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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
死に損ない、海へと還る。
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千里眼と予知能力

神様は、残酷だけど、信用できる。


なぜなら、神様との契約は絶対だから。


私たち人間の口約束、あるいは書類上の約束は、一応は約束ごととなっているけれど、人の信用を捨てようと思えば裏切ることができる、そんな軽いものだ。


だけど、神様は違う。私のこのくだらない命さえ差し出せば、なんでも願いを叶えてくれる。どうしようもなく幸せになれない女の子でも、笑顔にしてくれる!


だから、私は神様が大好きだった。


もうすぐ、もうすぐで、女の子は幸せになれる。

終わりが、来る。











呆然と立ちすくむガウナのそばを横切って、彼はナイフを投げた。


空中でくるくると回るナイフ。それを器用に受け取る様は、彼のひとつの失敗を表していた。


ーーそれは、あの時の技だろう?


ルクレールは最小限の動きで回していたが、間違いない。ジルトがやりやすいように改良されたナイフの曲芸は、実は、彼が知るべくもない技なのである。




執務室にて。

その時のことを思い出して、ガウナは、自分の右手を見た。


自然と笑いが込み上げてくる。彼は、魔法を使うのを防ごうと、咄嗟に右手を取ったのだろうか。否。ガウナには確信があった。彼は、ガウナが左手を怪我しているとわかったから、右手を取ったのだ。


もちろん左手でもわかったけれど、右手で良かった。あの舞踏会の時と、全く同じ手で。


ーーアルセリアには、感謝しないとな。


おかげで、ジルトの優しさを感じることができた。彼女とつながっていたであろう、ニェルハにも感謝しなければ。彼女がガウナを殺しにきてくれたおかげで、ガウナは手を引かれることができたんだから。


声には出さずに、ガウナはしばらく右手を見て笑っていた。


「わかってたけど、キモいなお前」


そんなガウナに不躾な声をかけるのは、唯一無二、ちょっぴり人間の感情を知ったペルセである。

彼はもう全てを知っているらしい。よっこいしょと、執務机に行儀悪く腰掛けたペルセは、頬杖をつき、ガウナのことを半眼で見やる。


「予知能力者に悟られないように、無言で喜ぶとか。今頃あちらさん引いてるぞ?」

「……」

「人間ごときが神を捕捉できるわけないから、喋っていいぞ」

「じゃあ言うけど、僕は今とっても幸せだよ。どうして気づかなかったんだろう、ジルト君はちゃんとあの瞳の色をしていたのに。僕の目は節穴だな。あんな綺麗な瞳、この世に一つとしてないはずなのに! それなのに僕は彼に手をあげたわけで……過去の僕を殺しにいかなきゃ」

「情緒が不安定すぎる。そういうとこ、薔薇の魔女そっくりだなお前」 


けっこう失礼なことを言われて、ガウナは立ち上がりかけていた体を戻して、椅子に着席。冷静になる。


「結局、僕は運命から逃げられないってことか。僕は薔薇の魔女、ジルト君は英雄の生まれ変わり。ローズはどうやったって、アルバートに惹かれるんだな」

「そうそう。つまりーー」

「つまり、前世でのお墨付きがあるってことだね!」


ガウナは今度こそ、拳を握って立ち上がった。頭が沸騰しそうだ。


「僕とジルト君は、結ばれる運命だってことだ!」

「いや、結ばれてねえよ」


最大限瞳を見開き、きらきらと藍色の瞳を輝かせるガウナに、ペルセが冷静に突っ込む。


「前世の通りに行くなら、お前は英雄に殺されておしまいだよ」

「ああ、そのへんから借りてきたナイフで殺されたんだっけ? 聖剣では殺さなかったんだよね」


事実を突きつけられたガウナは再び椅子に沈み込み、絵本と、実際のローズの記憶を思い出しながら言った。


絵本は、少々理想的で道徳すぎるきらいがあるが、アルバートが聖剣を使わなかったという点においては、真実を描いている。アルバートと姫が結ばれたというでっちあげは許されないが。


「英雄は、どうして魔法使いから渡された聖剣で殺さなかったんだろう」

「さあ? 人間の考えることはよくわかんねえ」

「あの結末は、君の望むものだった?」

「だいたいはな。俺はな、力を与えた奴が破滅するのを見るのが大好きなんだよ」  


今度はペルセがうきうきと話し出す番だった。性格悪すぎる。いつか刺されるぞ……いや、刺されても、死にはしないか。神様だし。


ふと、気になった。


「そういえば、絵本には書いてないけど、君ってどうして、人々に忘れられたの?」


名前を忘れられた神、それがペルセだ。ラーナ・ナーヤの山奥に引きこもっていた彼は、小説家、トアヒェル・テラーゼと意地の悪い賭けをした後に、彼に名前を返し、自分の名前を渋々取り戻したのである。


するとどうだろう、ペルセの顔はみるみる歪んでいき、嫌そうな表情になった。


「ダグラスだよ、ダグラス。あの偽善者な魔法使いが王族と手を組んだせいで、俺は忘れられたんだ」

「ああ、そういうこと」


ワインボトルの破片で自殺した彼は、たしかこう言っていた。


『神様脅して手に入れた予知能力は、何もかもが遅過ぎたことを教えてくれただけだった』


「脅されたんだ」

「いや? そんな可愛いもんじゃないさ」 


ペルセは床に降りて、左目を瞑った。


「俺は、アイツに一回殺されたのさ。殺された……うーん、まあそんなもんかな。で、予知能力をぶん取られたってわけ」


とんとん、と閉じた左目を指で突く。


「だから、俺には予知能力が使えない」


今度は、右目の下を指で。 


「千里眼くらいしか使えないから、ネタバレされることはないわけだ」

「この世の事象をネタバレ扱いするのは、君ぐらいなものだと思うよ」

「いや、ネタバレってそういう意味じゃないんだけど……まあいいや、さーて、お前の愛しの英雄様はどこにいるのかなーっと」

「べ、別に、クライスに見張らせてるからジルト君の居場所はわかるし? けど、君がどうしてもっていうなら、今ジルト君がどこで何をして何を話してるか、教えてくれてもいいよ?」

「め、めんどくさっ、俺のゲームの駒めんどくさっ!!」 


人のことをゲームの駒という神様も大概である。


「心配しなくても、すぐにわかるよ、ほら」  


ペルセが扉の方に目をやった。一コンマ後に、ノックもされずに扉が開き、クライスが入ってきた。


「ガウナ様、性急に、報告したいことがあります」

「もしかして、ジルト君のこと? 何か動きがあったのかい?」


それにしては、ただの報告ではなさそうだ。クライスは頷いた。


「はい、そうです。ジルト様を、見失いました」

「……なるほど」


ペルセの方を見る。ペルセは、「な?」と右目を瞑ってウインク。ガウナはペルセを再び睨んだ。



この嘘つき神様が。


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