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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
遺志の証明
249/446

どうせ僕には

やっっとここまで行けた

エリサを騙る彼女は、ガウナのやり方に驚愕しているようだった。


「あの、アウグスト宰相はこちらにいらっしゃるとして、リルウ陛下はどちらにいらっしゃるんですか?」


きょろきょろと、中庭に設られた表彰台の下で、会場を見回すエリサ。ガウナは悠然と答える。


「もちろん、ここにはいないよ。だから、誘き出すのさ」

「……?」


困惑はごもっとも。なぜなら、ガウナは表彰式でリルウを殺す話しかしていないからだ。


影武者を立てて、リルウを殺す話はしないでおいた……壊れかけたエリサは、小さな女の子を放って置けない程度にはお人好しだろうから。

後に引けない状況で、壊れたままでいてもらう。自分を取り戻すことなく、リルウ殺害に協力してもらい、『円卓』崩壊の礎となってもらう。


そのためには。


「リルウの影武者を立てる。そうすると、どこかのお人好しな少年が釣れるから、今度はその少年を使って、リルウを誘き出す、というわけさ」

「少年というのは、ジルト・バルフィンですか?」


エリサはさきほどの話を覚えていたらしい。ガウナは頷いた。


「そうだ。あとは、共和国の刺客がリルウに気付いて、殺すだけ。簡単だろう?」

「そんなにうまく行くでしょうか」

「少なくとも、リルウが来るところまでは確定している」


ガウナはジルトの善性を信じていた。リルウでも、影武者の場合でも同じ。共和国の刺客とその関係者に命を狙われている人間を放っておけない彼は、必ず舞台に上がってくる。


その善性が、リルウを、エリサを殺すのだ。


ぞくぞくとしたものが背筋を這いあがり、ガウナは極上の笑みを浮かべた。誰かを助けようとして助けられなかった時の絶望し切った顔を、もう一度見てみたいものである。


「畏れ多くも、女王陛下の影武者を買って出てくれた生徒のためにも、計画を成功させないと、だね」


エリサの耳元で囁くと、エリサはこくりと頷いた。


「ええ……呪われた王家の血を、絶たないといけません。それが、エリサへの手向けです」 


ふむ、とガウナは顎に手を当てた。これは、もしかするともしかするのかもしれない。 


ーーまあいいさ。どっちに転ぼうが、殺すまでだ。


表彰台の上で全てを決する。エリサがジルトの名前を出したことが気になるが、それはガウナが予め共和国の話をしていたからであって、何ら不思議なことはない、はず。


ーーだけど、なんだろう。


妙に引っかかる。エリサが最初に立ち入り禁止の場所に現れた理由、ジルトの名前を噛み締めるように言っていた理由。

なにか見落としていることがある? ガウナから部下を排し、エリサの爆弾を爆発させようとしている人物が、まだ隠していることが?


嫌な予感がしつつ、ガウナは舞台に上がる。表彰式での飛び入り参加を快く受け入れてくれた学園長は、淡々とクラス名を読み上げていく。


この学園祭には、最優秀賞なるものが設けられている。

一般客に投票権が与えられていて、学園祭でいちばん良いと思ったクラスに投票してもらう。いちばん票を集めたクラスが最優秀賞。最優勝賞を獲ったクラスには、トロフィーと賞状が送られる。


これは、大火以前の学園祭からの習わしなのだと、エリサが教えてくれた。


表彰式でリルウを誘き出すという話をしていた時には驚きの表情をしていたのに、ことここに至っては、何かを思い出すかのように教えてくれたのである。やはり、彼女の形は、定まりつつあるのかもしれない。


……幸いと言っていいかわからないが、なんと、事前に教えてもらった最優秀賞は、二年一組だった。少しだけ投票理由を見せて貰えば、中庭の寸劇が楽しかった、とか。


『茶髪のメイドさんが可愛かった、ですか。まあ当然ですね』


詳しくは思い出せないが、誰かと似た雰囲気のリルウの影武者は、そうやってウンウンと頷いていた。名前をアリア・ソリュースという。影武者を集ったときに、立候補してくれた、演劇部の部長である。


リルウよりも背丈があるが、金髪のウィッグを被り、ドレスを着た彼女は、女王陛下になり切っていた。

曰く、『そういう出し物も良いでしょう。偽物であったところで、誰も損することもないでしょうし』とのこと。

話していて思ったが、この生徒、ガウナをゴミ虫でも見るように見てくる。おかげで、罪悪感なく囮にできるというものだ。


表彰式は滞りなく進み、いよいよ、最優秀賞である二年一組の番になった。代表者であるトリー・ネラルが前に進み出て、ガウナと、リルウに扮したアリアが、賞状とトロフィーを手渡す。トリーが涙の滲んだ目で一礼し、表彰台を降りようとし、 


