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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(前)
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彼の最後の仕事

名探偵ガウナ君

ガウナは“抜け穴”を使い、『魔女の信徒』本拠地へと赴いた。

その顔は不満に彩られている。廊下ですれ違った信者は、「魔女様」「どうされたのですか」とおろおろしているが、そんなことにかまけてる暇もなく、ガウナは地下から地上への階段を上がった。


「あ、くそ公爵だー」


クソガキがガウナを指差してくる。十中八九、シンスの入れ知恵だろう。


「やあク、クレイ君。君のお父さんは今いるかい?」

「父ちゃんなら診察中だよ。でもあと少しで終わると思う」

「ふーん、じゃ、ここで待たせてもらおうかな」


ここは診察室の裏の部屋である。表向き患者として来た信者が、診察室からここを通って地下の教団へと行くことができるのだ。ガウナは勝手にソファに座った。その隣にクレイも座った。


「なんだかイラついてない? しゃちくで仕事が終わらないの?」

「君のお父さんが仕事を増やしてくれたから、だよ」


ガウナのこめかみに青筋が浮かぶ。彼は珍しく怒りを露わにしていた。藍色の目は据わっていて、声はものすごく低い。


「別に後任は決まってるからいいんだけど」




診察を終えたレイデスが、部屋へと入ってくる。


「おや、公爵様」

「やあ、単刀直入に聞くけど、どうして殺した?」

「はあ?」


首を傾げるレイデスに、ガウナは主語が足りなかったと思い、付け加える。


「ライケット・オリヴァー内務総合監察官のことだよ。運河から死体が上がった」

「私が殺して、運河に投げ入れたと?」


ガウナは頷く。


「調べはついてるんだ。彼は今日、一人でここに来たんだろう? そして、城に帰って来なかった」


ガウナの言葉に、レイデスは戸惑っているようだった。首を振る。


「いえ、ここからは無事に帰りましたよ。最後に一矢報いたいとか言うから、トウェル王の話をしてやったら、なんだかすっきりした顔で帰っていきました」

「嘘じゃないよね?」

「私は朝から診察しっぱなしだし、なんだったら信者に聞いてみてください。逮捕間近の男を殺すほど、私は無能ではありません」


無能ではないけど、殺人ならサンプルのために平気でしそうである。

ガウナはそれを思ったが、黙っておいた。サンプル云々の話をすると、こちらも痛いところを突かれかねない。


「わかった。疑って悪かった」


頭を下げる。これが嘘だったら頭を下げた分が無駄になるが、その時は命で払ってもらえばいいだけである。


「気にしないでください。ええと、お役に立てることであればなんですが、確かオリヴァー氏はこんなことを言ってましたよ。“墓参り”しなきゃ、と」

「墓参り」


ここ数日読んだ新聞記事を思い浮かべる。彼が墓参りするとしたら。


「戦友かな」

「そうかもしれないですね。逮捕される前に改心したんじゃないですか」

「改心ね……」


あまり腑に落ちなかったが、今回『ユーフィット医院』に査察に来たのと合わせると、改心説もまあ頷ける。




ガウナはさっそく城に帰り、資料を漁った。途中珍しく内務副大臣のユリズ・クリードが来て、何やら嫌味を言って帰ったが別に気にしないことにした。


「えーと、戦没者の墓はと」


広げた地図から目的の場所を探す。


「あった」


運河の向こう岸。ちょうど、アレリア監獄のある方の岸に、十五年前、帝国との戦争で亡くなった人々が眠っている場所がある。


「犯罪者と死者を一緒くたにするとか……」


ガウナは呆れたように言う。が、運河の近くに墓があるのなら、ライケットの死体がどんぶらこと流れて来たことも頷ける。

王都でも都市部にあるユーフィット医院で殺して、離れた運河に投げ込むには、それこそ“抜け穴”でも使わないと難しい。と、すると、ライケットが殺されたのは、戦没者の墓地であるということになる。


運河を渡るには、跳ね橋を渡ることが必須だから……。ガウナは少し考えた後、コンコンと執務室の壁をノックした。






ユリズは、部下であったライケットの死を知らされ、深い深いため息をついた。


「内務省、もしかして呪われてる? スピレードが死に、ライケット君が死に……」

「それだったら外務省もですよ。無事なのは財務省だけです」


ジルトのことを調べに行っていたらしいブランは、コーヒーを飲んで苦笑い。


「なんだかきな臭くなってきたね。ライケット君は探られて痛い腹だったし、不良債権とも言えたから、別に未練はないけど。でも、最後の最後に、あのゲロ糞シャブ男に抗うことにしたんだね」


ライケットが最後の仕事に選んだのは、“七つ傘通り南四丁目三番地”にある『ユーフィット医院』の査察。トウェル王が密かに進めていたある計画の舞台である。


ライケットは心身ともに腐り切った男だったが、最後の最後に作られた“正しさ”を擲つことができたわけか。


「天国では幸せになってくれよ」


南無南無……と適当に十字を切るユリズに、ブランは「やるなら真面目にやってくださいよ」と呆れ顔。


「それで? 逆に宰相が殺したという説は?」

「九十九パーセントないかな」


ユリズは首を横に振った。心底残念そうに。


「探りを入れてみたけど、ライケット君が死んだことで仕事が増えてイライラしてたよ。いつもなら嫌味の一つや二つと媚びが返ってくるのに、終始無言だったな」

「じゃあ、お手上げですね。そもそも、予知できるはずのダグラスが、なんで死んだのかもわからないし」


確かに。彼らは葬儀の場でその特殊な予知能力を暴露され、今「自分たちだけ生き残ったのは卑怯だ」と世間にバッシングされているはず。自分の身を守ることに長けているはずのダグラスが殺されることを享受するとは。


「案外、予知能力なんて大したことないと証明するために、ダグラスの誰かが殺したりして」

「簡単に殺されるダグラス、か。でもそれだと、殺したダグラスがとても恐ろしい存在に見られてしまうなあ」

「あ、そうか。うーん、難しいですねえ」


首を捻るブランに、ユリズは「そんなことより」と話題を転換。


「ジルト君について、情報は集まったかい?」


ブランは頷いて、書類を机の上に置く。


「まだ途中ですが、交友関係とセブンス・レイクとの繋がりはわかりました。驚いたことに」


ブランは一呼吸おき。


「あのガイアス・アドレナ男爵の娘と、交流があるようですよ」

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