標的の親友
あの少年と会ってから、一週間が過ぎた。
それだからだろうか。ガウナは、しばらく見ていなかった彼女を見るようになった。
今日も、ガウナが王城の自室で仕事をしていると、一人の少女が目の前に現れた。
歳の頃は、リルウと同じ。桃色のドレスに身を包み、その相貌は、金の髪に隠れがちだが美しい。
彼女は何も言わずに、綺麗な草色の瞳でガウナを睨め付けていた。
その瞳を見るたびに、ガウナは安心するのである。
「そうだ、見ていてくれ」
恍惚。眉尻が垂れ下がり、目が細められる。ガウナはあの時のような極上の笑みを浮かべ、そして……、
「ガウナ様」
ノックの音。
部屋に入ってきたクライスは、執務机の前に立つ。少女はいつのまにか、消え失せていた。
「お忙しいところ、申し訳ありません。アゼラ伯爵が、面会にいらっしゃっています」
久しぶりに会った伯爵は、ずいぶん緊張しているようだった。
「このようなところまでいらっしゃるとは。どうされたのですか?」
言外に、なぜ王城に来たのかと問うた。彼にはある任務が言いつけられているはずだが、その任務の経過は手紙で知らされていた。
「至急、お耳に入れなければならないことがございまして……!」
細面に脂汗をびっしりと浮かべ、アゼラは声を震わせた。あまり、良い報告ではなさそうだ。
「ハルバ・ダグラスを引き抜くことに失敗しました……!!」
やはり、ことを性急に進ませすぎたのだろうか。
セブンス・レイクの名前を出されて、こちらとしても焦ってしまったと、ガウナは心の中で嘆息する。
アゼラの知り合いに、件の学園の女生徒がいて、その女生徒の協力のもと、計画に必要なハルバ・ダグラスをこちら側に引き入れるつもりだった。
女生徒はアゼラの元同僚の娘らしく、父同様、お人好しであるという。今は母と妹を人質にとっているという話だったが……。
「ハルバに告白をさせ、街中に連れ出すという計画だったのですが……監視役の話しによれば、彼女にはよりにもよって好いている人間がいたらしく……ハルバにも筒抜けで、怪しまれたようです」
「恋心は隠せなかったわけだね」
お人好しであるが故に、アゼラの人質作戦に従わざるを得ない。しかし、お人好しであるが故に、気持ちを隠すのが下手。自分の恋心を隠せなかったわけだ。
「人を駒として見ているからそうなるんだ。君は彼女のお人好しを、自分の言うことを聞く都合の良さにしか捉えなかった。まったく彼女の内面を理解していなかった。彼女の父の時と一緒だね」
そう言うと、アゼラの顔が赤らんだ。これは怒りである。
「あの男は、我々の崇高な計画を理解できなかった。私と違って、才能があるにも拘らずです」
ーー我々、ね。
「だから殺した?」
「いえ、あれは轢死ですよ」
爆発する寸前で、アゼラは踏みとどまった。
「あの男の娘は、利用するだけ利用して、生かしておいてやろうと思います」
贖罪なのか、なんなのか……この男もまた、複雑な男である。
それはともかく。
彼女に好きな人物がいる。これは僥倖である。脅す材料が増えたといっても良いだろう。
「家族に、思い人か。人質はとればとるほどこちらのリスクが高くなっていくけれど、さて、どうしようかな」
できれば、その思い人とやらを、確保しておきたいところだが。
「思い人を引き込むことも、できるかもしれません」
アゼラが呟く。
「実は、彼女の思い人は、ハルバの親友です。今度は彼を脅して、親友を連れてこさせては?」
「なるほど、それは良い案かもしれないね」
「私は個人的な感情で、あの娘を冷静には見られません。が、その思い人でしたら、内面を理解した上で操ってみせます」
「うん。頑張ってくれ。ところで、その思い人の名は?」
「ジルト・バルフィンという学生で….…アウグスト卿?」
「…………いや、やはりその思い人とやら、私が請け負うよ。彼とは、一回腹を割って話し合ってみたかったんだ」
まあ、そーなるよね!




