表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(後)
215/446

絶対に許さない

沈黙を埋めたのは、誰あろう、内務省行政局の長官である。

唯一無力な彼は、恍惚とした瞳で、ガウナを見た。


「トウェル王、なのですね」


よく躾けられた犬であるところの彼は、もう“偽物”なんて見ちゃいなかった。本物を見せつけられて、ふらふらとガウナの元に歩み寄り、跪いた。


「亡き王にまた逢えるとは……貴方こそが、私が忠誠を誓う相手です」


蝙蝠のように見えるが犬である。リルウのところに預けられていた犬が、元の飼い主が現れたことによってその腕の中に帰っただけの話。


もちろんそれを否定するほどガウナは馬鹿ではない。なるべくトウェルに似るように、酷薄な笑みを浮かべた。偽善者面した笑みを浮かべるよりも、よっぽど簡単だ。


「嬉しいです。僕の味方になってくれるんですか?」

「勿論! 行政局は、全面的に貴方の味方になりましょう! ですからもう一度、もう一度、貴方のお傍に」


かわいそうに。この長官は、トウェルによって壊されている。死してもなお、旧内務省にかけられた呪いは、首輪は、決してなくなることはない。

ついさっきまで殺そうとしていた男に、縋り付く愚かさを自覚できない。その愚かさは、いたましくて、そして。


ーーなんて、都合が良いんだろう。






晴れていた空はすっかり曇りきり、頭上からの攻撃に気付きにくくなっていた。


それでも、公園の中に穿たれたいくつものクレーターは、クライスに有利に作用していた。


クライスは、ラテラに魔法で強化した攻撃をさせることで、公園に穴を開けさせていた。

やはり魔法と本来の自分の力を使い分けてくる点は厄介だ。ラテラはそれを上手に使い分ける。


空から降ってきて、大ぶりな攻撃を繰り出すかと思えば、そのまま魔法を解除して着地、クライスの足元を崩そうとするし、小さな踵で地面を叩いたかと思えば、地面にひび割れができる。


動作と効果が違うのは非常に厄介。だが、クライスは冷静にそれに対処した。自分自身がクレーターに閉じ込められないように注意を払い、確実に、ラテラが跳躍した時の着地位置を無くしていく。


ラテラがこの公園にこだわることはわかっている。

それより先……ジルトたちが向かった『ユーフィット医院』に、クライスを進めたくないからだ。その意図がわかっているから、まっさきに公園の入り口近くに穴を穿たれるのは予想の範囲内。いくらブラフを使おうが、本来の目的が達せられなければ意味がない。


クライスは、ラテラの目的を完全に理解したうえで、自分に有利な戦場を作り上げていった。


狭い公園だ。クレーターが穿たれていないところは、クライスが今立っている地面のみになった。つまり、彼に逃げ場はない。


ラテラは、これを好機と見てクライスに大振りな攻撃を仕掛けてくるだろう。そこを、狙う。


この確実な一瞬を、穴を穿ったラテラが穴から戻る一瞬を利用して、殺す。クライスは、執事服のジャケットを脱いだ。ラテラが目を見開いた。


目眩しに使うと思ったのだろうが、違う。

クライスは跳躍し、そのまま、新しく穿たれた穴の中に飛び込んだ。砂塵が飛んでよく見えない。だが、一番深いところにいるのが本人だ。亜麻色の髪を認めた瞬間、クライスはジャケットの袖を捻り、その細首を締め上げた。


少女の声は出ない。故にやれてるかわからない。

たしか資料によれば、スピレードに家族を惨殺された時に声が出なくなったとか。


砂塵が収まってくるにつれ、項垂れた少女の姿が見えてくる。今度はクライスが、目を見開いた。


少女は死んでいなかった。死んだふりをしていた。


たしかに気管を塞いだのに、生きている。白く細い指が、ジャケットの袖にかかった。


本能的に恐怖を感じ、クライスはその場から跳び下がった。


「貴女は、いったい何なのですか?」


ぽつりぽつりと降ってくる雨。ラテラが煩わしそうな顔をしたが、気を取り直したらしい。微笑んで、口を開く。音こそ出なかったが、読唇術で理解した。


ーーしねないにんげん。


その微笑みは、なぜか嬉しそうだった。黄水晶の瞳は、何かを見ていた。天から降ってくる、糸のような……。


大降りになりだした雨が、音を立てて穴に降ってくる。二人は同時に穴から脱した。といっても、化け物じみた跳躍力を駆使したラテラの方が、先に公園の入り口に立っていた。


クライスは、自分の敗北を悟った。

向こうには予知能力者がいる。雨こそが、戦闘終了……すなわち、ジルトたちの勝利だったのだろう。


「まだまだ修行が足りないな」


熱くなった体を冷やすような雨に、クライスは呟いた。






負けた。

負けた、負けた。



ジルトは、座り込んでいた。その目線の先には、静かに眠る二人の姿があった。二人の姿が歪む。視界に薄い膜が張った。


殺した、死なせた。ノーデン・ヒュラム参謀が死んだ時の、表裏一体の感情が、どっと押し寄せてきた。


「でもね、ジルト君。君が来なかったら、彼らはもっと早く死んでいたよ」


ガウナが屈んで、髪を撫でてくる。彼が、そうしたように。


「君に見てもらいたかったから、殺すのを引き伸ばしたんだ。それに」


君が来なかったら、リルウは死んでいたよ。


ーーなんで。


なんで、俺は慰められてるんだろう。情けない、悔しい。


「ひとの、力を借りたくせにっ」

「あの二人を自分の力で倒せと? 無茶言うね」

「お前なんか、死ねば良かったんだ」

「残念ながら死ねないな。彼女に出会うまでは」

「お前の言う彼女にそんな価値はない」

「それは、君が決めることじゃないよ」

「お前が決めることでもない!」


ぐちゃぐちゃになった感情で、ジルトは叫んでいた。



「お前の良心なんか、無価値な人間なんだよ!!」



頬を張られて、ジルトは床に倒れ込んだ。


「いくら君でも、それは許されない」

「許されないのはお前だ!」


起き上がって、ジルトはガウナを睨んだ。


「絶対に、絶対に許さない!! お前なんか嫌いだ、殺してやる、絶対に殺してやる!!」

「ジルト!!」


ハルバがジルトを取り押さえようとする。ジルトは、燃える瞳でガウナを睨んだ。


「お前の良心を否定してやる、お前を殺して証明してやる……!」

「すまん、ジルト!」


ハルバの声が聞こえた。


鳩尾が殴られて、視界が一気に暗くなる。絶望とともに、ジルトは目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