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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(中)
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ほんとう

ブランが逮捕された、翌日。


「いや、どうしてこうなった」


もそもそとサンドイッチを食べながら、ジルトはファニタと共に状況を整理し合う。


ちなみにサンドイッチはファニタ作であり、「今日作りすぎちゃったから」と言われてもらったものだ。「それなら夕飯に回せばよくないか?」と言えば、なぜかもうすぐ行なわれる学園祭のアンケートを取りに来た学級委員長から、頭に手刀を入れられた。


ジルトとしては、ファニタの大切な食料を貰うのはどうかと思っただけなのだが。「食え」という外部の圧力により、ジルトはもぐもぐと咀嚼している。

食べたら食べたで「アドレナさんのサンドイッチを……」と殺気立った目で見られるのは、いくらなんでも理不尽すぎないだろうか。


だが、殺気立つくらいがちょうどいい。冷静に聞いてみれば、ジルトとファニタの会話は、とんでもないものであるからだ。


「クレイはまだ生きてるから、ゲームは続行中。事件は“解決”してない」


一つ目のサンドイッチを食べ終わった。水を飲んで、ジルトは続ける。


「あの人が自主的に引きこもってしまったから、マティスのことを知る手段も断たれた。これって、俺をゲームに勝たせないためのアイツの策略だと思うか?」

「自主的に引きこもってるから、違うんじゃない? サンドイッチどうだった?」

「美味かった。暑いからトマトの酸っぱさがよく効くな。そうか、じゃ、これはアイツの計算外の出来事だと言ってもいいのかな」


二つ目のサンドイッチに手を伸ばす。綺麗に容器に詰められているサンドイッチは、ファニタが手にしているサンドイッチより彩り豊かで、パンが綺麗にカットされている。


疑問を持ちつつ、ジルトはファニタを見る。


「引きこもることで、自分を守ろうとしているのかも。もしくは」


じっ、と見られて、ジルトは首を傾げた。


「なんだ?」

「いいえ。あの人は、三日だけじゃ事件は解決しないって言ったのよね?」

「そうだな。うちの敏腕上司が〜って」

「その敏腕上司が、あんなことになった」


ファニタの言葉に、ジルトの中の「どうしてこうなった」が加速する。


「絶対嵌められてるよな。アイツの“抜け穴”かなんかで連れてこられて、そのまま河岸に捨てられたとか」


そうすれば、ブランだけが河岸にいた理由がつくのである。


「本当はアイツが殺して、あの人に罪をなすりつけたとか」

「そうかもしれないわね。けど」

「けど?」

「……別の人物を名乗ることに、意味があるのかも。式典会場でアイツ……えーと、彼がやったことを覚えてる?」


ジルトがムッとするのに苦笑いしながら、ファニタが訊いてくる。ジルトは頷いた。


忘れもしない、『アッカディヤの魔術儀式』のために、リルウとハルバが犠牲になってしまいそうになったこと。


あの炎は、『アッカディヤの魔術儀式』失敗の炎ではなく、人為的に起こされたものなのに、あたかも“彼女”とやらが契約の破棄によって蘇るかのような言い方をしていたこと。


「すごくやばいやつ」


まさかそんなことを教室で言うわけにはいかないので、ジルトはその一言に集約した。


「そのやばいやつが、もしかしたら、違う意味でやばいやつなのかもしれないわよ。覚えてる? 彼が言ったこと」

「?」

「『君が家族に会えなくても、僕は“彼女”に会える』」


そういえば、そんなことを言っていたな。


ジルトはふと思いついて、自分が持ってきたキッシュを半分ファニタに分けた。ファニタは微妙な顔をした。「空気読めお前」という野次が飛ぶ。


「それは、俺があんなこと(家族が殺された)言ったからだろ? いや、でもよく考えたらおかしいな。まるで」

「まるで、彼女だけが蘇ると確信しているみたいな言い方よね」


ジルトは目を見開いた。ファニタが、迷った末にキッシュを口に運びながら言う。


「そもそも、彼自身が()()なんだから、儀式は失敗。再び王都は焼け野原。初めから失敗する儀式を利用して、彼は別の儀式をしようとしていた。いえ」


青い瞳はジルトを見ていた。


「もしかしたら、それこそが、あの儀式の“ほんとう”なのかも」

「つまり、全くなにも関係ない二人を使って?」


死者を蘇らせる。


『アッカディヤの魔術儀式』のほんとうは、たった一人を二人で蘇らせる術……ということになる。


「非生産的だな」

「そんなことないわ。ぐぬぬ、キッシュが美味しい」

「なんで悔しそうなんだお前」


美味しいのなら良かった。「空気読めお前」という本日二度目の野次が飛んでくる。というか、野次を飛ばしてる声に、学級委員長の声も混じっているような気がする。

まったくこのクラスは安泰である。


「だから、別人を名乗る、それもそうなった人を名乗るってことは、あの人にとって特別な意味があるのよ」


私の父の元上司のお孫さんがね。とファニタは付け加えた。一気に信憑性が高まった。


「ちょっと待て。あの人が自主的に引きこもって伝えようとしていることって……」

「そう。彼が式典会場……王宮跡でしようとした儀式と同じことを、あの人にしたんじゃないかってこと」


つまり。


ブランは、『アッカディヤの魔術儀式』によって、ラフト・バリエスタになっていた、と伝えようとしているのだ。ガイアス・アドレナの娘であるファニタに向けて。


「でも、確かにそれなら、寮の隣の奴が言ってたことに説明がつくかもな」


ジルトはハルバが言っていたことをファニタに話した。その日、ブランは午前から午後まで、執務室で眠りこけていたという。まるで、()()()()()()()


「どうしてそんな風に見えたかっていうのはわからないけど」

「きっと、その不自然さが、この事件を解く鍵なのよ。ごちそうさま。キッシュ、美味しかったわ」

「ああ、サンドイッチも美味かったよ。ありがとな」 


『アッカディヤの魔術儀式』。

あの式典会場で失敗したはずの術が、今度は成功した。だが、ハルバが視た限りでは、今牢獄にいるのは紛れもなくブランなのだという。

人前では凶悪な表情を浮かべながら、見られていないところではひたすら緊張している様子をしているという点からして、ブランは演技をしていると考えられる。


ジルトが弁当を片付けていると、ぽん、と肩に手が置かれた。なにかと野次を飛ばしていた学級委員長である。


「むふふ、バルフィン、学園祭、絶対サボるなよ」

「え、なんだいきなり」

「これは厳正なるアンケートの結果だからな。わっはっはっは!」


高笑いして去っていく学級委員長にイラッとしつつ、ジルトはため息を吐いた。



世間はともかく、学園は今日も平和である。

フラグを立てるジルトくん

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