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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
遺志の証明
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形の定まらない爆弾

状況が悪化することをわかっているのに、こうして手を打たざるを得ない。袋小路に行き着くとわかっているのに進まざるを得ない、気持ち悪い感覚。


今まさにガウナが味わっている感覚である。


定刻になっても報告に来ないダリル、ケネス、ベン。その三名の状況を把握するために、クライスを捜索に向かわせたが、この学園祭でガウナを追い詰めようとしている者にとって、これは想定通りなのだろう。


だからといって、クライスを向かわせないわけにはいかない。ラテラからチェルシーの手にケネスが渡れば、確実に拷問にかけられる。情報を吐く前にケネスは死を選ぶだろうが、人材の損失は免れない。


自分の性格を最大限に悪くして、想像力を膨らませるならば、ラテラにとっととケネスを片付けさせて、そのケネスを隠すために時計塔に登らせる。時計塔には、全体を見晴らすためにクライスが登っているから、クライスも足止めされる、というわけだ。


頭の痛くなる話である。完全に部下と分断された。かわりにガウナのそばにいるのは……。


「そもそも、陛下はここにいらっしゃるんですか? 仮にいらっしゃったとしても、そのような方法で誘き出せるなんて、到底思えませんが」


怪訝な顔をする、エリサの偽物のみ。ガウナは微笑んで、彼女がいかに彼を愛しているかを語ってやる。それでも、彼女は不安の色を保ったまま。


不安といえば、彼女自身も不安要素だ。どうして中庭の立ち入り禁止の場所に現れたのかもわからない。それに。


「どうして君は、僕の変装を見破ったんだい?」


一応とはいえ、ガウナは生徒の父兄に扮していた。それを一発で見破るのは、理解し難い。


すると、エリサは、


「……不思議とわかったんです。どうしてかはわからないけど」


ズレた眼鏡を直しながら、そう言った。


「サイズが合ってないみたいだね、その眼鏡」

「ええ、でも、これは大切なものですから」


なるほど、彼女も偽っているから、ガウナのことがわかったわけだ。そして後ろ暗いことがあるから、自然と中庭の人気のない場所に行ってしまい、ガウナを見つけた……というところか。


ーー思ったより、エリサに同化してないんだな。


形の定まらない存在、それが彼女だ。そして、形が定まらないからこそ、ガウナよりも、トウェル王への怨恨を抱くことができる。ガウナよりも、リルウを殺そうと動くことができる。


だが、それがひとたび崩れたならば? 彼女が、どちらかの形を定めたのなら?


それこそが、この性格の悪い計画を立てた人物の狙いなのだろう。精神が不安定な人間を爆弾がわりに使うとは、まともな人間のすることじゃない。


「まずは、リルウを誘き出すための餌を誘き出さなければね」


そういえば彼は、共和国に狙われていたっけ。リルウは彼の暗殺を阻止するために学園に潜り込んだわけだから、それをうまく使えば、エリサに殺させることができるかもしれない。実際に殺せるとは思っていないが。


これはあくまでも、『円卓』崩壊のための手続きだ。


一般人が、魔力持ちに敵うわけない。齢十の少女とはいえ、彼女は史上最悪の男の血を受け継ぐ娘。エリサの偽物が彼女を殺せる未来など、ガウナは思い描いていない。

だが、エリサ・モルトーを名乗る者が、女王陛下を殺そうとしたという足掛かりさえできれば、あとはそこから四年前の卒業生にたどり着かせるだけ。

エリオットほどではないが、警邏局上層部と繋がっているガウナにとっては、容易なことである。


更に言えば、このエリサの形をした人物の矛先がガウナに向いてもこちらの勝利なのである。彼女にガウナは殺せないし、ガウナもここで死ぬつもりはさらさらない。


女王を殺そうとする方が重罪だから、できれば宙ぶらりんでいてほしいが、宰相暗殺でもまあまあの罪には問われるだろう。


だから、彼女がどちらに転んでも、『円卓』崩壊は確定……の、はずなのだが。


ーー僕のそばに彼女が残されたということは、それも織り込み済みってことになるな。 


午後三時の鐘が鳴ってから、三分が経った。


クライスは、まだ帰って来ない。






……どうしてこんなところに人が?


台座に押し込められていた男を前にして、首を捻るジルトとアントニー。ただ一人、ニェルハだけが、淡々と呟いた。


「ああ、この人、たぶんダリルって人のお仲間ですよ。それなりに強そうです」

「お仲間ってことは」

「この人も、誰かを尾けていたんじゃないですか? ほら、この人写真を持ってる」


堂々と男の懐を探るニェルハは、やはり手慣れた様子だ。ジルトとアントニーは、その写真を見て、頷き合った。そこに写っていたのは、ハドソン・ガレスである。


「こいつとハドソンが繋がってて、もしもはぐれた時とか、裏切られた時に見つけられるように、写真を持ってたってとこか?」


アントニーも堂々とダリルの懐を探り、ロッドの写真を見つけ出したようだ。


「卒業生一人につき一人、監視任務を課せられてたんだな。で、こいつがその任務についてることを把握しながら気絶させたのが」


男を検分していたニェルハが立ち上がり、警戒体制に入る。ぱきりと、小枝を踏む音がした。


「よっ、さっきの情報役に立ったかい?」

「しゃあっ、ニェルハ、こいつを捕まえろ!」

「シルクちゃんの命令じゃないのが不満ですが、わかりました」

「えっ、ちょ待っ」




アントニーとラテラにジルトの居場所を教え、ロッドの危機を救わせた卒業生。それが、今ここにいて、ニェルハに腕を捻られているバルトである。アントニーが、バルトの前に屈んで凄む。


「おら、吐け。あんときは人の命がかかってるから詳しくは聞けなかったが、今思ったらギリギリで教えることで詳しいことを聞く暇を作らせなかっただけなんだよな?」

「さ、さすがマルクス家の不良息子。ガラが悪いなぁ」


だが、バルトはどこか余裕そうだ。どころか、ジルトのことを見て、笑いかけてくる。


「中庭に集合って言ってたけどよ、ハドソンとケイヴは穴に突き落としておいた。意味、わかるよな?」


ジルトは頷いた。穴というのは、おそらく地下通路の入り口を意味しているのだろう。


貴方は何者なんですか。そう質問したいのに、ニェルハがいるから声を出せない。代わりに質問をしてきたのは、バルトの方だった。


「ところでさ、シルクちゃんの正体、嬢ちゃんに教えてやらないのか?」

「……」


ニェルハのことも織り込み済みというわけだ。アントニーが、「お前は何モンだ」と低い声を出した。


「学園祭を使って、何をしようとしてる?」

「それは教えられない。教える気もない」


きっぱりと言ったバルトは、真摯な瞳で、下卑た笑みを浮かべた。


「なあ、シルクちゃん。これは交換条件だ……君のことを言わない代わりに、俺を仲間に入れてくれよ」



俺たちが壊れないためにさ。


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