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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(中)
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訣別

指の動きにつられて、ジルトは下を見た。


「地下牢?」

「そう。彼は、表向きは親戚に引き取られたことになっているけど、実際はここに閉じ込められているんだ」


その言い方は、なんだか軽薄で信じがたい。第一、レイデスならともかく、十歳にも満たない息子を閉じ込める意味がどこにあるのか。 


「それって、本当なんですか? 俺をからかってるんじゃなくて?」

「信用できないなら、ハルバ君に頼んで、クレイ君の居場所を教えて貰えばいいよ」

「……ハルバは、クレイの顔は見てません」


ジルトは観念して答えた。ハルバが予知をできるということが、バレている。


ジルトの答えを聞いたガウナは、意外にも目をパチクリとさせていた。


「あれ? 知らないのかい? 君とアドレナ嬢がデートしていた時、ハルバ君が尾行してたんだけど」

「はあ!?」 


大声を上げて、ジルトははっとした。そういえばハルバは、ジルトとファニタが土産のケーキで揉めていたことを、なぜか知っているようだった。


「へえ、知らなかったんだ。ハルバ君も人が悪いね」


目をパチクリしていたガウナは、次には嫌な笑みを浮かべていた。


「本当は全部知っていたのに、なんにも知らないふりをして、君たちが買ったケーキを食べていたんだね」

「……性格悪い」


ジルトがボソリと言えば、ガウナが大きく頷く。やたらと嬉しそうに。


「そう、高みの見物を決め込むところは、彼も所詮ダグラスということにすぎーー」

「あんたのことですよ。どんだけ小さいことで仲間割れ狙ってるんですか」

「……なんだ、つまらない」


途端、ガウナは背骨を失ったかのように、ぐんにゃりと高級そうなソファにもたれ掛かった。

完全にやる気を失っている。


「とにかく、クレイ君を地下牢に閉じ込めていることは確かだ。これは脅し。君はお人好しだから、彼を救いたいだろ?」

「デート中に冷やかしてきたガキですよ。会ったのは一回だけだし、そこまで思い入れは」

「じゃ、訂正しよう。僕に殺される人は、皆救いたいだろう?」


欠伸をしながら、言った。ジルトの体が固まった。ガウナはそんなジルトに気付いているのかいないのか、相変わらずやる気のなさそうな顔で、天井を見ていた。


「だったら、僕の条件を呑むことだ」

「条件、って?」


考えられることとしたら、運河に遺体を投げた犯人を見つけることか。それとも……。


ガウナは、「よっこいしょ」と勢いをつけて跳ね起きた。厄介なことに、微妙に瞳が輝いているように見える。先程までのやる気のなさが嘘のようだ。


「もちろん、遺体を運河に投げ込んだ不届き者を見つけること……ではなく、ある一人の男を見つけてほしいんだ」

「……は?」

「そうだな、期限はこの事件が解決するまで」

「解決って、院長がそうなんじゃ」

「いいや、犯人は院長じゃない。君にはそれがわかっているんじゃないか?」


ジルトは口を噤んだ。こちらがどの程度情報を掴んでいるか、探りに来ている。


「それで、ある一人の男って?」

「お、やる気になったのかい? 男の名前は、マティス。マティス・ウィリアムだ。頑張って見つけてくれ」


話を逸らさざるを得なくさせておいてよく言う。ジルトはジト目になった。


「やる気になったんじゃないですよ。仕方なくです。本当に仕方なく、あんたの遊びに付き合ってあげるんです」

「それは光栄だ。がんばってくれよ、小さな英雄君?」


そんなジルトに、心底嬉しそうな目をしながら、ガウナは言ったのである。


 




ジルトが帰った後、リルウは彼に聞いてみた。


「マティス・ウィリアムって誰?」

「君に話すと、ジルト君に筒抜けになりそうだから教えない」


ご丁寧に指でバツを作られ、リルウはジト目になった。 


「あっそ」

「ただでさえ、レオン・ダグラスと組んで閣議を引っ掻き回してくれたんだ。正直言って、僕から君への信頼度は低い」

「あら、今更?」


リルウは笑いたくなった。もうとっくに、リルウは“覚悟”を決めているというのに。


「さんざん邪魔したのに、まだ信頼してくれてるの?」

「……信頼じゃないよ。見くびってるんだ」


ガウナが微笑んだ。


「残虐さでは、お姫様や魔法使いは、魔女の足元にも及ばない。それを確認したからね」

「……」

「僕には君の“迷い”が見えるよ。それを知られたくなくて、皮肉げな態度ばっかり取っているんだろうけど……僕も同じさ。魔女の生涯は引き算だ。いずれ君を切らなくてはいけないと思うと、不安になる」


不安。悲しいでも苦しいでもなく。リルウは唇を噛んだ。


「君が僕との契約を破って、ジルト君に正体を教えたあの日から。こうなるだろうとは思っていたよ」

「……最後の警告よ」


リルウは、やけに重たい瞼を押し上げて、ガウナをまっすぐに見た。


「私は魔術に目覚めた。他人が殺した人の魂を取り込めば取り込むほどに、私の魔力は大きくなる。だから、兵士が兵士を殺す戦争をしたとして、勝つのは私。戦争を回避したければ、こんなことはやめて……」

「ああ、やっぱり、君たちには齟齬があるんだ」


納得のいったような声が聞こえた。


「レオン殿は、戦争を回避しようなんて気はないよ。本当に起こす気でいる。葬儀の場での彼の苛つきようを見たらわかる。彼は、全部をなかったことにしたいんだ。でも、君は違う」

「っ……」

「君は、わかっているんだろう?」


その次の言葉は、やけにゆっくり聞こえた。


「戦争を起こしたとして、勝つのは僕だと」

「いいえ、違うわ」


いいや、正解だ。心の叫びを無視して、リルウは不敵な笑みを浮かべた。



「ここからの景色を見させてくれた、恩人の貴方を殺すことに、良心が、咎めるだけ」

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