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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(後)
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暗殺

視点が混ざっている

ブラン・ルージュ秘書官が暴露した王総研での“死者蘇生の研究”は、内務省行政局を大いに震え上がらせた。


未だにトウェル王の影に忠実に付き従う彼らは、なんとかブランの口を塞ごうと躍起になったが、なにせ相手は憎き警邏局の監獄に引きこもってしまっているのだから、手の出しようがない。


幸いなことに、ブランが事件をかき回してくれているおかげで、警邏局は『ユーフィット醫院』にまだ手をつけていないが、それも時間の問題だろう。


ブランが暴露した『アッカディヤの魔術儀式』及び王総研の異端的側面、そして『ユーフィット醫院』という非人道的な実験施設。行政局は混迷するばかりである。



そんな行政局に、小さな影が訪れた。


亡き王に似た色を持ちながら、どこの馬の骨とも知れない宰相の庇護下にある、リルウ女王陛下である。


レオン・ダグラス外相就任の時に、ユリズとやり合ったことは、行政局長官の耳にも届いていた。


緊張する長官の前で、リルウは話し始める。亡きユリズ・クリード内務副大臣との取り決めを。


「副大臣は、内務省の平和維持を願っていました。ですから、私が参った次第です」


淡々とした口調で、リルウは救いの手を差し伸べようとする。しかし、長官は訝しむ様子を隠さない。


「……失礼ですが、貴女にそれができるのですか? 貴女は裁定を下す側でしょう。たしかに、貴女が平和維持に臨めば、問題はすぐに解決します。しかし、禍根は残ります」 


上から押さえつける前提の問いに、リルウは内心で溜め息を吐いた。ある種の暴力性を信じてやまないのが、トウェル王麾下で動いていた彼らである。


亡きクリード内務副大臣は、トウェル王に反感を抱いていたが、口ごたえする度に顔面に蹴りを入れられたらしい。外面を繕った父にしては珍しい行為だが、旧内務省の人間には本性を見せていたのだ。


それもこれも、非人道的なことを行なっている罪悪感、良心、判断力諸々を無くすためなのだろう。重要な計画だからこそ、なだめてすかして時には殺し、誰一人として逃すつもりはなかったのだ。


そんな父が唯一見逃したのがアゼラ伯爵である。

父は残酷にも、彼の研究が無価値だと判断したのだ。いや、もしかしたら、王総研の研究の隠れ蓑として利用しようとしていたのかもしれない。


……そこまでして父がひた隠しにしていた研究が、こうして人の目に触れそうになっている事実を、リルウは内心で嘲笑った。行政局には悪いが、ざまあみろという気分である。


まあそれはともかく、クリード副大臣との約束は守らねばなるまい。このままでは、彼が命を賭して守った息子が行政局に殺されてしまう勢いだ。


「ですから、禍根を残さない方法を、私と副大臣で編み上げておいたのです。ええ、ただ一人を除いて、禍根は残りません」

「ただ、一人? まさか」

「私と彼は訣別していますから」


名前を出さなければならないほど、行政局長官は阿呆ではない。そのために、副大臣との約束もちらつかせた。案の定、長官はすぐに飲み込んだようだ。咳払いをして言う。


「ことは内務省だけではないということですか」

「ええ。勿論、私に協力してくださいますね?」

「……それが成功するという保証は?」

「窮地に追い込まれている貴方達に、選ぶ権利はあるのですか?」


自分の容姿を理解しているリルウは、ことりと小首を傾げた。

物騒な言葉と可愛らしい仕草の合わせ技に、長官は口元を引きつらせまいと努力をする。二度目の咳払い。


「良いでしょう。何もしなければ、行政局という船は沈むばかりです」


少しばかり偉そうな言い方は虚勢だろうが、虚勢を張れるのは好ましいことだ。

リルウはカードをめくった。


「現在私の味方と言えるのは、レオン・ダグラス外務大臣、警邏局“資料室”のアルド・ファリエ氏、そして、カイリ・マルクス財務大臣です」


ルクレールとミュールのことは伏せておく。錚々たる顔ぶれに、長官は目を見開いた。


「警邏局にも、パイプがあるのですか」

「ええ。ですが、貴方たちが敵対しているのは地上の方でしょう。地下の方が味方でも、何ら不都合はないはずです」

「そ、そうですが……」

「彼の予知能力は、非常に役に立ちます」


核心は知らされないまでも、トウェル王の下で働いていた人々が多い行政局ゆえに、予知能力のこともすんなりと受け入れられる。 


これが警邏局では、飲み込ませるまでに時間がかかるし、リスクが高い。よって、リルウとクリード副大臣が“宰相降ろし”をするにあたって味方に引き入れるのに選んだのは、寧ろ隠蔽をしようとする行政局。


イケイケな姿勢の警邏局よりも、窮地に追い込まれた行政局の方が落としやすいという打算もあった。


苦虫を噛み潰したような顔で、長官が言う。


「それで、どのようにして彼を降ろすのですか」

「暗殺です」


あまりにもあっさりとしたリルウの言に、長官は言葉を失ったようだった。


「……それは、あまりにもリスクが高すぎます。いきなり殺すのは……殺したことで、不具合が出るかもしれませんし」

「彼がどうやって宰相になったか、覚えていますか?」

「復興できるのが、彼しかいなかったからです。言い換えれば……貧乏くじを引こうとするのが、彼しかいなかった」


リルウは頷いた。


「そうです。だから全ては、元通りになるだけなのです。外部から来た彼を切り離す。変質したところは戻せば良い。古き良き父の政治を取り戻す時です」

「トウェル王の……」


力技をそれらしく見せるために、リルウは悪魔のような男を持ち出した。全く反吐が出そうだが、これが一番効果があると思ったからだ。 


「暗殺の決行日ですが、アルド氏による予知から、二日後が妥当でしょう。行政局の“実働部隊”を動かしてください」


陶酔し切ったような顔の長官は、途端に顔を青ざめさせた。


「じ、“実働部隊”なんて、錆びた剣にも等しいものです。とても戦力にはなりません」

「彼を撹乱するためです。貴方たちは、演技をすれば良いのです」

「演技……ですか」

「ええ、今日から貴方たちは、私の敵です」

「…………は?」

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