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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(中)
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考えなしのガウナくん

前話でイキったので

魔法使いの一族は、どうにも捉えにくい。


いちばん単純そうなハルバでさえ、最近はなにを考えているのかよくわからない。おそらく、彼の底にはまだ罪悪感と劣等感が眠っているのだろうけれど。


だから、目の前の変人がニヤついていても、今のところは「ああニヤついているな」と考えるだけでいいのだ。たぶん。


「考えなしのガウナくん。お前はあんなことされた秘書官がどう出るか、想像することもしないのか?」


赤ら顔で、黒瞳を細めてニヤニヤ。歌うように言うところに、本人の下卑た性格が如実に表れている。

その言い方さえ無視すれば、彼は有益な情報を与えてくれる人物なので、まだ殺すには惜しいと思う。


「……やっぱり、彼はラフト・バリエスタのふりをしているだけなんだね?」


昨日養父殺しに仕立ててやったブラン・ルージュは、なにをとち狂ったか自分のことを十二年前に死んだ犯罪者、ラフト・バリエスタだと名乗ったのである。それどころか、自主的に投獄される始末。


一応の上司が気の狂ったことを言いはじめたせいで、警邏局は震撼。行政局への追及の手は、一瞬だけ緩んだ。


「小賢しい知恵だよ。狂人のふりをして、なんとか僕に辿り着かせようとしているんだから」


ガウナは小さく溜め息を吐く。未だにブランの口からは、ガウナの名前は出てこないが、それも時間の問題だろう。

そんなガウナを見て、アルドは手錠をジャラジャラ。 


「まあ、それは想定済みなんだろ? こっからは、闇に落ちた養父を息子が殺したっつー、お涙ちょうだい話が繰り広げられるわけだから」

「わかってるじゃないか。そうだ、ブランくんは英雄になるんだよ」


単なる犯罪者ではなく、悲劇性を持った英雄に変化させる。ライケット・オリヴァー殺人事件は、ブラン・ルージュの恩人殺しによって幕を閉じ、美化されていくのである。


「……ところで」

「ん?」


ガウナはアルドに半眼を向けた。


「それ、どこからくすねてきた?」

「ああ、これ?」


アルドが掲げたのは、ワインボトル。さっきから、ガウナと会話しながらちょこちょこラッパ飲みしているのである。失礼極まりない。


「俺がくすねて来れるわけないだろ?」


右手首の手錠を見せてくる。彼が“資料室”から出ることはないのだ。

と、いうことは、誰かが彼に差し入れしたというわけだ。ガウナが新聞を持ってきたのと同じように。


「狸ジジイとお前は刑期を軽くするって言ったけどさ、正直、俺はそんなの要らねえんだ。俺が求めるのは、刹那的な楽しさであって」


とんだダメ人間である。ワインボトルに頬擦りする姿は、自堕落を絵に描いたようだ。


ーーいや、違う違う。


問題は、ユリズとガウナが与えたものが、間違っていたということである。アルドはこう言っているのだ……ワインを差し入れしてくれた人物に着くと。


ーー殺すか。


ガウナは密かに決意する。後ろ手に炎を宿し……


「馬鹿だなあ魔女さんは。俺を誰だと思ってる?」


くあ、と欠伸をし、アルドはぱちんと指を鳴らす。


「予知能力者だぜ?」

「いや、予知能力者は空間魔法なんて使わな」




「い」


すとん、と椅子に着地。そこは、王城の執務室である。ガウナは無言で指を鳴らし、“抜け穴”を作る。


「いきなり飛ばすなんてひどくな」

「はいさよなら」


ぱちん。すとん。一瞬にして見慣れた執務室の見慣れた椅子に着地。ガウナはだんだんっ、と机を叩いた。尻が痛い。


三度目、速攻で燃やそうとするも速攻で飛ばされた。どうやら、“資料室”には罠が仕掛けてあり、執務室に強制送還される魔法陣が仕掛けられているようだ。


「ダグラスって予知だけじゃないのか?」


明らかに指パッチン一つで、空間魔法を発動している。それも、超高度な空間魔法を。


「そんなことができるのは……」




紅い目の女王様は、「やっと気付いたのね」とガウナを憐れっぽく見た。


「予知能力者を失った貴方が、別の予知能力者に頼るのは見えてたから、先に買収しておいたわ」


と、いうことは、やはりあの空間魔法はリルウのものであるということである。


「あのワインは?」

「城の食糧庫からくすねてきたの」


えっへん、と胸を張る。灰色の髪の少年が見たら微妙な顔をしそうだが。


「じゃあ僕もそれをくすねて来れば、対等になるね」

「それは無いわ」


即答。


「私のような美少女のお酌付きじゃないと」

「いやラッパ飲みしてたけど」

「婉曲に言いすぎたわ。人望の差ね」 


引きこもり女王様がよく言う。


「予知能力者を買収したところで、僕の有利は覆らないよ」

「あら、そうかしら?」


よほど自信があるようだ。たしかにアルドは能力の高い予知能力者だが、新聞で鎌をかけておいたガウナとしては、別に恐るるに値しない。あの部屋から引き摺り出して殺す方法は、いくらでもあるのだ。


そう思うが、なんだか胸騒ぎがする。 


「なにか、知ってたりする?」

「ええ。世間知らずの貴方が知らないことを、たくさん知ってるわ」


たっぷり含みを持たせた笑みで、あの男と同じ色を持つ少女は、綺麗に笑った。


「考えなしの宰相さん。誰がお兄様に、マティスのことを教えるの?」

「それは、ブランくんで……あ」

「そう。今、ブラン・ルージュ秘書官は、牢屋に引きこもってるわ」

「……というか、マティスのことを知ってるのって、もしかして」

「ええ。そうよ」


気のせいか、リルウの背後に、狸の笑みが見えた。殺したはずの狸の笑みが。


「これも、クリード内務副大臣との打ち合わせ通りってこと」

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