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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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懐古主義者

本日の閣議は大荒れなり。


レオンはリルウの右隣に座り、出席者の顔をぐるりと見回した。


外務(レオン)、財務、それに内務の三大臣が揃い踏み。ただし、外務と財務はリルウ側、内務はガウナ側の席に座っている。その配置は、トップ二人の味方が誰で、敵が誰であるかを明確に表していた。というより、トップ同士の訣別を物語っていた。


少し前は内務省関係者がガウナ達の向かい側の席に座っていたのに、今やガウナの右隣。状況はめまぐるしく変わっている。


スピレード元内務大臣の“教え子”である内務大臣に、空席の副大臣席、そして件の事件の首謀者とされており、更迭一歩手前と噂されるルージュ秘書官。彼だけは、なにか腹に一物抱えていそうだが。


まあここまでは良い。特筆すべきはーー。


レオンやその他の官僚の視線に気付いたガウナが、にこりと笑う。


「彼は、本来なら出席を許されていない。けれど、私が許しました」


だから何だと言うのだろう。少し傲慢な態度は、まるでどこかの誰かを彷彿とさせる。彼と呼ばれた人物ーー行政局の長官は席を立ち、一礼。


すぐに場違いな拍手が響いた。


「良かったぁ。じゃあ、私が出席するのも許してくれるよね?」


不遜にもリルウの左隣に座るのは、最近公爵の位を賜ったチェルシーである。


「公爵サマが許して、彼の出席が許されるんなら、私が許して、私の出席も許されるわけだ」


リルウがチェルシーに呆れた目線を送った。


まず、この場でのガウナは公爵ではなく宰相。同等の相手を挙げるならリルウにすれば良いものを、この娘、傲慢な態度で張り合っているのである。チェルシーもすくっと立って、優雅に一礼。


「改めまして、公爵の位を賜ったチェルシー・ディーチェルです。よろしく」


十四の少女がここにいる意味がわからず、大の大人達がざわつく。傲慢さに釣られたのか、拍手しそうになる長官をガウナが白い目で見る。


少々軽い態度だが、チェルシーはこの場に相応しい人材である。本人の物怖じしない性格に、新しく見えて古い家柄。行政局長官というカードを切ってきたガウナに対してのカウンターが、彼女なのだ。


レオンはそこまで考えて、心の中で嘆息。


改めて会場全体を俯瞰し、人々に迫らんとする、何者かの手のひらを幻視した。


死してもなお、彼はこの王国に君臨している。






大通りと呼ばれる場所に出れば、遥か遠くに白がちらりと見えた。


その白に、浅黒い肌の少年は歓喜の声を上げた。振り返り、片眼鏡を掛けた男に言う。


「やった! やったぞターゴ! 王国にたどり着いた!!」

「ええ! やりましたね若様!!」


この声の大きな主従は、往来にも関わらず、イェーイとハイタッチ。


「正直、若様が地図を持ってるのを知った時は終わりだと思いましたが、神はまだ私を見捨てていなかったのですね!?」

「あはは、ぶち殺すぞお前。なーんて、俺にもうそんな権限ないんだけどなあ!? これ、王族ジョークね?」

「あはは、笑えねえよクソガキ」


このどこか歪な主従の周りには、時間が経つに従って空間ができていた。通行人は、この二人を見て、さっと目を逸らしては早足で逃げるように歩いていくのだ。


若様と呼ばれた少年は首を捻った。


「この国の人々はみんなシャイなのかもしれんな。奥ゆかしいとも言うのかもしれん」

「ええ、道を聞いても“ごめんなさい”の一択でしたからね。謙虚すぎるのも考えものです」

「うちみたいにすーぐ暴力に頼るのもどうかと思うけどな!」

「それはお前らの圧政のせいだろうが」


なんて会話をしつつ、唯一逃げなかった(本人が言うには逃げ遅れた)珍しい色の髪の庶民に、遠くに見える白いのが王城か訊くことにする。庶民はそれが王城であると教えてくれたが、別のことに興味を惹かれているらしい。


「ていうか、それ……」


串焼きを大量に買ったらしい庶民は、少年たちを指さした。


「ああ、道理で見られると思ってた」

「長旅で服がボロボロになっていたんですね」

「違えよ、返り血だろそれ!?」


何やらテンションが高い庶民である。少年は、目をパチクリ。


「え? 王国民ってこれだけでビビるの? うちではこれがフォーマルなんだけど」

「ファッションですから気にしないでください」

「警邏に突き出していい?」 


なんて、ほのぼのとした会話をして、二人はなぜか庶民に一本ずつ串焼きをもらった。 


「あんたら、悪い奴らじゃなさそうだから、やる。今日の俺は、人に親切にしたい気分なんだ」

「王国民、性格良っ!? 天国かここは!?」

「毒入ってないですよね?」

「入ってねえよ」 


二人は怒り気味の庶民を宥めた後に礼を言って、また旅を再開した。


「いやあ、王国民はシャイで謙虚で性格が良いなあ。どっかの国民とは大違いだ」

「本当にそうですね。どっかの国と違って、クーデター起こさなそうだし」

「……」

「……」


二人は、同時に溜め息を吐いた。






「懐古」だ。


たった一人の死者がおこなった政を、「懐古」する場と成り果ててしまった閣議。ガウナが行政局長官を手中に収めた時から覚悟していたが、まさかこれほどまでとは。


さらっと戦争反対派に移行したガウナが言う。


「“戦争はするな、民が傷つく”。これは、亡きトウェル王がおっしゃられていた言葉です。貴方のお父上から教えていただいたんですよ、ダグラス外務大臣」

「素晴らしいお言葉ですね。ですが、そのようなことを口に出すことこそ、意味があるとは思えませんか?」


本当は、あの聖剣に魂を吸わせるため……いや、『アッカディヤの魔術儀式』で兵士などどうにでもなるから、それまでに人口を増やしておこうという魂胆なのだろうが、閣議の場ではそれは言えない。

なぜなら、それは、魔法に関することだからだ。


あくまでもここは政治の場。だから、トウェル王の魔法的側面よりも、政治的側面で想像の余地を持たせ、戦争に踏み切らせることが最良。 


「次期外務大臣であった父におっしゃったのでしょう? トウェル王自身の心はどちらにあったのでしょうね」

「……戦争を止めた王を、貶めるつもりですか」


低い声が響く。予想通り、長官が乗ってきてくれた。


「もちろん、王自身も、戦争を拒んでいたに違いありません。そのために、共和国と手を結ぼうとされていたのですから」


ーー来た。


面倒ごとは、さっさと終わらせるに限る。


「それは、どういうことですか?」

「帝国への牽制として、セリアーナ殿下と共和国の王子の婚姻を計画していたのです」 


『そうだな、セリアーナでも娶らせて、この聖剣を使わせるか』


もちろん、大嘘。だが、旧政権時代を知っている彼の言葉というだけで、真実味が増すものである。トウェル王の政治的側面しか知らない人々にとっては。


「そこで、提案したいんだけど、リルウ」


わざわざ名指しされたリルウは、次の言葉を悟ったのか、極寒の瞳でガウナを見る。


「向こうの王子と結婚して、我が国と共和国の架け橋になってくれないか?」




……要は、体のいい厄介払いである。


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