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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
遺志の証明
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かわり

当然ながら、ガウナは、エリサが既に死んでいることを知っている。なので、目の前の人物は、“エリサの格好をした誰か”ということになる。


ーー死人の名前を騙る誰か、か。


可能性として、考えていたことは二つ。正常な誰かが、エリサの振りをして何かを企んでいるということと、異常な誰かが、エリサの振りをしているということだ。今わかった、この場合は、後者である。


正常ならば、手紙の中でだけエリサの真似をすればいい。今のようにこうして、四年前の彼女そっくりに変装しているのは、明らかに異常だ。


「ふふっ……宰相は仕留め損なったかぁ。でも大丈夫よ、エリサ。まだあの男の娘がいるから」


様子のおかしくなった女は、虚ろな目をしながら、くすくすと笑う。


ーーあの男の娘?


さきほどの言葉も思い出して、それがリルウのことなのだと思い当たる。


ーー迎合と言っていたな。ということは、僕はオマケで狙われている?


四年もの間沈黙を守っていた『円卓』が急に牙を剥いてくるのもおかしな話。だが、四年前の出来事と併せて、ガウナを狙う理由が、他にできたのなら?


「……は、……な」

「へ?」


大袈裟に首を傾けた女に、ガウナは微笑んだ。


「僕は、あんな悪魔の娘に迎合してはいない。むしろ、あの男の娘が憎いから、傍にいて、殺す機会を狙っていたんだ」


ラテラの殺気が一気に膨れ上がった。ガウナが、この女を“使える”と思ったことを見抜かれたのだろう。だが、この女は狂っているとはいえ一般人。手を出すことは不可能。そう読んだのか、ラテラが姿を消す。おそらくジルト達の元に行ったのだろう。 


いや。


もしかしたら、ロッドではなくロゼッタの方なのかもしれない。それくらい、ロッドの居場所を知っていた何者かならわかっているだろう。


エリサの名前を騙る何者かに対して人質は効くのかはわからないが、カードは持っておきたかったのだ。それができないとわかった今、やるべきことは。


ガウナは、女に手を差し伸べた。


「だから、一緒にリルウを殺そう。エリサ」


女は少し迷った後……そっと、ガウナの手を取った。握った手の感触は、“彼女”とは違う。

だから、このやりとりに、誠意などあるはずもないのである。






暗闇の中での同窓会は、意外な盛り上がりを見せていた。


「そうそう、そんでさ、お前が派手に転んだ時、エリサが真っ先に駆け寄ってきてさ、俺はあれで理解したね。お前らは相思相愛だと」

「ふへへ、あの時のエリサ、優しかったなぁ」


土を払って、心配そうな顔をしてくれたエリサ。その時の幸福感が蘇ってきて、ハドソンはだらしない笑みを浮かべたが、いやいやと首を振る。


「エリサは誰にでも優しかったですよ! だって、トラン先輩が指を切った時も、アルセリアが熱を出した時も、看病してたから!」

「……そうだ、エリサは優しかった。『円卓』のみんなに笑っていてほしいと言っていた」

「“言っていた”……? トラン、お前エリサに会ったのか?」


過激派のケイヴが鋭い視線でトランを見る。トランはその視線に臆することなく、鷹揚に頷いた。


「この前、ちょっとなァ。たまたま仕事で顔を合わせたんだよ」


ここにきて、ハドソンの頭は混乱した。トランは、エリサがまだ生きているかのような言い方をしていたからだ。


ガウナから見せられた、療養所での死亡診断書は本物だった。エリサは病に倒れ、()()寂しく死を迎えた。その罪悪感と、ケイヴがやりとりをしている偽物への怒りが合わさって、ハドソンはガウナに協力して、偽物を炙り出すことに決めたのだ。


……その前提が、崩れようとしている。


暗い地下通路。それなのに、ハドソンの目の前には、一条の光が差したような気がした。


「エリサは、エリサは生きてるんですか!? いったいどこで!?」

「それは言えない……お前ならわかってるはずだ。エリサがどうして自分の死を偽ったのか」


言われて、ハドソンはケイヴを見た。エリサから手紙をもらっていたケイヴは、やれやれと肩をすくめた。


「お前が馬鹿なことをしないように、お前を巻き込まないように自分の死を偽ったってわけか。たしかにお前なら、“あの手紙”を受け取ったら、いてもたってもいられなくなって、直接エリサに会いに行くだろうし?」

「エリサ……」


ハドソンは、今、危機的状況にいるであろうエリサへと想いを馳せた。座っていた地面から立ち上がる。


「そ、それなら、エリサを助けに行かないと!」

「って、お前が張り切るから話したくなかったんだよ。心配するな、手は打ってある」


ハドソンの首根っこを引っ掴んで地面に伏せさせた理不尽な先輩は、やはり柄の悪い笑みを浮かべていたが、ふとハドソンを見て、優しく笑った。


「なあハドソン、お前、まだエリサが好きか?」

「当然ですよ!」


ハドソンは憤慨した。何度エリサに会いたいと思ったことか、何度抱きしめたいと思ったことか!


拳を固めてそう言うと、トランは、少しだけ寂しそうな顔をした。その理由は、ハドソンにはわからなかった。











……こんなにも、報われない人生があっていいものかと思った。


「私、もう、ペンを握れないの。だからお願いアルちゃん。私の代わりに、お手紙を書いて」


弱々しく笑った彼女は、ゆっくりと指を曲げようとした。違う、これは、手を握ろうとしているのだ。私は、彼女から来た、文字とも呼べない文字の手紙を思い出した。


「首から下が、うまく動かないの。本当なら死んでたんだって。運が良いよね」


運が良い? 両親が王宮で焼け死んで、故意に馬車に轢かれたであろうこの人が?


「でも、私を轢いた人たちには、一矢報いてあげたいじゃない? 火傷が回って死んでしまったらしいけど……あの真実を明るみに出すのなら、この真実も明るみに出さないと」


ちょっといたずらっぽく笑った彼女は、私の額に濡れた布を載せた時みたいに、なぜか頼もしげに見えた。




私はできるだけ、彼女の筆跡を真似て手紙を書いた。『円卓』の仕切り役であるケイヴ先輩に、最初は嘘の詰まった穏やかな内容を。それから王家が隠している禁域と、あの化け物が囚われていた理由の話。後半になるにつれて、私は、どうして彼女がこんな目に遭わなければならないのかという激情に駆られて、本来の私の筆跡に戻っていた。でも、私は彼女だった。彼女の代わりに、彼女の無念を書いて、どうして私がこんな目に遭わなければならないのかを書いた。


忘れられたくない、私が忘れたら、誰が私を覚えているのだろうか。そうだ、私が私になればいい!


ハドソンもおかしな人ね。本当の私はここにいるのに、私に手紙を書くのを頼むなんて。私こそがエリサ・モルトーなのに。  


馬車に轢かれて、首から下が動かないようになった彼女なんていないのに。


「だから、一緒にリルウを殺そう。エリサ」


なら、どうして、私は女王陛下を殺そうとしているんだろう。

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