見て、ガウナは「さて」とエリオットを見た。


「これで得するのは誰だろう」

「単純に、魔法よりも魔術が得意な人物でしょうね」


そう。紙幣を紙屑同然にして、価値を暴落させ、なし崩し的に硬貨……魔術の価値を高めた人物である。


「つまり、魔術師ってわけだ」

「……まさか」

「そう。稀代の魔術師セブンス・レイク。あの性格の悪い男が、僕のことを殺そうとしてる、とか」

「それはありえません」


エリオットが即、否定した。()()()()()()()()()()()()


「あの方は、貴方に対する抑止力として、帝国の姫君に魔法を仕込んで脅してきたのでしょう? それをわざわざ無に帰する意味がありません」

「……だよね」


そう、推理の穴はそこなのだ。もしもセブンスがガウナに対して勝てる魔法を有していなかったとしても、ラミュエルがそれを補えば、ガウナへの抑止力になる。実際、あの猪娘が魔法を使えるようになったことで、十分脅威だと思わされてしまったのだから。


…………だが。


肩をすくめる。


「それじゃあお手上げだ。困ったなあ」

「そうですね。あ、もう少しで五分が経ちますよ」

「随分嬉しそうだね」

「名残惜しそうにする分だけ無駄ですから。どうせまた、呼び出すつもりなんでしょう?」


心を読まれている。ガウナは素直に頷いた。


「素直なのは、とても良いことです。この前も言いましたが、私が貴方に幸せになってほしいのは、そのような点があるからかもしれませんね」


エリオットが微笑んで……男の体の力が抜ける。


ぞんざいに行政局員を床に寝かせて、ガウナは荒々しい動作で椅子に腰掛けた。


机の上の硬貨を、ちら、と見る。


ちょうどその時、執務室に、行政局長官が入ってきた。


「トウェル王、有力な情報は聞き出せましたか?」

「まあね。彼も立派な硬貨持ちだってことがわかったよ」

「……は?」


首を傾げる局長。それに構わず、ガウナは机の上の硬貨を一枚手に取って、弾く。


「死者も立派に、悪意を持ってるってことさ」

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