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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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ドブネズミの犬

ハルバはまだ脱出ゲームのヒント係をしているので、午後に中庭に集合することにして、ジルトたちは別れた。


「メイド服じゃなくて、私の制服貸してあげるのに」


少し不満そうなファニタに、ジルトは苦笑い。


「そんなに毎回借りてたら悪いよ。ちょうど衣装もあることだし、これでいい」


そんなことを言っていた過去の自分を殴りたい。




人混みで腹の虫を鳴かせていた彼女は、ワッフルを食べた後、ジルトの手を取った。


「私の、メイドさんになってください……」


メイド服を着てなければ、こんなこと言われなかったのかな。ジルトは一瞬遠い目になった。


ローブで隠していたからわからなかったがこの少女、肌の色からして共和国人である。水の中にいるようなトルマリンの瞳は実にキラキラと輝いて、頬は紅潮している。


おそらく、共和国の追っ手とやらなのだろう。まさか内通者より先にこっちが見つかるとは思わなかったが。ジルトはとりあえず微笑んでおいた。


「……うっ、可愛い。私ごときがこんな天使を独占したらバチが当たりそう。やっぱりさっきのナシで……」


なぜか胸を押さえた彼女は、フードを深く被り直した。


「それに、私の使命に巻き込むわけにはいきません……異国のメイドさん」


彼女は地面に膝をついた。また腹が空いたのだろうか。


「私はニェルハ・ラマナと申します。このニェルハ、貴女の御恩を一生忘れません。貴女の窮地とあらば、すぐに駆けつけることをお約束します」


悪目立ちしている。ものすごく悪目立ちしている。ジルトは思いついて、トリーに持たされていたチラシを、こちらをチラチラ見ている通行人に配った。通行人達は、ニェルハとジルトのやりとりを宣伝だと思ってくれたようで、笑顔でチラシをもらってくれた。チラシが全部捌けて、ジルトは満足した。


頭を下げていたニェルハは、当然そんな場面を見ておらず、もう一回ジルトの手を取って名残惜しそうにしてくれた。






ガウナは目をぱちくり。


「え、いない?」

「えーと、バルフィンの従兄弟さん? ですよね?」


メイド服姿の、眼鏡をかけた少年が、「なんか見たことある顔だなあ」というような表情を浮かべながら確認をとってくる。ガウナは焦って「ああ、そうだよ」と笑って言った。あまり見つめられると、変装しててもバレそうだからだ。


「彼はシフトが終わったので、今は中庭で買い食いをしてると思います。お兄さんが来ると思うけど、からかわれるのが嫌だから、逃げるそうですよ」

「まったくアイツは、子供だなぁ」


従兄弟ってどういうポジションで振る舞えばいいのかわからないんだけど。ジルトもよくわからない配役をしてくれたものだ。いや、待てよ。


「ジル君がどこにいるかわかるかい?」

「ジル君……」


噴き出しそうな少年は、これも言い含められていたのか、素直に教えてくれた。 


「中庭の出店で昼ごはんを食べるって言ってましたよ」






変なあだ名で呼ぶことに成功したガウナはご満悦。つけているサングラスを外してぐるぐる指で回したい衝動に駆られるが、そこは我慢することにする。


「あの少年、トラン・ネラルの弟のトリーだね」

「ええ」


怪しまれないよう、少し離れたところで待機していたクライスと合流。中庭へと足を踏み入れたガウナは、一学園祭とは思えない風景に、感嘆の溜め息を吐いた。


「さすがセント・アルバート」


広い庭の地面が見えなくなるくらいに、人がひしめいている。生徒の屋台も見えるが、王都の中でも特に有名な菓子店や、料理店の屋台も見えた。


「これなら収容人数の心配はなさそうだね」


地下もあることだし、とガウナは心の中で付け加える。とはいえ、トリーが言っていた通り昼ごはんを食べるとしたら、一旦はこの人混みから抜ける必要があるわけだ。


「と、いうことは」


ガウナとクライスは中庭の、人気のない場所へと向かった。この学園祭で、一般人が立ち入ることを禁止されている場所。少し暗くて木々が生い茂るそこは、絶好の昼食スポットである。


