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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(後)
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延長戦

ブランが逮捕されて(自主的に牢屋に引きこもって)から二日目。


「マティス・ウィリアムについては未だにわからず、事件も解決されていない。ゲームは延長戦に突入だ」


公爵邸にて。肩をすくめて言うガウナは、ブランが監獄で呟き始めた「独り言」に参っているようだった。


半眼のジルトは、出された紅茶を飲んだ。今日は隣にリルウがいない。リルウとガウナは訣別したので、リルウに内緒でジルトを呼んだらしい。訣別。良いことだ。


と、内心で思いながら、ジルトは気になったことを訊いてみる。


「レイデス院長を釈放するなら、クレイも釈放しなければいけないんじゃないですか?」


今朝見た新聞の内容。ブランがユリズ殺し、及びライケットの遺体を投げ込んだのは自分だと自供したことで、レイデスは釈放された。医院に帰ったレイデスは動揺することだろう……息子がいないことに。


通報でもされたら、ガウナが窮地に追い込まれるのではないか。そう思ったのだが。


「ああ、その辺の心配はないよ。院長はクレイ君をこちらで預かってることを把握済みだし、クレイ君の方も僕との取り決めで、自主的に牢屋に入ってくれているしね」

「クレイとの関係、話してしまうんですね」

「予知能力者がいるんだ。隠したって無駄だろう?」


こういうところはさっぱりしている。


たしかに、ハルバは声こそ聞こえないが、クレイとガウナは対等らしいと言っていた。クレイが怯えるような顔をしておらず、むしろ半眼で応じていたとか。


「僕が興味あるのは、それを知ってもなお、ゲームを続けようとする君だよ。クレイ君の命は保証されてるのに、どうして未だにゲームに乗ってくれてるんだい?」 


ジルトは答えるべきかどうか逡巡し、重い口を開いた。


「……俺が降りない限り、あんたは次に行かないから」

「つまり、時間稼ぎかな? 次……たとえば、『魔女の信徒』とか?」


ガウナが嬉しそうに目を細める。


「そうかそうか、『それでも助けたい』という理由からではないんだね。それが正解だよ、ジルト君。緩い条件のゲームを延々とやっていたほうが、犠牲者は出ないからね」

「もう出てますよ」


ガウナが片眉を上げる。ジルトは拳をぎゅっと握った。


「ユリズ・クリード内務副大臣。ルージュ秘書官が呟いている独り言ではあんたの名前は出てこないけど……死者を憑依させる『アッカディヤの魔術儀式』を使った人物の名前も出てこない」

「まさか彼があれを知っていたとはね」


その名前を出せば、ガウナの顔からは表情が消え失せた。


「ラフトの名前を借りてぺらぺらと。現内務省にしては知りすぎているから、旧内務省の関係者だったりするのかな、ブランくんは?」


正解である。


ファニタによると、ブランはトウェル王時代の王立総学研究所の所長の孫であるらしい。

アゼラ伯爵は『アッカディヤの魔術儀式』については同僚たちに内密にしていたらしいが、それとは別に、同魔術儀式の研究が進められていたのではないかというのがファニタの言。


つまりだ。王総研では、二つの研究が行われていたことになる。


トウェル王麾下で内密に進められていたものと、アゼラ、ガイアス両名で進められていたもの。ブランが知っているのは、トウェル王麾下で進められていたものだろう。


「王総研の研究は、あんたも知りたいところでしょ?」

「クレイ君に訊くから、ブランくんは別にいいんだ……と言いたいところだけれど、まだブランくんには役目が残っているからね」


肩を竦め、ガウナが藍色の目でジルトを見た。その色は、なにを考えているのかわからない色だ。光の差さない深海の、または夜の帳の色。


ガウナはしばらく無言。ジルトも彼の瞳の色について考えていたが、特に意味がないと判じてティーカップを手に取った。


「あ、今諦めたね」

「なにをですか」


嬉々として言ってくるガウナに、ジルトはジト目。少し冷めた紅茶を飲み切った。


「ゲームは延長戦ってことで良いですね。紅茶ごちそうさまでした。俺は帰りますから」

「まだゆっくりしていけば良いじゃないか。訊きたいこともあるし」

「……」


立ち上がりかけた両肩を何者かに抑えられる。ジルトをここに連れてきたクライスである。仕方なく、ソファに座り直す。


「どっかに行ってるリーちゃんが帰って来ますよ」

「それはそれで悔しがる顔が見られるからいいよ……もうすぐ、セント・アルバートでは学園祭があるだろう?」

「ありますね」


驚くほど速く答えてしまった。食い気味な返事に、ガウナが目を丸くする、が、それを気にした風はなく。


「君のクラスはなにをするの?」

「…………さ」

「ん?」


ジルトはヤケクソ気味に答えた。


「女装男装喫茶です!」


あのアホ委員長のドヤ顔が頭に浮かび、ジルトは人相悪く答えた。いの一番に伝えに来やがって。


「それはとても面白そうだね!」

「全然面白くありませんよ」

「他の二年次のクラスは何をするの?」

「えーと……お化け屋敷に、ミニゲーム、演劇と、ハルバのクラスは脱出ゲームって言ってたな」

「全部で五クラスか、なるほどね」


何が「なるほどね」なのか。


「よし、わかった。学園祭には僕も行くから、君のクラスにも顔を出して……」

「やめてください」

「ちなみに君のシフトは?」

「誰が教えるか!」


ジルトは叫んで、立ち上がった。今度はクライスに止められなかった。


「それじゃあ、頑張ってくれたまえジルト君。期待してるよ」


ひらひらと手を振る銀髪の公爵は、実に実に楽しそうだった。

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