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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(前)
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番外編 ペルセ君の発売日

番外編なんだけど番外編ではないです。

「ありあとござやしたー」


本屋から出て、ペルセはうっきうきだった。


ここ数日降り続いた雨は止み、今日は絶好の新刊日和! ファンの義務として、この国の宰相の金で本を購入し、るんるんとスキップ。


「いやあ、さっすが王都! ケィル・モアハじゃこうは行かないからな!」


満面の笑みを浮かべる彼は、実はこの国に古くからいる神様である。世界は彼が作ったと言ってもいい。

なんでもできる神様は、なんでもできるので、とりあえず自分の行動にルールを設けている。


今日買った新刊は、なんと二十年ぶりの新刊。失踪したと言われていた謎多き作家、ネーベラ・シューエルの『山女の契約』の続刊である。


ペルセは神なので、見ようと思えばネーベラ……本名トアヒェル・テラーゼの仕事場に潜入し、まだ本になっていない原稿を読むことも可能なのだが、それはあまりにも無粋というもの。ファンを名乗るからには、ちゃんと書店に並び、実際にできた本を手に持つのが礼儀だろう。それでこそ、トアヒにも顔向けできようものだ。


それでも、王城へのショートカットくらいは許されても良いだろう。ペルセはそっと路地裏に入り、こんこんと壁をノック。

この“抜け穴”は、空間という概念を認識した人間が勝手に作った“魔術”である。別に魔法の方で帰っても良いのだが、瞬間移動の方だと、人間の作った物が耐えられる保証はないので、安全策を取ったのだ。




「たでーまー」


ペルセは神なので、一瞬にして王城の、宰相の執務室へと現れることができる。


部屋の主である宰相は、藍色の瞳を細めた。


「おかえり。新刊は買えた?」

「おう、ばっちりだぜ!」


ペルセは外見に見合った無邪気な笑顔で答える。


「金、ありがとな。お礼に、なにか一つ良いことを教えてやろう」

「じゃ、じゃあ“彼女”のこととか……!」

「それは教えられないな」


ばっさりと切るペルセに、宰相……ガウナ・アウグストは、がっくりと肩を落とす。その様子に憐憫を覚えて、ペルセは付け足した。


「俺が教えたら、ネタバレになっちまうだろ? お前の恋は、お前自身が見つけるもんだ」

「ネタバレとか、俗世に染まりすぎてないか?」


ジト目を向けてくるガウナ。


「僕は超最短距離を行きたいんだけど」

「超最短距離、ねぇ……」


ペルセは考えた。

最短距離なら、ある。今すぐセント・アルバート学園に行けばいい。そこには、あの落伍者の弟子がいて、そいつの女装した姿こそが、ガウナの求めている初恋の少女なのである。


「でも、ヒロインとヒーローが会うのに紆余曲折があってこそ、物語は面白くなると思うんだよな」

「僕の恋を娯楽扱いしないでくれないか?」


真剣に言ってくるガウナに、ペルセは苦笑い。


魔女というのは、自分の恋を成就させることに対しては、とてつもなく貪欲なのである。それこそ、来世にまで呪いを掛けたりするほどに。


「……ふむ」


ペルセは顎に手を当てた。来世。


「じゃあ、アッカディヤの意味を教えるっていうのは? 冷笑大好きなお前なら、絶対後で使いたくなる豆知識」

「人のことをなんだと思ってるんだ……」

「最後にドヤ顔しながら解説してくる男」

「ドヤ顔できるんだったら、教えてもらいたいかな」


ほら、乗り気だ。ペルセは机の上に、本の入った紙袋を置いた。さて、この新刊に、あの愚かな一族のことは書いてあるのだろうか。


楽しみに思いながら、ペルセはとある男のことを思い出しながら言った。


「アッカディヤってのはな、“理想郷”って意味なんだよ」


 


ガウナは、藍色の瞳を瞬かせた。


「ただの苗字じゃなくて?」

「まあ、苗字だけどな。お前らが騙して、お前が現在進行形で騙しているアッカディヤ一族は、四千年前は、アルカディアって名乗ってたんだ」

「騙してるなんて、人聞きが悪い」 


薄ら笑いを浮かべる魔女の末裔は、これからのことに想いを馳せているようだった。アッカディヤ一族の子孫たちは、この魔女を相手にしなければいけないのだから、心底同情する。


