天上の星
銀髪の公爵は、クライスからの報告を聞いて微笑んだ。
「そうか、ジルト君は君を使ったのか」
「はい。私が助けに入るのを見越していたかのように、平静な態度でした」
ガウナとは対照的に、クライスは不服そうだった。まあ、それもそうか。
「護衛なんて、監視の言い訳にしかすぎなかったんだけどね」
「その言い訳を、彼は利用したんです。私が見殺しにする可能性があったにも拘らず」
「なかなか肝が据わってるじゃないか。将来有望だね! さすが、セブンスの弟子といったところかな」
おどけたように、小さく拍手までし始めるガウナに、クライスは本格的に眉を顰める。
「あれは、ただの子供とは思えません。ガウナ様が歩む道の障害になったら、どうするおつもりですか?」
「その時は排除するさ」
座っていたソファから立ち上がり、ガウナはバルコニーへと続く扉を開け放つ。
目の前には、満点の星空が広がっている。その星々を見つめながら、ガウナは問いかける。
「クライス、君は、死人が星になるという話を聞いたことがあるかい?」
「ええ。ですが、星の数と死んだ人間の数を比べなければわかりません」
「ロマンがないなあ」
やれやれとため息を吐き、ガウナは頭を横に振る。
「死してもなお、愛する人は見守ってくれている。夜になれば愛する人に会える……美しい話じゃないか」
「弱い者の気休めに聞こえます」
「クライス、君ね……」
まったく、ドライな従者である。だが、それはある意味正解だ。ガウナは星から目を離し、クライスの方へと向き直る。
「たしかに。見守ってくれている、という気休めじゃ、人は救われない。だから、僕は星を堕とす。
そのためなら、何人犠牲にしたって構わない」
風が強く吹き、木々がざわめく。ガウナの長髪を、吹き込んだ風がなぶって行く。
「まったく、彼女を笑えないな」
ファニタからすっかり事情を聞いたジルトは、驚いていた。何に驚いたかって、目の前の少女のヤバさにだ。
「お前、ガイアス・アドレナ男爵の論文だぞ!? あ、の! すっげえ天才の!? 未完成稿を、完成させちゃったの!?」
「あ、うん……」
いつかの逆で、ジルトに肩を揺さぶられながら、ファニタは引き気味に答えた。
「と、いっても、父様が言ってたことを足すだけだったし……第一、合ってるとは限らないし」
「そりゃそうだけど、まず答えを導き出すのがっ、はあー……お前って、本当面倒くさっ」
ジルトはファニタの肩から手を離して、額に手を当てる。
「な、なんでそうなるのよ!?」
心外だときゃんきゃん吠えてくるファニタを適当にあしらいながら、ジルトは心の中で舌を巻く。
ガイアス・アドレナの娘といえど、ファニタは十四歳。同い年のジルトがいうことでもないが、まだまだ子供。
血は争えないということか。
よくよく聞けば、ファニタは小さい頃からガイアスの研究を手伝っていたらしい。しかも、彼と議論も交わしていたとか。
ーーそりゃ、あちらさんも研究続けろって言うわ。
金の卵であるファニタを脅す気持ちもよくわかる。そういえば、ファニタは特待生だった。入学当初は「没落貴族のくせに」と陰口を叩かれていたのを聞いたことがあるが、その実力は確かにあったというわけだ。
「実力が伴ってるヘタレ……。なるほど、食い物にされるわ」
「誰がヘタレよ!?」
「お前だよお前。でもまあ安心しろ。俺がついたからには、お前を完全勝利させてやる」
自信満々なジルトに、ファニタは「でも」と眉を下げる。
「私、今家族を人質に取られてるし、圧倒的に不利なんだけど。また学内に、伯爵の手先が来るかもしれないし。どうやって勝つの?」
「そんなの決まってるだろ。脅し返すんだよ」
ジルトは悪どい笑みを浮かべて言い放つ。
「可愛い論文ちゃんを、人質にとってな」




