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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
伯爵と復讐
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一人でできないことは

『素早い報告? そんなのどうやって』

『なに、簡単な方法だよ。君は……』











長い、長い時に思えた。実際は十日ほどだったと思う。 


週末。アゼラとの密会を終え、ファニタは重い足取りで夕闇の王都を歩く。こんなにも、王都は寒々しかったかと思うほどに、人通りは疎らだった。


ーーもう、ダメだ。


ハルバへの八つ当たりは、間者から報告されていた。アゼラからは、この件には関わらなくていいと言われてしまった。


そうして、ファニタに残ったのは、忌まわしい研究のみ。


「ハルバが、ハルバが、私のせいで……!」


景色が歪む。無力感が身体を蝕む。


……ふと、顔もわからないほどにぐちゃぐちゃになった父が、肉塊が、頭に浮かんだ。晴天の日に馬車に轢かれていたという父。


もうファニタにはわかっていた。父は殺されたのだ。


『アッカディヤの魔術儀式』。その結論を出さないことこそが、父の最後の抵抗だった。


ファニタはそんな父を誇らしく思う。


そして、心の中で、家族に謝罪する。


ーーごめんね、お母さん。スーナ……。


実は、ファニタはもう、結論に辿り着いている。


寸止めの研究に、父から聞いていた言葉。それをつなぎ合わせれば、おぞましい結論は容易に導き出せた。導き出した時、ファニタは戦慄した。


これは、あってはならない術である。


だから、父の論文とともに、私も、父のように。


でも、最後に、アイツの顔を見に行ってもいいかもしれない。振られたなんて言ったから、アイツの立場が悪くなったりして。恨まれてたりしたら泣いてしまうかもしれない。もう泣いてるけど! やっぱり無理だ。やめよう。


何も心配しないでとお母さんたちに手紙を書いて……、やっぱりダメだ。怪しまれる。


それなら、レネに、ハルバに、


……


「なーんだ」


思いつくままにやりたいことを考えていたファニタは、立ち止まる。


ーー私にできることなんて、何もないんだ。


こんなことなら、アイツに告白しておけばよかった。告白までは行かずとも、お礼を言っておけばよかった。


そう、学園に入学した時に、ファニタを助けてくれた、あの言葉。



「『お前って、面倒くさい性格してるよな』」



そう、初めて聞いた時は憎らしく思ったこの言葉が、後々ファニタには救いとなって……。


「え?」


幻聴。幸せな幻聴だと思った。


「まったく、貴方は、こんな時までも……」

「おーい、ファニタちゃーん?」


幻覚までも見えてきた。ニタニタと笑って、こっちの気も知らないで、わりとムカつく幻覚である。えいっとファニタは拳を突き出してみた。


「いだっ!? え? 俺、なんかした?」

「え? あれ? え?」

「え? じゃねえよ」


柔らかな感触。頬をおさえたジルトが、ぶすくれていた。


「いつからお前は拳で挨拶するようになったんだよ」

「生きてる……?」

「え? 俺って実は死んでるの?」


二人してはてなマークを飛ばし合い、ファニタははっとする。


「なんで、こんなところにいるのよ!? 何しに来たの!?」

「何しにって、面倒くさい性格してるお嬢さんを助けに来たに決まってんだろうが」

「助けに来た、って」

「いやなんとなく。お前、明らかにおかしいし。なんかあったと考えるのが普通だろ。だいたいお前は……」


くどくどと話し始めたジルトに、ファニタは焦る。これは、アウトだ。


「一人でできることには限度があるってことを……ん」


突如。ジルトの首筋に、鋭く光る刃が突きつけられた。ファニタを学内で監視している間者である。暗殺にも長けているとアゼラが自慢していた彼は、ジルトを“見限った”。ジルトの背後にいる彼に、ファニタは手が届かない。


「ぁ、あ、ジルト、逃げっ」


ファニタが悲痛に叫ぼうとした、その瞬間。


「だから、今からその例を見せる」

「っ、ぎゃぁっ!?」


ゆったりとしたジルトの言葉と共に、なぜか間者が悲鳴を上げ、地面に倒れ伏す。その傍に立つのは、冷酷な雰囲気を纏った、見たことのない男。ジルトの命を刈ろうとしていた刃は、地面に突き刺さっている。


ジルトは他人事のように拍手する。ついでに指笛も吹いている。その様子を見たファニタは訳がわからなくて、ぽかんと口を開けていた。






時は遡り。


ジルトが公爵に、協力内容の説明を受けている時。


『素早い報告? そんなのどうやって』


手紙は悠長すぎるし、直接公爵邸に赴くのも遅すぎる。訝しむジルトに、公爵はしかし、にっこりと微笑んだ。


『なに、簡単な方法だよ。君は、ハルバ君に何かあったら学外に出て、彼に報告すればいいんだ。

拉致されてわかっただろうけど、君は彼に監視されているからね。まあ、護衛でもできたと喜んでくれ』






「さっすがクライスさん!! 俺のストーカーなだけありますね!!」

「褒めていらっしゃるのかわかりませんが、ありがとうございます」


黒髪を撫でつけた彼は、小さく嘆息した。


ファニタちゃん受難編終了です、お疲れ様でした!

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