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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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四分の一

今現在進められている、ガウナ・アウグスト暗殺計画。

それと並行して行なわれている“禁域”調査についての情報を教えてくれたチェルシーは、トランの話した内容に興味を惹かれたようだった。


公爵邸にて。


優雅に紅茶を飲みながら、チェルシーは、クスクスと笑った。


「へぇ……その生徒、よっぽど肝が据わってるんだねぇ。まさかの女装かぁ」

「あぁ、俺も驚いたが、案外イケるんじゃないかって思えたぜ。なにせ、雰囲気まで変わってたからな」

「ふぅん」


ティーカップをソーサーに置き、貧民街の女王は思案顔。


「それだけ肝が据わってるんなら、囮にもなってくれるかなぁ?」

「……」

「そんな顔をしないでよ。もしもの話だからさぁ」

「いくら姐さんでも、それは許さねェ。あいつは、弟と俺の確執を解決するために学園祭に出てくれるんだ。あいつを売るような真似なんか、できるわけない」

「じゃ、君の弟を囮にしよう」


チェルシーは、平然とそんなことを言ってのけた。トランが何かを言おうとする前に、にっこり笑う。


「それで、その生徒の名前は?」


トランは、心の中で彼に謝って、その名前を口にした。


「ジルト。ジルト・バルフィン」

「へぇー、ジルトかぁ……って、ジルトぉ!?」


勢いよく立ち上がる。はずみでティーカップが揺れて、紅茶が机の上に溢れた。


「君の弟のクラスは!?」

「に、二年一組……」

「あぁあ……」


今度はへなへなとソファに座りこみ、チェルシーは「そうか、そういうことか」と呟いた。


「そりゃ、女装も似合うわけだよ。ジルトはかっこよくて可愛いもの」

「は?」 


トランは、チェルシーのことは尊敬しているが、恐れてもいる。だから、その口から出た言葉に、耳を疑うしかなかった。


顔を上げたチェルシーの瞳は、据わっていた。


「よし、共和国は切ろう」

「ええッ!?」

「私のジルトに危害を加える奴らは皆殺すべき。そう思わない?」


ふふっ、と可愛らしい笑みを浮かべているが、どこか焦点が合っていない気がする。 


確か計画では、共和国の妨害はしないということだったはず。下手に妨害して怪しまれるよりは、あちらの好きにやらせてガウナの命を奪らせようというものだったのだが……。


「一般生徒を人質にされた宰相が殺されるってプランを考えてたけどやめる。共和国は、王国の内通者ともども殺す」


あまりにひどい方針転換に、トランはあんぐり口を開けるしかなかった。


「ね、姐さん。一体どういう了見で……」

「私の英雄に手を出そうとしたーーいや、もう手を出されてるかーー愚か者どもを殺すって言ってるんだけど?」

「は、ははは……そうだよな。そう聞こえた」




家に帰りつくなり、トランは血相を変えて手紙を書いた。


『ディーチェル公爵が方針を変えて、共和国潰しをしようとしている。いずれお前にも辿り着かれるぞ』 


それは、トランと繋がっている、とある人物への手紙である。その人物こそが、共和国からの刺客を王国に招き入れた内通者であり、『円卓』の生徒の一人である。


トランは頭を抱えるしかなかった。

どうしてこうなった。ジルトを囮にする計画が立てられなかったことはいいが、そのジルトのせいで、チェルシーの方針が一気に変わってしまった。 


「ディーチェルとドラガーゼ……よく考えなくても、公爵家繋がりはあるんだがな」


街中で助けた灰色の髪の少年の存在に、トランは大いに悩まされたのであった。






その様子を視ていたハルバは、苦笑いしていた。


「頭抱えてるよ。大方、ディーチェル公爵にお前のことでなんか言われたんだろうな」

「なんかって?」

「なんかはなんかだよ。俺には音声は聞こえないから」


肩をすくめて、首を振るハルバ。しかしなぜだか楽しそうである。 


「これで、十二人の卒業生のうち、三人は内通者から除外されたわけだ。まあ、トランさんがそうだという可能性は無きにしも非ずだけど」


ジルトは頷いた。 


四年前に地下通路を通ったであろう十二人の生徒。彼らの四分の一を、ジルト達は把握していた。 


一人は、トラン・ネラル。二年一組の学級委員長であるトリーの兄で、共和国からジルトを助けてくれた人物。 


そしてもう二人は、ロゼッタ・リノアとハドソン・ガレスである。彼らはハルバの父であるカルキの葬儀の出席者だ。

何か有益な情報がないかと、片っ端から視ていく流れで、四年前の卒業生だと特定できた人物である。ハルバが視る限り、彼らが共和国と繋がっている様子はなし。


残る九人をどうやって特定するかが、目下の問題である。






その残りの九人を知っているガウナは、トランとロゼッタ、ハドソンと合わせて、机の上に並べた写真を前に腕組みをしていた。


「どうなされたのですか、トウェル王」


相変わらず人のことを間違った名前で呼んでくる優秀な犬に微妙な顔をしながら、ガウナは「いやね」と相談を持ちかける。


「この中で、誰が裏切ってくれると思う?」


そんなことを言うと、行政局長官はとても嬉しそうな顔をした。とある写真を指さす。


「そうですね、“彼”なんかはどうでしょう?」

「ふむ、“彼”か……」


円の形に並べられた写真たち。そこから彼の写真を抜き取れば、円は円ではなくなった。


「たしかに、彼が一番適しているかもしれないね。よし、彼にしよう」 


楽しそうに笑って、ガウナは十一枚の用済みの写真をかき混ぜる。


「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまえってね。ああ、いや。()()()()()()()


席を離れ、窓を開け放つ。


遠くに見えるはセント・アルバート。二日後に迫った学園祭に、ガウナは胸を高鳴らせた。


「どうせなら、ジルト君の女装を見に行ってひやかしてやろう。きっと嫌がるぞ」

「……あの、トウェル王。彼のことなんですけど、誰かに似てると思えません?」

「シルヴィ・ウォールカだろ? 知ってるよ」

「そこまで知ってるなら、どうして……」


要は前提が、彼と彼とでは違うだけなのだが、互いに気付く様子はない。


自分が焼いた街を見下ろして、魔女の青年はご機嫌だった。


“禁域”調査もあるけれど、そんなことはどうでもいい。


なにせ、“彼女”さえ手に入ってしまえば、こんな地位、手放してしまっても構わないのだから。


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