「最後に、うちの看板娘から、皆さんにお礼の言葉を言いたいと思います!!」


声を張り上げた。


「ほら、こっちに来いよ、バルフィン!!」

「恥ずかしいから大声で叫ぶな!」


と、言いながら上がってきたのは、メイド服を着たジルトである。思っていた形とは違ったが、ジルトが釣れたのは僥倖。あとは、リルウを釣るだけ……。


「……たいへん、面白いことをしてらっしゃるのね」


忽然と。


本物のリルウが、表彰台の上に姿を現していた。ジルトで釣るつもりが、自分の影武者を立てられただけで、自主的に舞台に上がってきたらしい。誰も気づかなかったのは、チェルシーによる認識阻害の結界によるものか。


本物の女王陛下の登場に、会場がざわついた。さあ、これで、共和国と、彼女が動く。


「め……悪魔の、むすめ」


先に動いたのは彼女だ。ふらりと壇上に上がり、リルウに近づいた。リルウはちらりとエリサを見て、ガウナはそれを庇うふりをし……



「アルセリアッッッ!!」



観客たちの方向から、響き渡る大声。びたりと、エリサが動きを止めた。鈍く動いた首、向けられた視線の先には、トラン・ネラル。


ガウナは心の中で舌打ちした。やはり予想通り。その名前を呼ばれた彼女は、目を見開き、淀んだ瞳に光を取り戻していく。


だが、これは幸いでもある。名前を呼ばれて正気を取り戻した彼女の矛先は、ガウナに向くこともなく、ぺたりと、床に座り込んだ。


ーー『円卓』崩壊計画は失敗。反吐が出るな。


名前を呼ばれたくらいで自分を取り戻すとは。つまらなさそうな顔をしたガウナは、視界の端に映った誰かの爪先に気付いた。


ぞわりと、向けられる殺気に肌が粟立つ。そう、リルウではなく、自分に向けられる殺気に、だ。


少女は、フードの下のトルマリンの瞳を光らせた。


「それで、エリサ殿。私は、どちらを殺せばいいんですか? あ、ジルト様は除外で」


彼女の瞳は、リルウの方を向いてなんかいない、明らかに、ガウナの方を見ている。エリサ……もう、アルセリアと言った方が良いだろう。彼女は、何かを言おうとし、ガウナの方を見た。全ての始まりである、地下の死体を作った男を。


「ええ、承知しました」


声は、すぐそばで聞こえた。帝国のラミュエル姫にも劣らない疾さ。


これだと、アルセリアも巻き込むことになる。瞬時に死体をふたつ作り上げた自分は、化け物扱いされることになるだろうが、もう、どうでもいい。


なにせ。


「ば、バルト先輩っ!?」

「下がってろ、()()()()()()()


ーーああ、そうか。


これは、仕組まれたことだったっけ。


「お兄様っ!?」

「ジルトっ、お前の好きなようにやれ!!」


迫り来る刃。刺されたら終わりだが、避けられそうもない。だったら、相手よりも早く、“魔女の生贄”を発動するしかない。



ーーそうさ。どうせ僕には。



手を引いてくれる存在なんて、いないんだから。 


指を鳴らそうとしーーその手が、掴まれる。


「え」

「どうして」


トルマリンの瞳は揺れていた。からん、と、ナイフが落ちる音が聞こえた。



ガウナは、無様に座り込んで、彼を見上げた。彼は、ジルトは、草色の瞳を細めていた。


ーー助けてくれた? いや、そんなわけ。


そっと離される手を、じっと見た。都合のいい考えだと首を振る。皮肉げな笑みを浮かべた。


「この子を死なせたくなかった?」


“魔女の生贄”で死んでいたであろう、共和国の刺客の少女。それを助けるために、ガウナの手を引いたというのなら、納得できる。


トルマリンの瞳は揺れていた。けれど、ガウナは、それ以上に、自分の瞳が揺れているのを自覚していた。


果たして、草色の瞳の少年は首を横に振った。


「それもあるけど、別の理由もある」


座り込んだガウナに、再度手が差し伸べられる。気のせいなんかじゃない、これは。


「きっと、あの人はさ」


アンタを助けたこと、後悔なんてしてないと思うよ。



“良心”は、優しく微笑んだ。


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