表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(後)
209/446

査察

長官可哀想(他人事)。魔女討伐前哨戦です。

別に感涙の涙ではない。これは、後悔の涙だ。


聡いレイデスにはわかっていた。

少年は、皆まで言わなかったけれど、今世で救えたかもしれない命を、自らドブに捨てていたのだと思い知らされた。


人一倍プライドの高い彼は、自分が血を利用するではなく、血に囚われていたのだと自覚し、絶望したのである。


そして。


「そうだ。私は、名医だ」


人一倍プライドの高い彼は、来世こそ、妻を医術で救うと誓い。


「誰の力にも頼らず、救ってみせる」


銀髪の公爵との利害関係も、ここに崩れたのである。






ブランは、暗闇で目を見開いた。


「手錠、引きちぎってきたんですか?」

「うんにゃ。どっかの子爵の魔法の残り滓を使ったんだよ」


聞けば、“資料室”から宰相の執務室まで転移する魔法が敷設されているのだとか。


「それをちょいちょいと応用して、ここに転移したってわけ」


どいつもこいつも。ブランは溜め息を吐いた。気軽に牢屋に侵入してくるのはやめてほしい。


「それで、なんで入って来たんですか。アルドさん」

「魔女やお姫様がいないうちに、遺言を伝えてもらおうと思ってさ。頼まれてくれないか?」

「遺言なんてそんな、縁起でもない」

「人の死因は変わらない。だからこそ、生き方を変えなければならないんだよ。四千年を経ての俺の結論はそれ。今更、アルバートに合わせる顔はないけどさ」


その言い方。ブランは悟った。そうか、この人が。


()()に合わせる顔はあらあね。ハルバ君に伝えておいてくれ。“魂を視るな”って。そうすれば、俺が視れなかったもんを、視ることができるってさ」

「わかりました。伝えておきます」

「賢くて助かるよ、ブラン・ルージュ秘書官」


自嘲気味に笑うアルドに、ブランは首を傾げる。


「でも、なぜ私に?」

「あんたがいちばん、生き残りそうだから」


暗くてよく見えないが……アルドの口調は真面目だった。


「それって、どういう意」

「じゃ、頼んだぜ」


ブランが訊く間もなく、一瞬の青い光と共に、彼は去っていったのであった。






戦後の再開発にて忘れられた禁域、『魔女の棲家』。トウェル王麾下にて急襲されたそこは、本当はアッカディヤ一族の本家が住む場所だったという。


内務省行政局の長官は、先日ガウナによって掛けられた術を、リルウに包み隠さず話した。リルウは少し考えていたようだったが、それは暗殺計画の決行を中止するかどうかではないように思えた。むしろ、それのもっと先を、考えているような。


冴え冴えとした紅い瞳の女王様は、当然決行を選び、作戦通り長官を同行させた。


そして彼らは、古びた家屋の前に立っているわけである。


年月を感じさせる家屋には、ところどころ蔦が這い、今にも崩れ落ちそうだ。人が住んでいた形跡はあまり感じられない。


「なんというか、文化財の指定に来た気分になるね」


殺される予定の宰相は、曇天の空の下、あまりにも軽く呟いた。

その軽さが、長官と、“実働部隊”の不安を煽ったが、同行したリルウがあまりにも平然と「木造家屋はほとんど火事で焼けたから、貴重には貴重かもね」と応じていたので、少しだけ肩の力を抜くことができた。


女王とはいえ、齢十の少女が態度を崩さないのに、大人の自分達が態度を崩していては情けないことこの上ない。

トウェル王時代の華やかなりし政治に戻すため、今日ここで、宰相を討つ。


「それじゃ、打ち合わせ通り、“実働部隊”の半数は外、半数は建物の中で頼むよ」

「いいえ、“実働部隊”は、全員外に待機です」


ガウナが言ったそばから、リルウがそれを否定する。ガウナが苦笑。


()()()()()

「本当なら長官も外に待機させておきたいけれどね。それだと、貴方に勝ち目がないでしょう?」

「言ってくれる」


二人だけにわかる会話が交わされる。何がバレてたか、なのか。


「錆びた剣でも、使えるようにするのが儀式ですからね」


リルウが親切に教えてくれる。儀式と聞いて、長官の顔は青ざめた……自分だけではなかったのか。


「お互い穏便な話し合いをできるように願ってるよ」

「これは公務ですからね」


もう夏に近いというのに、長官は腕をさすった。雨が降りそうだからか、ひんやりとしてきた。


「それでは、長官殿どうぞ」

「は、はい」


先に踏み入れた方が負けとでもいうように、二人は長官に先に入らせた。厄介な役回りだと、長官は溜め息を吐きたくなった。が、吐いたが最後殺されるのは自分であるので我慢。


「な、中も、普通の家屋ですね」


狭くも広くもない玄関。振り返ると、二人はジャンケンをしていた。


ーー何をやってるんだ。 


「まあ予知があるから無駄なんだろうけど」 

「お互い運試しということね」


ギスギスした会話が胃に響く。長官は気にせず、いちばん広いであろうリビングへと足を踏み入れた。


「お、おお……」


リビングの壁には、不思議な輪が描かれていた。そして、それについての説明書きであろう文字も。


トウェル王が調査した後だからなのか、机が端に寄せられている。


「これをどうやって政府公認にするかだね」

「そうね。いかにもな壁だもの」


わりとまともなことを喋っていた二人は、同時に指と踵を鳴らし。


消えたと思ったら、なぜかずぶ濡れになって現れたガウナを見て、長官の意識は無くなったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