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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下に眠るもの
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陳情

トリー・ネラルは、セント・アルバート学園二年一組に在籍する男子生徒である。


彼は将来への不安と、自分への過大評価(自覚済)を踏まえて、ここのクラスの委員長を務めている。


「それでさ、バルフィン。お前、スカートは長いのと短いの、どっちがいい? 短い方が良いよな?」

「ああ」

「やっぱり長いのにしといてやるよ。それで、文化祭当日のシフトなんだけど、お前全日行けるよな?」

「ああ」

「や、やっぱり忙しくない時間帯にしてやるよ! お前、一年の頃の接客クソ下手だったもんな!?」

「ああ」


トリーは机を叩いて立ち上がった。


「ああ、ああって、烏かお前は!? なんでもかんでも肯定しやがって、そうすると、ろくな大人になれないんだぞ!?」

「ああ」


だめだこれ。魂抜けてるわ。トリーは着席。


なんでか知らないが、休み明け、クラスメートの問題児、ジルト・バルフィンは上の空だった。


いつもはテンション高い自分に面倒臭そうな顔をするのに、窓の外をぼうっと見ては、何かに思いを馳せているようだ。


「バルフィン、お前、何かあったのか?」


流石に心配になって訊いてみる。ジルトは首を振る。


「なんにもないよ」

「なんにもないことないだろ。あ、そういえば知ってるか? ライケット事件の犯人が逮捕されたって話」

「……」


世間話にシフトすると、ジルトは少しだけこちらを見た。


「まさか、ライケットに殺害計画をされていた秘書官が犯人とはね。しかも聞いて驚き、ネリア夫人との共謀だったって。そのことを知った内務副大臣が、愛しい義息子のために、自分で全ての罪を被ろうと自殺したって話。よくできてるよな」

「ああ、よくできてるな」


やはり興味があるらしい。ジルトは笑った。それがどんな笑いなのかはわからない。


「だけど、よくできてるだけなんだぜ。なんたって、この事件には裏がある」

「裏?」


ジルトが眉を上げる。とっておきの情報を、トリーは教えてやった。


「アウグスト公爵が、全ての糸を引いていたんじゃないかって話。少なくとも、俺の兄貴はそう見てる」

「委員長、兄貴なんていたのか?」

「いるよ。詳しくは言えないけど、兄貴には、そういう情報が入ってくるんだ。今回のことで一番得をしたのは、あの公爵だ。天敵である副大臣が死んで、旧政権派である行政局の長官が、公爵に寝返った。まあ、リルウ陛下と訣別したのは損だと思うけどね」


ジルトが目を見開いた。


「なんでそんなこと」

「ちょっとは元気出たか?」


にやりと笑う。人の弱みに漬け込む家業も、少しは役に立つものである。






ガウナの犬になった行政局長官は、首を傾げた。


「匿名の、陳情ですか?」

「そう。四年前、君たちの上司が握りつぶしたものだ。覚えはあるかい?」

「そうですね……たしかに、そんな陳情が届いていたような……」

「これなんだけど」 


ガウナは、古びた紙を彼に見せた。曰く、王宮の地下には死体が積み上げられていた。此度就任した宰相は、この凶行の犯人に違いない……。


長官は、それをじっくり読んだ後、「ああ!」と声を上げた。


「これですか! よく覚えています! 本来なら焼くところを、憎い警邏局が持ち去ってしまって」

「そして、僕の手の中にあるわけだ」

「あ、あれ? よく、警邏局がこの資料を開示してくれましたね」

「ちょっと裏技を使ったんだよ」


裏技なんてない。ガウナと警邏局上層部が、エリオットを通じてずぶずぶの関係だっただけである。

しかし、これを言ってしまえば警邏局を目の敵にする目の前の長官の忠誠も、解けてしまいかねない。なのでガウナは誤魔化したのだ。


「セント・アルバートの卒業生が、この陳情を寄せた。容疑者は十二名だ」


ごくりと、長官が唾を飲み込んだ。 


「あの学園の卒業生だから、就職先や進学先は有名なところばかり。コンタクトを取ることは難しい。けれど、行政局レベルだったら、それは容易だろう?」

「……はい。この陳情の主を見つけ出せば良いのですね」

「そうだ。そして殺せ」


不遜すぎたか? ちらりと長官を見れば、長官は感涙に咽せていた。


「まさしくトウェル王だ……今まで、ヘタレ宰相などと罵っていてすみません……このような汚さこそ、政治の真骨頂です!!」


ガウナは複雑な気持ちになった。


今までは好かれようと、媚びを売りゴマを擦りなどしてきたが、ちょっと残酷なことを言うだけでこんなに崇めてくれる。トウェル王は、良い犬を遺しておいてくれた。


そして、この犬は、忠実であるだけではない。

長官が、真剣な顔で言う。


「して、例の件はいかがなされますか。ダグラスの若造はともかく、その下の人物や、軍部までなら説得できますが」

「それで十分。あとは外圧でどうにかするさ」


今まで進めていたとある件についてである。滞っていたそれは、長官が参入することによって、驚くほどにスムーズに進みつつある。


長官は、トウェル王仕込みの政治手腕によって各所に働きかけ、今まで難色を示していた人物達を説き伏せた。ガウナのような臆病な政治ではなく、傲慢で自信に溢れた政治で、多少の脚色を混ぜつつも、例の件を実現可能なところまで持っていったのである。


一時は『アッカディヤの魔術儀式』によって五分で終わる会議を考えていたガウナだったが、それをしなくていいことに安堵した。議事録に書かれてはいるが全員に記憶がないなんて、怪しいことこの上ないからである。


「さて、リルウにはこの舞台から退場願って、僕のロリコン疑惑も晴らしたところで……」


写真を取り出す。長官はドン引きした様子を見せつつも、「どう見ても……」となにやらぶつぶつ言っている。それを気にせず、ガウナは陶然と呟いた。



「僕の花嫁探しだ」 



ーー来たる学園祭まで、あと、二週間。

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