生き延びる術
その青年は、こんな晴れた日に真っ黒な服を着ていて、ずいぶん憔悴しているようだった。
『会いたい人がいるんだ』
澱んだ藍色の瞳の中に狂気を奔らせて、彼はリルウを見ていた。
『君が、必要なんだ』
まるで愛の告白である。必要なんて、リルウには程遠い言葉であったから、リルウは彼に少しだけ興味を覚えた。
リルウがまだ夢見る少女でいられた時は、うっかりときめいていたかもしれない。が、あの人を亡くした後は、そんな言葉にときめくはずもなく。リルウが一番惹かれたのは、その青年の狂気。
会いたいという純粋な願いのはずなのに、どこかグロテスクで、痛々しい。
だから、リルウは焼け落ちた世界で、青年の手を取った。
この青年が、会いたい人に会えますように、と。
魔法が廃れたこの時代に、『魔女の信徒』は魔法もどきを使おうとしている。
連中は、とある儀式で魔法を再現し、薔薇の魔女を復活させ、彼らの主として国を導かせようとしているのだ。
「はあ、魔法」
正直言って、ガウナの話を聞いても、ジルトは実感が湧かなかった。魔術師の師匠を持ちながら、ジルトは魔法に親しみがない。
魔法とは、不可能を可能にする術である。だが、それは、ごく一部のものしか使えないとされている。
英雄アルバートの御伽噺の中でも、魔法が使えるのは一握りの人間のみ。だからこそ、薔薇の魔女ローズは最初、迫害の対象とされていた。魔法はマイノリティのものだったのだ。
そのことを重々承知していて、王家に降ったのがセブンスの先祖だったりするのだが、まあそれはよいとして。
ジルトの感情のこもっていない声に、ガウナは苦笑する。
「私も魔法と言われてもさっぱりだよ。だが、その方法が問題なんだ。なにせ、それは犠牲を必要とする方法だからね」
「リルウ陛下、ですか」
「他にもう一人。“贄”と呼ばれる人物がいる」
「“贄”?」
ガウナは頷く。
「本来魔法とは、魔法を使う人物の魔力を消費する。だが、その儀式では、魔法を使う人物と、魔力を提供する人物が違うんだ。
提供する人物は、“贄”と呼ばれる。“贄”は強制的に魔力を引き出される。魔力というのは、人間の生命力だから……その人物は、間違いなく莫大な生命力を消費して死に至るだろうね。そして、その“贄”というのが、君の親友であるハルバ君だ」
「あ、あいつが?」
急に身近な人物の名前が出てきて,ジルトは前のめりになる。
「何かの間違いじゃ……」
「いいや。これは、『魔女の信徒』の教祖が言っていたから、信憑性は高いよ」
聞き逃してはならない言葉が聞こえた気がする。いや、何か妙に詳しいから、そうだろうなとは思っていたが。
「『魔女の信徒』と繋がりがあるんですね」
「四年前、炙り出してみた結果だね」
「炙り出してみた、じゃないです」
「ついでに言えば、『魔女の信徒』という名前はその時つけられた名前だ。当時、野心がありそうな“魔女信者”の人物に接触し、集団を纏めさせて、後々一掃しやすいようにした。教祖の名前はシンス・ゲイナーという」
ジルトは閉口する。何してるんだこの公爵は。
「まあ、『魔女の信徒』結成当時から組んでいるとはいえ、私たちは表向き、利害関係で結ばれているにすぎない。嘘を教えられた可能性もなきにしもあらずだけどね。だが、ハルバ君の家系を考えれば納得はできる話だ。ジルト君は、三大公爵家はご存知かな?」
唐突なガウナの問いに、ジルトは気圧されながらも頷く。
「はい。ダグラス、ドラガーゼ、ディーチェルの三家ですよね?」
「そう。ダグラスを除いて、後の二つの公爵家は、四年前の大火で滅びた。さて、そこで問題だ。なぜダグラスだけが、四年前の大火で生き延びたと思う?」
押し黙るジルト。嫌な予感が、あった。
問いを投げかけておきながら、容赦なくガウナはその答えを口にした。
「そう、当時のダグラス家の当主はね、大火を予知していたんだよ……ダグラスは、代々予知に特化した、魔術師の家系なんだ」




