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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
遺志の証明
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十二分の一

思えばこの先輩、堅気ではないのでは?


そんなふうにハドソンが思ったのは、トランが指をパキパキ鳴らし始め、臨戦態勢をとった時だった。見た目は優しいのに、なぜだか恐ろしい。あの長い足で蹴られたら骨折するのかな、と、馬鹿なことを考えたりする。


「全部終わるまでって、どういうことだよ」


強気なケイヴが、トランのことを睨みつけた。


「勿体ぶってないで教えてくれ。というか、関わらせてくれ。僕は完璧な円卓を維持するためなら、なんでもやるから」

「なんでもやるからダメなんだよ、お前は」


トランが額に手を当てて、天を仰ぐ。この場合は地下通路の天井だが。


「過激派二人が揃いも揃って、しかもなんだその荷物。お祭り堪能してんじゃねーぞ」

「いや、これは、むぐ」


二人の持っている食糧に呆れた視線を注ぐトランに反論しようとすれば、ケイヴの手がハドソンの口を塞いだ。なにするんですか、という意思を込めてケイヴを見れば、ケイヴが耳打ちしてくる。


「あの言い方からして、こいつ、バルトの野郎のことを知らないんじゃないか?」

「そういえば」


二人してトランを見る。トランは「相談事か?」と余裕の笑み。近寄ってきて、二人の食糧を奪い取り、地下通路の奥へと歩き出した。


「ま、なんでもいいけどよォ、安心しな。本当に話すだけだから。俺らの盟友エリサのことをーー生きながらに死んでいる、アイツのことを」






走りながら、ジルトはアントニーに訊く。


「ていうか、なんでアントニーさんがここにいるんですか?」

「さっきのバルトって兄ちゃんが教えてくれたんだよ。ロッドが殺されそうになるから、お前を拾って助けに行けって」

「俺を拾って……?」


心の中で首を傾げる。アントニーとラテラが乱入したことで、ガウナ側にはロッドを助けに行ったことがバレているわけだが、それなら、アントニーとラテラ二人で助けに行った方が良いのではないか。


「お前より、ラテラの方が強いから安心だろ」

「でも、俺達二人でロッドさんを助けることも難しいと思いますよ」


やはり、ラテラをこっちに向かわせた方が良いのでは? そんなことをジルトが思っていると、アントニーが首を振る。


「いや、そこらへんは大丈夫らしい。なんでかって言うと」

「あぁっ、天使だ!」


聞いたことのある声。急に抱きつかれて、ジルトはたたらを踏んだ。


「まさかまた会えるなんて!」


嬉しそうに頬擦りしてくるのは、共和国からの刺客であるニェルハだった。彼女はひとしきり頬擦りした後、「それで」とアントニーに半眼を向ける。


「天使ちゃんと一緒にいる貴方は、いったい誰ですか?」

「従兄弟だよ、こいつの従兄弟。な?」


さらりと嘘を吐いたアントニーは、ジルトの髪をぐしゃぐしゃ撫でた。ジルトもとりあえず、アントニーに話を合わせておくことにし、頷いた。


「そうですか、それでお二人は、どこに行くつもりなんですか?」

「知り合いが殺されそうになってるんで、助けに行くところ」

「こんな可憐な天使ちゃんと、ひ弱そうな貴方が!?」


自分への過大な評価と、アントニーへの正当な評価に、ジルトは吹き出しそうになった。おかげで眉の置き場所がわからない変な表情になってしまったが、結果としてそれが功を奏したらしい。


「思ったより早く、恩を返す時が来ましたね。天使ちゃんもこんなに不安な表情をして……良いでしょう。私は未だに標的を見つけられない無能ですが、恩人に恩を返すだけの能はあります」


トルマリンの瞳は、冴え冴えとしていた。ぼそりと呟いた言葉は、きっと無意識なのだろうが、しっかりとジルトの耳に届いていた。


「誰かを殺すより、誰かを助ける方が、やりやすいし」


まったくもってその通り。


『誰かを救うという大義は、人を容易な行動に駆り立てる』


不意に、そんな言葉が蘇って、ジルトは自分の両手を見た。“魔女の棲家”で、ガウナの心臓を刺した両手を。


“良心”を発揮したあの人は、それを踏み躙られて、仲間を殺された。そして、ジルトと同じように、アイツを殺そうとした。 


けれど、あの人は、“容易な行動”に後悔をしていたのだろうか?


ーーそもそも、あの人のしたことは……。


「おい、行くぞシルク」

「天使ちゃん、シルクって言うんですか! 可愛い名前、私も呼んでいいですか!?」 


いや、今は目の前のことだ。ジルトが頷くと、ニェルハがぱあっと顔を輝かせる。


ーーたぶん、






ラテラ・ルシウスは強かった。クライスの体術にガウナの援護射撃。それをもってしても、ラテラを破ることはできない。


ユーフィット医院に行く途中での妨害の件は聞いていた。“死ねない人間”がどういう意味かはわからないが、厄介であることはわかる。


「足止めをして、どうするつもりなんだい?」 


ラテラはそれに答えることなく、強烈な蹴りをガウナにかまそうとし、クライスの小刀の切先が、彼女の足を掠める。


魔術で地を穿つこともできるが、ここはセント・アルバートの敷地内。ラテラも下手なことはできないのか、力を抑えているのだろう、先ほどから、自身の小柄な体躯を生かした技を使っている。

ガウナの結界の中には決して足を踏み入れず、攻撃しては身を引いての繰り返し。完全に時間稼ぎに徹されているが、そのおかげで膠着状態に持ち込めていると言える。


そんな中だった。ガウナは、こちらに近づいて来る人影を見た。人影は、女だった。肩をいからせて、ずんずん近づいてくる。ガウナは、彼女の姿を見て、目を見開いた。 


ーー誰だ?


クライスを手で制した。ラテラも緊張に張り詰めた顔で、女を見る。


女は、二十歳に行くか行かないかくらいの年齢だった。まるで、四年前の写真から飛び出てきたみたいに、黄色いカチューシャをしていて、丸い眼鏡を掛けている。おどおどしているように見えるが、写真と違って、気が強そうな目つきをしていた。


「何をしているんですか、大人二人で、寄ってたかって女の子を虐めるなんて」


まさに『円卓』に相応しい正義感。だが……。


「君こそ、何をしてるんだい。ここは立ち入り禁止の場所だよ」

「それについては、悪かったと思っています。でも、貴方達を見て、我慢できなくなったんです。おいで、お嬢ちゃん。怖かったね」


ラテラを強引に引き離し、ガウナに近づく。


「君はいったい、誰なんだい?」

「私は通りすがりの一般人です」


じわり、ガウナの腹に赤が滲んだ。彼女が隠し持っていたナイフによって。


「悪魔の娘に迎合する宰相も同罪です」


荒い息をしながら、女は笑って言った。ガウナは「やっぱり刺されたら死ぬよね」とつぶやいて、自分の左手を見た。わざとナイフに貫通させた左手を。当然ながら、腹は無事だ。


「さて」


驚愕の表情を浮かべる女に、ガウナはゆっくりと、同じ問いを繰り返した。


「君はいったい、誰なんだい?」

「私は……」


ナイフを取り落とした彼女は、歪な笑いを浮かべた。



「私は、エリサ。セント・アルバート学園、一年三組の、エリサ・モルトーです」

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