「ジル君!」

「げぇっ!?」


案の定、貴族の子弟子女の多く通うこの学園の生徒らしくない行動をしていた少女(少年)は、ガウナを見るなりぽろりと昼食を落としそうになった。


「げぇっ、とはなんだい。せっかく従兄弟が遊びに来てあげたのに」

「頼んでないのに“来てあげた”はないです」

「似合ってるよメイド服。その格好で行動してるということは、大方はわかってるんだね?」

「……そうですね」


ファニタや、リルウ、チェルシーと行動していないのもそういう理由なのだろう。いざとなったら変装を解いて、囮になる気なのだ、この少年は。


ーー今は茶髪だけど、金髪だったら本当にあの女そっくりなんだろうなぁ。


と、微笑ましく見ていると、不機嫌一直線だったジルトは、「あんたもわかってるんでしょう」とガウナのことをちらりと見た。


生徒の父兄になりきっているガウナは、今は宰相の礼服を脱いで、ラフな格好をしている。普段ゆるく束ねている髪を高いところで結んで、一応の変装をしているのである。声を出したとはいえ、一発で見破られて、ガウナは少し嬉しくなった。


「変装してるってことは、命を狙われてるって知ってるんですね」

「まあね。正確に言えば、あの極悪非道男の血縁であるリルウの方が、危ないだろうけどね」 

「……リーちゃんが」


と、言いつつ、思い出しているのはあの時の出来事なのだろう。ガウナは、自分の右手を見た。


意識を飛ばしていた時の状況について、長官から詳しく聞いた時、不思議に思ったことがある。


目の前のジルトは、確かにガウナの心臓を背後から貫いた。それは事実だ。だが、ガウナは、なぜか死ななかった。


それが『アッカディヤの魔術儀式』の副作用なのか、それとも、彼のせいなのかはわからない。自分がなぜ死ななかったのか。何かを修復した感覚が、“抜け穴”を修復した感覚だと突き止めたガウナの、目下の問題はそこにある。


「あの時は頬を打ってごめんね。痛かった?」

「別に、謝んなくてもいいですよ」


後で殺すから。という副音声が聞こえたような気がする。実にいいことだ。


「そういえば、ハドソン君に会った?」

「ハドソン? 誰ですかそれは」


ジルトはすっとぼけたが、どこで何があったかはハドソンを尾行させている部下が教えてくれるはずなので、ガウナは深く追及しないでおいた。


ーーさて、釣りは上手く行ったのかな。


ハドソンにエリサの名前を騙って、『円卓』への手紙を出させた。


『円卓』の生徒たちは、エリサが生きていると執拗に信じていた。中には、エリサと手紙のやりとりをしているという人物も現れた。

それが嘘か本当かはわからないが、『円卓』の通信手段として手紙が使われているのは本当である。残念ながら、その通信手段は、届いてすぐ燃やされてしまうらしいが。 


だから、ガウナは偽物のエリサを作り上げ、エリサの名前を騙る何者かを学園祭に誘き寄せることにした。その際、エリサの住所には手紙を出さないでおいた。こうしておけば、エリサを騙る者と通じている『円卓』をも誘き寄せることができるからだ。






そうやって、まんまと誘き寄せられたケイヴは、廊下を歩きながら、先ほどからキョロキョロと周りを見回している後輩に、首を傾げた。


「何をしてるんだ、ハドソン?」

「いや、なんでもないです」


どうやら何かを探しているようだ。前を歩いていたバルトもそれに気付いたのか、二人に混ざってくる。


「なんだぁ? 知り合いでもいたのかぁ?」

「別に、そうじゃありませんけど……」

「まあそうだよな。お前が探してるのは、ドブネズミの犬だもんな」

「ドブネズミの……犬?」


独特な比喩表現に、ケイヴは首を捻り、ハドソンは顔を青くする。


「バルト先輩、どうして、それを知って……」

「さあ、どうしてだろうな。なあハドソン」


バルトは振り返って、悪戯っぽく笑った。




「お前が俺を見つける前、俺はどこで何をやってたと思う?」


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