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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(中)
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伏せていたカード

ガウナが帰った後、二人は床にぶちまけられたコーヒーを片付けていた。


「あんの若造、拭いてけっての」


ユリズが毒づく。ブランはすっかり意気消沈して、ひたすらコーヒーを染み込ませた雑巾を絞っては拭き、絞っては拭き。


「すみません、副大臣」


暗い声でブランが呟く。


「私は、貴方を出世させるどころか、ぐすっ、辞めさせる事態にまで追い込んでしまって……」

「いや、辞めたら仕事しなくていいから良いんだけどね」


幸い、余生をのんびり過ごすだけの金はある。未練といえば、自分が辞めることでブランにかかる嫌疑。だがまあ、この養子は、今は死にそうな顔をしているが立ち直りが早いので大丈夫だろう。


むしろ自分のお守りにしておくには勿体無いぐらいの能力はあると、ユリズは見積もっている。


「それに、貴方が持っていたカードをほとんど曝け出す羽目になってしまって……『ユーフィット医院』も、私がやり方を間違えなければリルウ陛下用のカードになったのに」


それを認識しているなら上々。以前言ったガウナとリルウの立場の違いを理解している。


「どうしてガウナ君は、私を脅しに来たんだと思う?」

「それは……勝利宣言とか?」

「まあそれもあるね。ドヤ顔するところはトウェル王そっくりだからね。血も繋がってないのに……と、それもあるけど、一番は」


コーヒーの汚れは、すっかり綺麗になっていた。真っ白な床は、照明を映し、そして、ユリズの背後に立つ人物を映し出した。


「……!」


ブランがあんぐり口を開けて彼女を見た。蜂蜜色の髪に、林檎のような紅い瞳。豪奢なドレスを着た彼女は、静かに佇んでいる。


「貴女の言う通り、ジルト君の名前を出したら乗ってくれましたよ。これで貴女とジルト君の間に、宰相の知らない繋ぎができたわけです」

「接触できるのは、“事件解決”まででしょうけどね。感謝するわ」 

「あ、え……あ?」


ブランがなぜか床とリルウを交互に見て、声にならない声をあげている。そんなブランを見て、ユリズのとっておきのカード……リルウは妖艶に微笑んだ。


「ブラン・ルージュ秘書官」

「は、はいっ!」

「私とお兄様の愛のキューピッド……こほん、連絡係になることを任命するわ」

「は、はい……お兄様?」


首を傾げるブランに説明してやる。


「君に調査を頼んでいたジルト君は、女王陛下の思い人で、この前の舞踏会でガウナ君と踊っていた子だよ」

「???」


余計にわからなくなったらしい。


「つまり、ややこしいってことさ」


ユリズは肩をすくめてそう言った。  






その時のことを思い出しながら、ブランは目の前の少年に話した。


今度こそ会えた灰色の髪の少年は、まるで、ブランが来ることを予期していたように、応接室にすぐに現れた。


「リルウ陛下は、内務副大臣と組んでアウグスト宰相を降ろすことに決めたんだ。そのために、わざわざ閣議で副大臣とやり合って、宰相に見せつけたらしい」


つまり、ガウナが副大臣の元に脅しにきたのは、焦りもあったということだ。

彼は副大臣の執務室に来る前に、リルウと訣別している。リルウとやり合う前に、もう一人の敵である副大臣を潰しておきたい……そんな焦りが。


「幸いにも閣議での様子から、陛下と副大臣が手を組むことはないと思われている。だから、宰相は一対一の戦いだと誤認しているんだ」


二人に言われた通りに、全部話してしまったが良いのだろうか。ブランは不安を拭えなかった。


ブランがジルトに接触することを許したガウナの狙いがわからない。ジルト・バルフィンという少年は、本当にこちら側の人間なのか?


ブランの話を聞いていたジルトは、なぜか焦ったような顔をしていた。ブランの瞳にも焦燥が走る。やはり、二人の繋がりを言うべきではなかったか……?


「よく」

「よく?」

「よく、生きてますね、ルージュ秘書官……」

「……え?」


次いで、ジルトは「あ、すみません」と苦笑い。


「あの男のこれまでの傾向から言ったら、口封じしかないと思っていたので、何かあるんじゃないかと思って」

「口封じ……」


ブランは一気に体が冷えるのを感じた。そういえば、そうだ。なぜガウナは、ブランのことを殺そうとせず、そのままゲームとやらに使おうと思ったのだろうか。


「そうか、なにも脅しは必要ない。私を殺せば、十分見せしめになるんだ」


ブランの言葉に、ジルトが頷く。


「実際、それを警戒して、俺たちは公爵……アウグスト宰相より前に死体遺棄の犯人を見つけようとしていました。だけど蓋を開けてみれば、あの胸糞悪い遊びに貴方を巻き込んだときた」

「遊び? そうだ、ゲームと言っていた。君は、宰相に何かを吹っ掛けられているのかい?」

「はい。詳しくは言えませんけど」

「どうして?」

「今度こそ、貴方は殺されます」


その草色の瞳は、不思議な光を帯びていた。ブランはごくりと唾を飲み込んだ。


「……わかった。それなら、話せるところだけ話してくれないか?」

「ありがとうございます。アイツは言いましたーー事件が解決するまでに、マティス・ウィリアムを見つけてほしい、と」

「マティス・ウィリアムだって!?」


ブランはひっくり返りそうになった。なぜジルトからその名前が出るのか、理解ができなかった。いや、正しくは、なぜガウナがその名前を把握しているかを、だ。


ブランは立ち上がり、ジルトの肩を掴んで揺さぶった。


「た、たしかにそう言ったんだね!? 宰相は」


今度はジルトが狼狽えた。


「は、はい……彼? を知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、内務省が密かに追っている案件だよ! さきのスピレード元内務大臣の襲撃事件で、アレリア監獄で突如としていなくなった凶悪犯の名前だ!」

「凶悪犯!?」


ジルトもまた驚いていたようだった。


「なんでそんな奴を見つけて欲しいんだ」

「さあ……考えられるとすれば、マティスが宰相と繋がっていて、何かをしようとしている、とか?」


もしくは。


「君をマティスに近づけることで、君を殺そうとしている……とか」


マティスは元ネタがあります。

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