「事実だろうが。人は運命の輪からは逃れられない。魂の定着、そして回帰。それをぶち切るのがお前らの“魔女の祝福”なんだろ?」

「祝福なくして、人は幸せになれないからね」

「おんなじことを繰り返して死ぬだけ。どんなに体を丈夫にしようが、“死に別れ”の運命からは逃れられない」

「“殺される”運命からもね。だから、僕たちは運命に迎合したんだ。まったくくだらないことにね」


ガウナは座っている椅子に、背を預けた。


「“理想郷”は程遠く、手を伸ばしても同じところに行き着くだけ、か」


部屋の照明に手を伸ばすガウナ。 


「それを見て、神様は笑っていたり?」

「いや?」


ペルセは首を振った。机の上に置いていた本を手に取る。


「物語の続きが見たいって言っただろ? 俺はお前に期待してるんだぜ、薔薇の魔女の生まれ変わり。神様の俺でさえクソゲーと思う人生を、それこそ薔薇色にすることができる演者として」






与えられた自室に篭り、ペルセは分厚い新刊を読み切った。


感慨深さとともにペンを執り、トアヒに向けて長々とした感想文を書いた。その感想文を、ぐしゃぐしゃにして屑籠に捨てた。




「さすがはガイアス・アドレナの論文のほとんどを読んだ男だな。あの愚かな一族の存在さえ物語に取り入れるとは。この構想って八巻からしてたのか? ていうかやっとパーセが出てきたな! 俺の輝かしい時代も書いてくれる気になったのか?」

「突然現れて感想言うのびびるからやめろ」


いてもたってもいられなくなり、トアヒの仕事場に瞬間移動。ペルセは赤い瞳を輝かせて、お構いなしに続ける。


「これはベストセラー間違いなしだよ。お前はもはや、王国長者番付に名を連ねることができる」

「お、おう。ありがとう」


若干頬を引きつらせながらも、素直に礼を言うトアヒ。心を読めるペルセは満足げな顔をした。


「これで、お前の本に刺激されたアドレナの娘が気づきを得て、英雄に還元されるってわけだ。いやーよかったよかった」

「英雄? なんだかわからんが、あのガイアス様の娘さんが、僕の作品のファンだっていうのは、とてつもなく嬉しい偶然だな。お前を始め、こうしてファンが喜んでくれて、僕は嬉しいよ」

「……おう、そうだな! じゃ、続きも楽しみにしてるからさ、励めよ人間!」


ペルセはトアヒの肩をポンと叩き、瞬間移動。


王城の自室へと帰り着く。


「とてつもなく、嬉しい偶然、ねぇ……」 


新刊片手に窓の外を見る。遠くに見えるはセント・アルバート。ペルセは千里眼を使った。


ガイアス・アドレナの娘は、ペルセと同じく新刊の袋を両手に大事そうに持ち、帰路を急いでいた。


「論文を託したことまでは読めたんだから、その先も読めるだろ」


たとえば、自分はいつから、ネーベラ・シューエルの著書を読むようになったかを振り返るとき、彼女は父の存在を思い出すはずである。


「卒論書いて、トアヒに読ませ、その著書を娘に読ませる……どんだけ保険掛けてんだか」


げに恐ろしきは人間かな。


でもそのおかげで、トアヒの本を読めているのだから、素晴らしいことをしてくれたものだと思っておこう。


ペルセは欠伸をして、ベッドに横になった。寝ることは自分には必要ないが、娯楽の一つである。

新刊買って、読んで感想伝えて寝る。ああ、素晴らしきかな発売日!


今日という日がずっと続けば良いのに。


これが理想郷なら、昔の人間は苦労しなかったものを。違うものを求めるから、苦労するのだ。


「理想郷が、微笑むとしたら」


うつらうつら、夢の世界へ入りながら、ペルセは呟く。


「それは、クソゲーから降りる時だ……」

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