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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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等身大の正義

あの地獄みたいな地下での出来事を経て思ったことは、殺された人たちは何者なんだろうということだった。


良い人たちだったのか、悪い人たちだったのか。


なぜそれを知りたいのか考えた時、バルトは気付いた。彼の心の中に、とある二文字が浮かんでいることに。


そうだ、あの化け物の悪事が白日の元に晒されなくてもいい。だがせめて。せめて、地下に眠るものたちに。


「……だから、悪ぃな」


そっくりそのまま再建されたから、中庭の天使像の台座も健在だ。その台座の中に、バルトはハドソンを尾行していた男を押し込めた。


「全部終わるまで、暗闇(そこ)でじっとしててくれ」






ハドソンは、震える声で呟いた。


「俺がバルト先輩を見つけることができたのは」

「わざと見つけさせたに決まってんだろ。ドブネズミの犬を始末した後に、お前の視界に入るようにしたんだよ。そうすれば、同行と称してお前を監視できるからな」


バルトはもうこちらを見ていなかった。しかし、声には呆れが混じっていた。


「何千人といる中で、俺と会える方がおかしいんだよ。ちっとは疑え」

「で、でも、それならどうして、先輩は俺を見つけることができたんですか!? アイツの部下だって、一目ではわからないはず……!」

「やべ、墓穴掘ったわ」


そう言って、スタスタ歩くバルト。二人の会話を聞いていたケイヴは、頭に疑問符を浮かべた。


「バルト、さっきからハドソンが言ってるアイツって誰なんだ? 二人の知り合い?」

「知り合いには知り合いだけど、お前に教えたら流血沙汰になるから教えたくねぇ」

「ストレートに失礼だよな、お前」


人をすぐキレる人間扱いしてくるバルトに、ケイヴは不服だった。確かにナイフでジルトに怖い思いをさせたのは悪いと思っている。だが、『円卓』の調和を乱す輩は、どんな手を使ってでも排除せねばならないと言うのがケイヴの信条。


「僕は皆の正義を貫くために行動してるだけで、積極的に危害を加えようとは思わないよ」

「そして誰もいなくなった」


茶化すようにバルトが返し、


「うわぁ、バルト先輩。このためにも俺を監視しててくれたんですね。ありがとうございます」


なぜかバルトに礼を言っているハドソンは、気のせいかケイヴのことを見て顔を引き攣らせていた。そんなハドソンに、バルトが釘を刺す。 


「いや、それもあるけど、一番の目的は、お前をアイツから引き離すことだ。お前はこの期に及んでドブネズミの部下に報告しに行こうとしてたからな、だから今釘を刺した」 


どうやら、バルトはバルトで目的があるらしい。


「円卓とかどーでもいいけどよ、今度は俺らがアレになるのなんざまっぴらだ。だから俺はここに来た……酷く消極的な理由だよ。化け物退治は、別の奴に任せればいい」

「別の奴?」

「って、誰ですか、先輩?」

「喋りすぎたな。今度は俺が質問するぜ、ケイヴ。偽物は……ごほん。エリサは、共和国民を使って、何をしようとしている?」

「それは勿論、あの化け物を殺させようとしているんだよ。いや、正確には、あの化け物と、女王陛下だな」


バルトが気を使ったのがわかって、ケイヴは苦笑した。エリサの生死はわからないが、彼女の信条はわかっている。エリサは度重なる苦悩の果てに、怪物と女王陛下を一緒に殺すことを選んだ。

その変遷を知っているからこそ、筆跡の違う手紙に殺意を覚えた。『円卓』に土足で踏み入ってくるのもそうだが、別人がもしも彼女の信条と違うことを語ろうものなら、八つ裂きにしてやろうと思ったのだ。同時に。


『私の名前を騙る人物がいようと関係ない。私はジルトを殺す。殺さなきゃいけない』


固い意志のエリサを守るには、自分が泥を被るしかないと思った。だからケイヴは、エリサより先に事件を起こしたのだ。


それを聞いたバルトは、溜め息を吐き、ハドソンは目を見開いた。


「先輩……」

「『円卓』メンバーは欠けてはならないんだ。僕はあの日決めたんだ。絶対に、君たちを守るって」

「……そう、それこそが、俺たちの求める正義だ。分不相応な正義じゃない、等身大の正義」


気付けば、ケイヴたちは保健室の前に来ていた。バルトが扉を開ける。中は無人だった。床板を剥がすと、あの日に見た地下への扉が、姿を現した。


「やっぱりまだあるか。いざって時の脱出路にできるから、当然には当然だな」

「あ、あの、バルト先輩? いったい何を……」

「簡単なことさ」


視界からハドソンが消えたと思ったら、ケイヴの体もまた、浮遊していた。


いや、これは浮遊ではなく、落下しているのだ。ケイヴとハドソンの体は、バルトによって、地下通路に突き落とされたのである。幸い、下は柔らかな地面で、二人は怪我をしないで済んだ。


「全部終わるまで、ここでじっとしててくれ」


ご丁寧に、学内で買った食品を上から投げられる。


「大丈夫。お前らを死なせやしないから」


重い扉が閉められて、中は完全な暗闇に包まれた。






いずれは、ガウナ・アウグストの部下も、あの台座から出してやるつもりだ。だが、それは全てが終わってから。


「ね、そうでしょ。クレア先生」


バルトは振り返って、渋い顔をして立つエベック学園長に、してやったりという顔をする。


「君は、一体……」

「先生、あの時アイツの毛髪を集めてましたよね。それ、俺にください」

「それはできない。君を危険に晒してしまう」

「やっぱり、まだ持ってたんだ」 


エベックが眉を顰める。別に誘導したわけではないが、結果的にそうなってしまっただけなので許して欲しい。


「学園長室に取りにいってもいいんですけどね、俺は、穏便に行きたいんで」

「どうしてそれを」

「さあ? 先生を危険に晒してしまうんで、それは言えません」

「ナダン君、君は一体、何をするつもりなんだ?」


訝しむようなエベックに、床板を嵌め直しながら答える。


「何もするつもりはありませんよ。強いて言うなら、俺の役割は、露払いです」

「露払い?」

「そうです。共和国の刺客が、アイツを気持ちよく殺せるように……偽物のエリサが救われるように。そして」


ゆっくり、顔を上げる。



「地下に眠るものたちに、鎮魂を捧げられるように」

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