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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
死に損ない、海へと還る。
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神殺しの剣

生憎、彼は天才である。


赤い髪に赤い瞳。ご先祖さまと同じ色を持つ彼は、馬鹿な先祖を見下している。そうして、魔法でしか自分に価値を認められなかった馬鹿な父を見下し、神様を信じたまま死んでいった馬鹿な母を見下し、魔法使いを、不幸を押し付けられた右目の持ち主を見下している。そうして、彼の蔑みは、人間でないものにも向けられている。


「別れは済ませたか?」


セブンスは、冷たい瞳で、少年の姿をしている神を見た。


ラーナ・ナーヤは、その昔、魔法使いが英雄の遺した聖剣を使って、神を殺した場所である。


そもそも聖剣は、使われたからこその聖剣であって、未使用のものは聖剣とはいわない。魔法使いはお姫様にそのことを話さなかったけれど、たしかに聖剣は使われていたのである。神殺しの剣として。


さて、時を遡ろう。


いまは昔、四千年前、魔法使いは神を殺した。セレス姫と繋がりがあるのを利用して、多くの教会関係者を異端と見做して殺し、その光景を見て神に祈る人々を殺した。


神は、人々の心に宿るものであり、信じるものがいればいるほどにその力は強くなる。だから、神の力を弱めるために、信心深い人々は殺された。それを嘆いた人々も殺された。


神を信じる者を根絶やしにすることはできないが、ある程度殺せればよかった。それが、神の弱体化に繋がるからだ。


たくさん殺して、やっと神様を認識できるところまで引き摺り落とした。人間の肉体と同じように、たしかに刃が食い込み、血が出るようにした。 



まずは、心臓を一突き。



穏やかな日だ。木漏れ日が森に差し込む。陽に温められつつある地面は柔らかくふかふかしていて、そのまま寝転がっても気持ち良さそうだ。


心臓を突いた衝撃か、ペルセの体が跳ね上がる。喀血。細かな泡が口の端から流れ出た。 


「汚ねえな」


吐き捨てて、セブンスは刃を引き抜いた。


鳥の鳴き声が聞こえる。高く聳える森の木の葉が、風に吹かれて、さわさわと揺れていた。優しい音楽は、大いに耳を楽しませた。


「さて、お前の体でいちばん上等なのは、どこの部分なのかな」


日の光を跳ね返す刃を平らにして、ペルセの体の上に翳した。頭の先からつま先まで、ここはやはり。


「皮を剥ぐか」

「不必要な暴力!」


さすがに異議があったのか、ペルセが声を出す。セブンスは舌打ちした。やはり神は死なない。いや、


「お前さ」


ずっと思っていたことを言ってみる。ペルセは赤い瞳を見開いた。


「だから、契約する時にそうするんだな」 


呆れる気持ち。と、同時に、皮を剥ぐのはやめてやる。セブンスは、躊躇いなく、ペルセの右目を抉った。いや、これは右目じゃないか。


ぽっかりと空いた眼窩から、どろりとした血が流れて、地面に滴り落ちた。それは、ふかふかの地面に染み込んでいったかと思えば、受け止めきれず、そのまま血溜まりを作っていく。


セブンスは、血で汚れていない地面の上に、慎重に、取り出した右目を置いた。今度はペルセが、一つしかない目でそれを、呆れたように見た。 


「それは?」

「これは、土産だ」

「あ、そう」 


赤い赤い目玉は、きっと、この山で生まれたものなのだろう。もしくは、海底? どちらでも良いか。


「大切にしろよ。それは、壊れやすいから」

「俺に言うな。土産なんだから」

「だから、これは伝言だって」


これから不幸せになる奴への、と声が聞こえた。ペルセは喋っていない。


「脳も良さそうだな」

「脳はお勧めしないぜ。それこそ、人が扱いきれるものじゃない」

「俺なら使える」

「そしたら、もっと不幸になるぜ、お前」


わかりきったことを言う。人をさんざん不幸にしてきたくせに。


「じゃあ、どこが良いかな」


なんて、見当はつけてあるのだけれど。セブンスはナイフを振り上げた。血飛沫。残った左目を瞬かせ、ペルセは煩わしそうにした。


「よりによって()()とか。お前はやっぱり中途半端だな、セブンス・レイク。お前の親友なら」

「黙れ。舌を切るぞ」


だが、神は黙らない。


「いい加減、自分以外の人間も汚いんだって認めろよ。いつまで友達ごっこに興じてるつもりだ? いつまでトウェル・ソレイユの良心を信じてる? お前がいたら、タリウスもシルヴィも、もっと無惨に殺されていたかもしれないんだぞ? そうさ、お前がやってることは」

「逆恨み、だろ」


そんなことはわかっている。わかっているのだ。セブンスは、ナイフを振り上げた。欲しいものは手に入れた。だから、この体は用済み。あとはもう、魔法使いみたいに、みっともなく滅多刺しにして、鬱憤を晴らすだけ。


滅多刺しにするのには体力もいる。気力もいる。本当に馬鹿な行為だ。絶対後悔する。



肉を貫く音が響いた。



「だけどな」



骨を割る音が響いた。



「初めてできた友達を失いたくないって思って何が悪い?」


不思議だ。血を吐いてるのは神様なのに。セブンスは、左手で胸を押さえた。


「トウェルは俺と同じくらい頭が良かった。だからわかってたはずなんだ。この世には、手に入らないものだって存在する。いーや、あの世に行ったって手に入らないことだって」

「理解してなかったぜ。アイツ、お前より馬鹿だから」



刃を地面に突き立てる。片目を失った紅顔を、殴る。



「いい加減お前は、自分が仲間外れってことを理解しろよ。お前には理解者なんていないし、誰かの理解者にもなれない。だからお前は、()()を望んだんだろ?」

「……」 


そんなことはわかっている。わかっているのだ。


「そこで黙るところがお前の悲劇だな。そんで、雑魚な所以だ。そうだな、あえてお前のお友達を褒めるとするなら、アイツは中途半端じゃない、雑魚なのに雑魚の仕草をしないところとか。偽るのが上手いところは、褒めてやるよ」

「……」

「黙れって言わねえのな。はーつまんね。早く殺せよヘタレ。もう飽きてきたわ」

「言われなくても、もう殺してやるよ。判決の時だぜ神様。お前は死刑だ」

「主文は?」

「契約不履行」

「ふーん、なるほど?」 

  


したり顔のペルセの心臓に、もう一度刃を突き立てる、寸前に、声が聞こえた。



「あーあ、()()()()()()()()()()()()()が、可哀想でならねえや」

 





「持たせるわけねえだろ、聖剣なんか」


御伽噺になぞらえてだったのかもしれない。だが、セブンスは、ジルトがそれを持つことを許せなかった。


チェルシーの目利きの才能は、実は正しく発揮されていた。だからこそ、煩わしかった。


そして真実。セント・アルバートの寮部屋に置き去りにされたナイフは……どこからともなく、チェルシーの手元に流れ着いたナイフは、()()()()、聖剣になった。


「魔法使いの願いがない分、こっちのが扱いやすいだろ」


セブンスは呟いた。ナイフをかざして、自分の姿を見る。そこには、少女の姿など映っていない。いるのは、壮年の男である。彼は皮肉げに笑った。


「さあ、踊ろうぜガウナ・アウグスト。これは正当な、弔い合戦だ」

これで折り返しです。ここからデフレ。

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