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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(前)
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彼の死

オリヴァー氏はとあることの説得力を担っています

非常に疲れた顔をしながら、ガウナは呟いた。


「おかしい」


こんこん、と空間をノックして、次の場所へ。


「なんで僕がこんなことしてるんだ」


“抜け穴”を通って次の場所へ。収穫はなし、十数個ある跳ね橋の一つ一つをしらみ潰しにしていくのは骨が折れる。“抜け穴”があるからいいものの、馬車や徒歩だったら絶対半日では終わらないだろう。


「決まってる。オリヴァー監察官が死んだせいだ……」


恨みごとたっぷりにガウナは呟く。先王の謀りごとは知らないが、『ユーフィット医院』が世間に注目されることは避けたい。正確には、その地下にある非常食たちの溜まり場をだ。


嘘か本当かはわからないが、レイデス医院長は殺していなさそうだし、とすると、先王関係か、はたまた全く関係ない殺人であったりするのかもしれない。


なんにせよ、被害者が『ユーフィット医院』に査察に行ったことは事実。

早く殺人事件を解かないと、『魔女の信徒』が暴かれてしまうことにもなりかねない。そうなれば、アゼラ伯爵を裁判で殺してまで偽装したのが無駄になってしまう。


そういうわけで、渋々、ガウナは探偵役に興じているのである。


「だいたい、こういうのってジルト君の役割じゃないのか? 彼だったらなんやかんやで犯人見つけそうだし……僕は城で高笑いしてる役で」


第五の跳ね橋に行く途中も、ガウナは呟いた。


いきなり操作員の前に現れるわけにはいかないから、少し離れたところに“抜け穴”の行き先を設定する。地味に橋までの歩行距離が長いのも疲労の原因である。


「ジルト君、か」


ガウナは上の空で呟いた。少し歩みが遅くなり、完全に歩みが止まる。しばらく昼下がりの空を眺め、「あっちにはハルバ君がいるじゃないか!」と叫ぶ。


彼は葬儀の時によく予知を働かせていたから、もしかしたらオリヴァー監察官の死の真相も知っているかもしれない。しれないが、教えてもらう術がない。


ガウナは諦めてまた歩き出した。


「ううん、エリオット君を失ったのは痛いなあ……予知能力さえあれば一発なのに」


そうすればこんなところで探偵ごっこなどせずに済んだものを。ガウナはソフィア・アルネルトを恨んだ。


自分がエリオットと共に死に追いやった『王都通信社』の元社員。彼女が生きていたのは予想外、大打撃である。

なぜ生きていたのかはわからないが、ガウナに対して恨み千万であるだろうことはわかる。


予知能力者で明確な敵は、ハルバだけではないという事実に頭が痛くなってくる。加えて猪のお姫様を従えた最強の魔術師様も予知能力を持っているらしいし。


こうなればヤケクソにダグラスの誰かを脅して味方に引き入れるしかないのかも。だがそのダグラスも、自分の身を守ることに関しては長けているから、脅しをできるかというとそうでもない。ハルバの時のようにはいかないことは、ガウナもわかっている。



だから結果として、足で稼ぐしかないわけで。


今のところ手に入れたのは、そこらの警邏官が手にできる情報のみ。オリヴァー監察官は、なぜか墓地から遠く離れた一つ目の橋を渡ったらしい。

墓地に行くのなら、そこに近い橋を渡った方が良いだろうに、彼は『ユーフィット医院』から運河に出た後、わざわざ岸を迂回して、北東にある橋を渡ったのである。散歩というには時間がかかりすぎるその行動は、何か意図があるように思われる。

しかし、七個目の跳ね橋に差し掛かった今でも、その謎は解けそうにない。




途方もないと思われた捜査は、しかし八つ目の跳ね橋で急展開を見せた。そこは、戦没者の墓地に近く、アレリア監獄に近い跳ね橋である。


「お疲れ様です。なんと、アウグスト宰相自ら捜査をしておられるのですか……誠に残念ながら、オリヴァー監察官はこちらにはいらしてませんね。ああ、でもーー」


操作員が言いにくそうに言った言葉。それを聞いて、ガウナは目を見開いた。


ーーなるほど、未来が視えていたから殺されたんだ。


予知能力者ならではの殺され方と言えようが、一つ、不思議な点がある。


ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()






ハルバは一部始終を視ていた。


葬儀の時に参列客のリストを頭に叩き込み、使えそうな人物をピックアップしていた。本命は別として、ライケットの内務総合監察官という地位にも注目していた。


エリオットのように、その計画を知ることはできなかったが、彼が何の仕事をしているのかは、視ることで把握できた。総合とは言うが、すなわち、王都の査察である。案外地味なその作業は、地図を塗りつぶす作業と言ってもいい。


そう、地図だ。葬儀の前に視た彼は、書斎に大きな王都の地図を貼っていた。だからこそ、今回のことに役立つと思ったのだが……。



夜に視た、半日後の彼の未来は真っ黒に塗りつぶされていた。まるで、ハルバの父親の時のように。


ハルバは半日後から、少しずらして視ていった。なぜそうなったのかを知るために。父のような代償としての死? いや、ライケットはブラン秘書官の計画を知っていたほどには予知の才能があるので、それはないだろう。


少しずつ、巻き戻していく。半日後から、その五分前、十分前……視えたのは、ライケットが墓の前でうずくまって泣く一人の女性に声をかけているであろう場面。


ひどく優しい顔をしたライケットは、その女性に……確か、ネリアという名前の夫人の肩に手をかけた。ネリアをどかして、ライケットは墓の地面を掘る。出てきたのは、錆びた白刃。その柄を彼女に握らせる。何かを言っている。彼女は涙を流して、ライケットの腹に、白刃を突き立てる。


「……なんで、どいつもこいつも」


ハルバは自室で毒づいた。ライケットは、満足そうな顔をして、ネリアの元から去っていく。


剥き出しの地面ではなく、草が生い茂っている道を選んでいるのは、万が一血が落ちてもわからないようにだろう。白刃を抜かずに、ライケットはひたすら歩く。墓石の間を縫い、誰も祈りにこないような古びた墓石の前で。




ライケットは、静かに目を閉じた。


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