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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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軟化

俺のことを嫌っている弟が、彼女を紹介したいと言ってきた。


急でびっくりしたが、二つ返事で学園へと赴いた。 

義兄として、良い印象を持ってもらうために、かっちりきっちりスーツを着込んで、ついでに外向けの笑顔を貼り付けて、俺は応接室のソファに座り、弟を待っていた。


どんな子を連れてくんのかな。


正直、この学園はクソだと思っているが、通っている生徒に罪はないと思っている。それは、この前大通りで会った弟のクラスメートを見ればわかる。一つだけあるとすれば、それは、真実を知らないことだけ。


扉がノックされた。


「待たせたな、兄貴」


弟が入ってくる。隣にいる、茶髪の女の子が彼女とやらなんだろうか。うん、なかなか良いじゃねえか。スレてなさそうな、いかにも良家のお嬢さま然とした佇まいだ。隠れとはいえ、ギャングの一家に嫁がせるのが申し訳なくなってくるな。いや、もしかしたら、弟があっちの家に婿入りするのかもしれない。


「一年から付き合ってる俺の彼女」


弟に紹介された少女がぺこりと頭を下げて、それから俺の目を真っ直ぐに見た。


まさか、トリーのやつ、こんなに可愛い女の子と付き合ってるとはなぁ。 


俺は間抜けにも口を開けて、しばらく時を忘れてしまった。きょとんとする彼女に失礼だと思い当たり、急いで立ち上がって頭を下げた。


「は、はじめまして、僕はそこのトリーの兄、トラン・ネラルといいます。ま、まさか弟が付き合っているのが、貴方のような可愛らしい方とは思わず……失礼しました」


彼女は小さく首を横に振って、そっと、隣に立つ弟の方を向いて、得意げに笑った。


「な? 気付かないもんだろ?」


その口から漏れたのは、どこかで聞いた声だった。




茶髪の少女改めジルト君は、優雅にスカートの端を摘んでご挨拶してくれた。


「お久しぶりです、ギャングのお兄さん。あの時は、どうもありがとうございました」

「お、おう……」


トランは少し引き気味だった。まさか大通りで共和国人に絡まれていた少年だとは。


「それで? なんで女装なんてしてるんだ?」

「テストだよ。コイツがコイツだとバレないかのテストをしてたんだ。結果は成功だな。会ったことのある兄貴ですら騙したんだから」


トリーが複雑な顔をしながら教えてくれる。対してジルトはお淑やかに、しかし得意満面の笑み。


「共和国関係者に命を狙われてるから、学園祭に参加しないようにって、委員長に言われてたんです。でも、よく考えたらうちのクラスの出し物は女装男装喫茶だし、変装してるようなものなんですよね」

「だから、学園祭の間中ずっと女装して過ごすんだと」


トリーが呆れたように言う。


「お前、サボるの好きだろ? 命狙われてるんだぞ。普通出ないだろ」

「寮に引きこもってたら、それこそ怪しまれるだろ? こういうのは、逆に出た方がいいんだよ」


前から思っていたが、やはりこの少年は、肝が据わっているらしい。据わりすぎているというか、そう、


「それに、証明しなくちゃならないこともあるからな」


トランの方を見て、ジルトが不敵に笑った。






さて、テストも無事に終えたところで。


「今日お兄さんに会いたかったのは、女装の件もありますが……俺が本当に知りたいのは、あの先に何があったかです」


そこまで言ったところで、ジルトは、トランが示したジグザグの道を、空中に指で再現してみせた。トランの顔色が変わる。


「その言い方だと、兄ちゃんはあれを知ってるのか?」


ジルトは頷いた。


「俺の師匠が作ったんです、あれ」


トランの目が、静かに二人のやりとりを見るトリーに向いていた。おそらく、聞かせたくないのだろう。


「……俺の役目は終わった。だから、先に帰ってる」


それを察したのか、トリーが不意に立ち上がった。扉の方に歩いて行き、振り返る。


「でも、いつか、聞かせてもらうから」

「おうよ」


トランが緩く手を振ると、トリーは何かを言おうとし、そのまま、扉の外に出て行った。




しばしの沈黙。口火を切ったのは、トランの方だった。


「……ありがとな、ジルト君」

「え?」


予想外の礼の言葉に、ジルトは不意を突かれた。


「弟と俺の仲直りのために、一肌脱いでくれようとしてるんだろ?」


トランは、苦笑していた。


「兄弟喧嘩に巻き込んじまってすまねェ。お前さんが命を張ることは無ェのに……気を遣わせちまった」

「……気付いてたんですね。でも、俺が出たいっていうのもありますよ。一年の頃は、学園行事なんてクソ喰らえって思ってたんですけど……今は、思い出作りをしてみたいなって思ってるんです。柄にも無いですけど」


すぐに退学するはずだった学園に、愛着の湧いている自分がいた。そんな自分に、ジルトは半分驚いて、半分納得していた。


「たぶん、良い思い出になると思います」

「良い思い出、か……」


少しだけ寂しそうな顔で、トランは呟いた。


「俺もね、良い思い出くらいはあるよ。全部灰になっちまったけど。クラス皆で演劇をしてさ、優秀賞を獲ったんだ。嬉しかったなぁ。こんなにでっかいトロフィーをもらってさ、担任が泣いてたっけなぁ」

「良いクラスだったんですね」

「そうだよ。本当に良いクラスだった、皆、死んじゃいけなかったくらいには」


トランの瞳は、その日のことを思い出しているようで、心にたまった澱を映し出しているようだった。


「俺は、学級委員長として、皆を助けられなかった。そんな罪悪感もあって、知ってるのに何にもできない自分が嫌で、学園のことが嫌いになった。それは事実だ。けど、ちょっと大人気なさすぎたと思う」

「トランさん……」

「お前さんが命張る覚悟だとわかった時、気付かされたよ。意地を張りすぎたってさ」

「……でも、そうやって意地を張りすぎるだけの、出来事があったんでしょう」


トランが、態度を軟化させたことは喜ばしいこと。しかし、それとこれとは別。ジルトには、知らなければならないことが、知りたいことがあるのだ。


「避難の最中……地下通路で、一体何があったんですか? 何を、見たんですか?」











正義は我らにあり? いいや、我にありだ。


「王国は、あの時からじゃない。あの時より前に、とっくに腐ってたんだ。変えなきゃ、変えなきゃ、変えなきゃーーあの男の血を、絶やさなきゃ」

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