月下
ファニタちゃんご褒美回。
夕闇の暗殺劇は、ジルトというか、ジルトが頼ったクライスの勝利に終わった。
「一人でできることには限度があるってことを知ってると、色々と便利だぞ」
うんうんと頷くジルト。横では淡々とクライスが間者を拘束している。
「なにこれ……」
とりあえず、ファニタは辺りを見回してみた。疎らだった人通りは、完全に絶えている。夜の静寂が、街に訪れつつあった。
その静寂を破っているのが、ジルトの謎にテンションが高い声なのだが。
「いやーさっすがリーちゃんを守っていただけのことはありますね! どうだファニタ、すごいだろ!?」
「なんで貴方が偉そうなのよ」
脱力して、ファニタは泣き笑いを浮かべた。
ーーなんっにも解決していないのに、まったくコイツは。
冷たくなっていた心が、暖かくなっていくのを感じる。そんな単純な自分に、恥ずかしさも込み上げてきて、頬が熱くなるのを感じた。
「だいたい、リーちゃんって誰なの?」
「ん? 陛下だけど」
「……もう一回」
「リルウ女王陛下」
くらっ。
あ、もうダメだ。脳の許容量を超えてしまった。
ファニタの目の前が真っ暗になった……。
声が聞こえる。
ゆらり、ゆらりと。心地よい揺れが、ファニタの体に伝わってきた。
「俺は、お前の面倒くさい性格、嫌いじゃないんだよ」
小さく、優しげな声に釣られるように、ファニタは目を覚ました。それに気づかない声の主は、ファニタを起こさないように、ゆっくりと歩みを進める。
「前も言ったと思うんだけど、覚えてないだろうな。何もかも諦めた俺にとって、お前は本当にすげえ奴に見えるんだ……」
柔らかな灰色の髪の毛が、ファニタの目の前にある。
「だから、お前が死にそうな顔してた時、これじゃいけないって思った。レネとかハルバがちらっちら見てきたのもわかってたし。
遅くなってごめんな。でも」
苦笑が聞こえた。
「お前の変化に気づかないくらい、俺が鈍臭い男だと思ったか?」
一気に、体全体が熱くなったような気がした。
気づかれないように必死に瞑られた目とは真逆に、心臓が高鳴っている。その言葉は、まるで……。
「お前の変化には、すぐに気づくよ。なにせ、
お前は、俺の恩人だからな」
ーーうん。そうよね!
気のせいか、月が霞んで見える。ファニタはもう一度この背中で寝てやろうと決心した。




