表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
223/446

地下に眠るもの

突然だが。アントニー・マルクスの悪名は有名である。


最近改心をしたともっぱらの話題だが、その前は女癖がひどくて、金に物をあかし、不良連中と付き合っていた。父であるカイリ・マルクスはあんなに聖人なのにどうして息子はこんなのなのかと、何度陰口を叩かれたことか。


聖人である父と不良息子。この二人に共通点は見られないというのが、彼ら二人を知っている者達の総意だった。今、この瞬間までは。


「“血巡る大樹”。共和国は、王国であった頃から血の歴史だと聞きます」


机の上で手を組み合わせながら、誰も彼もを出し抜いた彼は口の端を歪めながら言った。まるで彼の息子のような笑み。


「そのために、共和国の国内は疲弊している。だからこそ、戦争をしようとしているのです。王国と帝国、いがみあう二国を使って」

「十五年前の出来事を積極的に起こそうとしているってわけだね」


チェルシーの言葉に、カイリは頷いた。正確に言えば、十五年前は内憂から目を逸らすため。さて、此度は?


「その通り。では、疲弊とは何だと思いますか? 皆さん」

「……それは、貴方の役職に関することでしょう」


リルウが静かに言う。


「金銭面での疲弊。だから、彼らは貴方のことを知っていた。わざわざ危険を冒してまで王国に来たのは、私との婚姻を隠れ蓑にして、マルクス財務大臣に資金協力を得るため」

「その通りです。リルウ陛下の写真と称して私の写真を送っておきました。資金協力のことを書いてね」


ちゃっかりとそんなことを言い、悪どい笑みをやめた彼は、女王陛下と宰相に、ひどく優しい視線を向けた。


「私は、リルウ陛下もアウグスト宰相も、他国へと送りたくはありません。お二人ともが、国の宝なのですから」


言われた二人は、醜い争いをしただけあって、気まずそうにしている。


「ですから、勝手ながら目的を書き換えさせていただきました。婚姻ではなく資金協力。婚姻は共和国でも秘密裏のことなので、秘密裏に破局しても何ら影響はありませんね?」

「もちろん。本国の大統領と帝国派はそれを知っていますが、この資金協力が成れば問題はありません」


問われたターゴがカイリの言葉を肯定。


「王国派と帝国派の対立は、マルクス財務大臣のおっしゃる通り、金銭面の疲弊によって生まれています。それ自体が解決されれば、我々も、大統領といがみあう必要はなくなります」

「禍根は残るだろう? 貴方たちを見る限り、もう既に追手とやらを殺している。もう戻れないのでは?」


ガウナが不審げに問えば、今度はユバルが首を横に振り、右手の親指を立てた後に、懐から真鍮製の何かを取り出した。


それは、ネックレスだ。プレートに描かれているのは、共和国の紋章。“血巡る大樹”とその根元に置かれている人の手らしきもの。


「共和国は血の歴史。今更一人や二人死んだところで禍根なんて残らねえよ。みんなみんな、“大樹”の養分になるんだから」


だから、彼は、ユバルは生き残っているのである。

その場の誰もが理解した。この王族の生き残りは、親族が殺されたことを当然のことのように思っているのだ。


共和国の死生観は、王国の死生観とは少し違うらしい。

だから彼は復讐をしなかった。自分が生き残ったことを“延命”と言った。無力感に打ちひしがれていたり、媚びを売っているわけではない。“生き残りルート”は、彼らの命のことではなかったのだ。


すべては、共和国のために。


「追手の方も、同じプレートを持っていたとの情報がありました。素敵な国ですね。リルウ陛下、アウグスト宰相、資金協力の件、了承していただけますか?」


二人はこくりと頷いた。


「ところで、その情報はどこから?」


今まで黙っていた長官が訊ねると、カイリは悪戯っぽく笑った。





秘密です、とカイリは答えなかった。

レオンは少し考えて、ある一つの可能性にたどり着いた。王城の人間に察知されない、そんな外れた存在。


横目で珊瑚色の髪の彼女を見た。少しだけ微笑んでいる。


ーーああ、彼女のお友達か。


貧民街に住んでいたチェルシーは、公爵位を賜る前に、よからぬお友達と絡んでいたらしい。息子のアントニーと養子のラテラの影響で、カイリとチェルシーが繋がっていてもなんら不思議はない。


清廉潔白に見えて、カイリは悪いお友達を使う術も心掛けているわけである。

そして、悲壮な覚悟を固めた秘書官をも。


「さて、両国の平和への道筋もできたところで、本題に入りましょうか……ルージュ秘書官」

「はい」


旧政権派を徹底的に打ちのめしたブランが立ち上がる。その手には、一枚の用紙。


「私は、ネリア夫人と共謀してオリヴァー監察官の遺体を運河に投げ入れました。()()()()()()夫人の心情を見るに見かねて、せめて遺体を発見されますようにと投げ入れましたが、夫人と御子息御息女の落胆のしようをみるに、私はなんと愚かなことをしてしまったのかと、慚愧に耐えません」


会場を見回す。


「そこで、私は辞職を申し願いたいと思います。ですが、私にはやらねばならないことがあります」


ブランは、皆に見えるようにその書類を見せた。ごくりと喉が鳴る音がそこかしこで聞こえた。主に、旧政権派のお歴々からだ。


「王総研所長の孫として、祖父の罪を糾明し、そして」


『王宮地下の禁域における捜査計画書』。たしかに、そう書いてあった。


「この国がしてきた間違いを、白日のもとに晒すのです」


彼の言い分は、一見、旧政権の罪を暴くように聞こえた。しかし、それは違う。


レオンは、ガウナを見た。いちばん意味を理解しているであろう、彼を。


彼は、どうするかを決めかねているようだった。

地下を掘れば自分の罪が暴かれる。しかし、ブランはあくまでもそれを旧政権のせいにしようとしている。とすれば、骨が見つかってもトウェル王のせいにできる。


「地下には何があるのですか?」


禁域と書いてあるだけで反応していた長官は、そこに何があるのかと首を傾げる。冷静さを取り戻したようだ。


「そんなところを掘っても、何も見つからないでしょう」

「ええ、そうです。これは、疑いであるのですから。祖父も、そして亡き養父も言っていました。“地下に眠るものを掘り出せないのが残念だ”と」

「……その言い方からすると、悪いものでもないのですか?」

「わかりません。もしかしたら」


言葉を切って、共和国の二人を見、リルウを見る。


「莫大な財宝かもしれない」

ブラン君は誰からそれを聞いたんだ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